6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

文字の大きさ
70 / 119
第二章 精霊産みといろいろ

70.味方になるんだ Side ヨアヒム

しおりを挟む
 
 Side ヨアヒム

 今日はラルフが先にサヤカとくっついている。
 それを眺めて不安になる。こないだは見たことないサヤカだった。俺の知らないことを2人でしてた。あんなに恥ずかしがるのにラルフには見せてる。
 もしかしてと疑うと全部がそう見えた。サヤカが誰を見てるか誰と話すか目で追って、疑いがどんどん膨らんだ。

「ヴェルナーの相手、大変だったな」
「うん、でもよくあるから」
「我慢しねぇで言えよ、助けるから」
「ありがとう」

 サヤカは目をつむって口だけで笑った。

「ヴェルナーで大変だったし、今日は優しくするか」
「優しく?」
「神官に甘くしてんだろ。ヨアヒムとも。そっちのがいいならオレもそうする」

 ラルフの肩に頭をのっけてるサヤカが動かなくなった。

「……サヤカ? ……どうした」
「……なんでも、ない」

 サヤカの声は涙声で、泣いてるんだとわかったら頭が真っ白になった。
 ラルフが涙を拭って胸に抱きしめようとしたら、逃げた。

「……ごめん。今日は一人にしてもらってもいい? ごめんね」

 俯いて目を隠したままそう言った。苦くて硬い石みたいな声で、俺たちにいてほしくないんだと分かった。俺もラルフもお休みだけ言って部屋を出て、何も話さないまま部屋に戻った。

 サヤカが泣いた。震えてた。優しくするのが嫌なの? ラルフだから? 俺と神官は平気なのに、ラルフだとダメになる。
 サヤカの目線を思い出す。仕草を。言葉を。態度の違いを。引っ掛かってたものがぜんぶ繋がって気付く。

 悲しいのに腹が立つよくわからない気持ちで、もう一度サヤカの部屋へ向かった。サヤカに何か言わないと気が済まなかった。言葉にならないものが胸の中でグルグルしている。ノックもしないで部屋に入り、ベッドの上のサヤカまで一直線に歩く。サヤカは薄い布団の中で丸まってた。

「ラルフが好きなの?」
「……知らない」

 サヤカの震える声でハッキリわかった。ラルフが好きなんだって。そう思ってたのに本当のことに決まったら体中から力が抜けてバラバラになりそうだ。何かがぜんぶ壊れてしまう。

 鼻をすする音が聞こえて、まだ泣いてるって思った。

 でもラルフはサヤカのこと好きじゃないのに。俺は好きなのに俺じゃダメなんだ。サヤカだって知ってるのに俺は選ばれない。

 悲しくてぼんやりした頭でサヤカを見る。布団をかぶって丸まったサヤカは小さくて、なんだか子供の頃を思い出した。
 イジメられて布団にくるまって泣いてたっけ。泣き止んで晩ご飯の椅子に座ったら、母さんは抱きしめて兄さんが次は助けるって励ましてくれた。
 家族とのあったかい思い出。

 サヤカはずっと泣いてるのかな。泣いたあとで食卓に座ったらきっとみんな抱きしめてくれるよ。
 でも泣いてたことはない。見たこともない。だから驚いたんだ。泣かないのは俺たちが必要ないから? でもラルフにも帰ってって言ったっけ。じゃあ誰もいない。一人が良いの? でもそれならなんで泣くの?

 ああそっか、ラルフのことで泣いてるなんて誰にも言えないんだ。だってラルフ以外のみんなは、サヤカが好きだから。誰にも言えないで一人で泣いてみんなには笑いかける。

 途端に胸が痛んだ。

 今まで笑ってたけど俺が知らないだけで、一人で泣いてたの?
 励まされたり優しくされたりしたことを思い出す。何も言わなくてもそうだった。いつも俺を助けてくれた。
 俺が何も言わなくたって家族は味方してくれた。サヤカもそう。俺はサヤカに何をしたっけ?

 でもそれはサヤカが頼ってくれないから。頼ってくれたら優しくするのに。

 ラルフのことで泣くサヤカに? 本当にできる?
 ……今も泣いてるのに俺は見てるだけだ。それにラルフを好きなことに腹を立ててた。
 サヤカはわかってたんだ。気持ちに応えないと助けてもらえないって。そんなの、そんなんじゃ頼るわけない。
 サヤカは俺たちが、サヤカを抱けるから優しくしてると思ってるのかもしれない。でもそれは本当だ。今だって俺は優しくできないんだから。
 サヤカは今までも一人で泣いて、これからも一人で泣くんだ。

 初めて会ったときのことを思い出す。
 知らないうちにつれてこられたって言ってたこと。巫女なんかやりたくないって言ってたことも。
 一人ぼっちのサヤカは勝手にこっちにつれてこられた。知らない世界で、俺たちと寝ないと苦しめるって言われて、やりたくないことをやらされた。初めて会った俺たちに笑いかけて優しくしないと居場所もなかった。それでも頑張って優しくしてくれたのに、気持ちがこもってないからって誰にも助けてもらえない。

 俺たちが酷いことしたんだ。酷いことしたのに、サヤカが俺のこと好きにならないって怒ってる。

 涙があふれ出して止まらなくなった。
 俺はなんて酷いことしてるんだろう。
 一人ぼっちで布団にくるまるサヤカが悲しい。それをさせてる自分が苦しい。こんなんじゃ好きになるわけない。こんなの嫌われて当然だ。だって俺、サヤカの気持ち考えたこともなかった。俺の気持ちだけ押し付けてた。

 小さいサヤカを布団の上から抱きしめる。

「ごめん、サヤカ。ごめんね」

 謝ったって遅い。遅いけど謝らなきゃ。
 それで俺が味方になるって言う。兄さんが言ってくれたみたいに。俺のこと好きじゃなくたっていいって。家族みたいに味方するって言わなきゃ。

「俺のこと好きじゃなくていい、ラルフのこと好きなままでも俺はサヤカの味方になる」

 サヤカは静かにジッとしたままだけど、それでいいんだ。ただの俺の気持ちなんだから。

「寂しかったらそばにいるから。俺がそうしたいだけだから、サヤカの気持ちはそのままで、そのままのサヤカの味方になるから。一人がいいときはそう言って。俺のこと気にしないでサヤカのしたいようにしてほしい」
「……なんで」
「サヤカに優しくしたいだけ。俺はもう充分もらったからもういいんだ。……そばにいてもいいならくっついて教えて」

 震える鼻声にそう答えたら布団にくるまったままのサヤカがくっついた。俺は抱きしめて背中を撫でる。

「泣いても笑っても怒ってもいいよ。サヤカがいる分だけこうしてるから」
「……ありがとう」

 小さくそう言って俺にもっとくっつく。ずっと撫でてたらいつの間にか寝息が聞こえてきた。眠るサヤカの顔を布団から出す。少し腫れてるまぶたに口付けて涙で湿った髪を撫でた。

 これからは俺が優しくしよう。サヤカが俺を好きじゃなくても俺が好きなのは変わらない。俺がしたいからするだけ。それだけでいいんだ。


しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...