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第二章 精霊産みといろいろ
69.気合入れてやるさ Side サミー
しおりを挟むSide サミー
『あと半年』
サヤカの口から出た言葉で心臓が嫌な音を立てた。
慌ててブローチが売れてるからと言ったら、否定された。上手くいかなくたって俺が仕事するから、なんて言いそうになり誤魔化して口を噤む。
話が途切れたあと頭の中がガンガンした。
そんなふうに考えてんのか? もうすぐ終わるからそれまでの我慢って? どう思ってんだ? 嫌われてはいねぇって思ってたのは俺の自惚れだったのかよ。でも2人でいるときのサヤカを思い出してもやっぱり楽しそうに見えんだよなぁ。まあ陰口言われるほど嫌われてても気付かねぇからな、俺。
あー嫌なこと思い出しちまった。
残ってくれんなら理由はなんだっていい。他の男だってかまわねぇ。俺じゃ残るほどの理由になんねぇってわかってんだ。こうして一緒に土捏ねて喋って手を握れるならいい。
残ってくれって言うか? 俺が言っても意味ねぇんだよな。俺が言っただけじゃ理由になんねぇんだから。
今はそれよりヴェルナーだ。前から思ってたけどサヤカに無理をさせすぎだ。なんであいつが気を遣わねぇでサヤカが気を遣うんだよ。
顔も体も仕事も地位もあるけど、それとこれとは別だし好き放題し過ぎだろ。
夜になって3人でベッドの上に座った。ヴェルナーはサヤカに齧られて悶えてる。よりにもよってアソコを。見てるだけで怖気がした。ひとの好みにとやかく言うつもりはねぇが目の前でやんのは勘弁してほしい。
ヴェルナーがサヤカに縋り付いてるのは見ててわかった。サヤカに宥められてるのを見ると同情心がわく。でもそのあとがいけねぇ。
サヤカが声を上げてイってるから気持ち良いんだろうと、俺もあんなにイかせてみてぇなと途中まで思ってた。でもなんかおかしい。目を開けてもどこも見てないような感じで、声だけあげてる。
ヴェルナーが止まったときに声を掛けた。
「ヴェルナー、そろそろ代わってくれねぇか」
「あ、ああ。そうだった」
ヴェルナーが体を離しても荒い呼吸を繰り返してジッとしてる。抱きかかえて唇にコップのふちをつけると静かに水を飲んだ。それでようやく目の焦点があって俺を見る。自分のことに気付かないまま俺に謝って眠った。
なんだこれ。
「いつもこうなのか?」
「なにが」
「いつもサヤカは意識なくすのか?」
「ああ、大体そうだな」
「何やってんだよ、拷問じゃねぇか」
「そんなわけない。嫌がってないし反応してる」
ヴェルナーがムッとして答えた。
「反応は、あれは反射だろ。体力違うのにあんなぐったりするまでヤルことねぇだろ」
「……ぐったりは少しやり過ぎたとわかってる」
「いつも意識失くしてんならわかってねぇじゃねぇか。失くす前に止めろよ。休憩もさせねぇで」
イライラする。なんだよ、毎回これじゃ辛ぇだろ。なんでわかんねぇんだ。
「くそっ、知ってたら止めたのに」
「サヤカから何も言われていない」
「途中で意識とんでんのに何か言えっかよ」
バカか。バカだな。バカヤローだ。
イラついてあんま眠れなかった。
精霊産みで目を覚ましたサヤカは口付けするヴェルナーに笑ってて、それがまた俺をイラつかせた。もう一度眠ったサヤカをそのままにして、ヴェルナーは仕事に行き俺も部屋に戻った。
朝起きる時間を待ってラルフの部屋に行く。
「おう、早いな。なんだよ、ずいぶん機嫌ワリィじゃねぇか」
「今日はサヤカを休ませてくれねぇか」
「クッ、盛り上がり過ぎたのか?」
「笑いごとじゃねぇよ。ヴェルナーのバカヤローがサヤカをぐったりするまでせめてんの見たら笑えねぇって」
「またか?」
「……いつも意識失くしてるらしいぞ」
「アイツ、言ったのに……、クソ」
「2人にしねぇほうがいい。幸い2人組だからよ、次はもっと早く止める」
「頼んだ」
部屋に戻ってため息をつく。あれじゃあ、あと半年の我慢だって思われてもしゃあねぇな。サヤカも言やぁいいのに。意識飛ばすから分かってねぇのかな。
昼メシのあとでサヤカの部屋に行った。全員の前で話したらサヤカがまた気を遣うだろうから。
「今日は休んでゆっくり寝てくれ。ラルフに断っといたから」
「そうなの? ありがとう。昨日ごめんね」
「俺こそすまねぇ。もっと早く止めりゃあよかった。なぁ、いつもあんなんなのか?」
「うん、だいたい」
「ひでぇな」
「そうかな。途中でわかんなくなっちゃうから覚えてないんだけど」
「そういうのが好きなのか?」
「そういうわけじゃないよ」
「もっと自分を大事にしてくれよ。しばらくは2人にさせねぇから」
「わかった」
「今日はゆっくりしてくれ」
ドアまで見送ってくれたサヤカは『ありがとう』と言って笑い、俺のおでこに口付けをした。部屋に戻って泣きそうな気分をため息と一緒に吐き出した。半年近くも気付かなかった自分が不甲斐ない。ひでぇことされてんのがわかってないサヤカが切ない。『誰も悲しむ人はいない』と言ってた生い立ちに関係あるのかもしれねぇ。俺はサヤカのこと何も知らねぇな。
頬を叩いて気合を入れ直す。
あと半年あんだ、これから知っていきゃあいい。これからヴェルナーに目を光らせて俺がうんと大事にすりゃあいい。俺がしけたツラしてちゃサヤカに気を遣わせるからな。笑って笑わせて楽しく過ごせば、少しは残りたくなるかもしれねぇし。そうじゃなくたって楽しい思い出になったほうがいいからな。
立ち直り早ぇのが俺の良いところなんだ。しっかりやるさ。
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