6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

文字の大きさ
71 / 119
第二章 精霊産みといろいろ

71.泣いたこと、甘やかしについて

しおりを挟む
 
 ラルフの前で泣いてしまった。止まらなかった。

 リーリエとヨアヒムみたいに優しくしようかって、じゃあラルフと私が今までしてきたのはなんだったんだろうって思った。ラルフが褒めてくれるのも充分優しいと思ってたのに、ラルフにとって当たり前のことだから優しいうちに入らないのかとか、それなら当然他の相手にも言ってるんだろうって思って。自分は特別みたいに勘違いしてたのがバカで、それが当たり前なら、言われたことない私は誰からも愛されてなかったんだなと気付いて。
 好きじゃないフリして目で追わないようにして顔を強張らせても、勘違いするほど好きなままだってわかって。

 どうにも出来なくて2人に帰ってもらって泣いてたら、ドアの開く音がした。ラルフを期待した耳にヨアヒムの声が聞こえて、まだ期待してるバカな自分に泣けた。ヨアヒムにはバレていたらしい。違うとは言えなかった。嘘はつけなかった。

 よくわからないけど、泣きながら味方になると言ってくれたヨアヒムにくっついた。もう自分を誤魔化すのにも疲れてた。悲しいのにも。ヨアヒムにくっついて泣きながら眠った。ヨアヒムは優しい。私だったらラルフが他の女のことで悩んででもムカつくだけだと思う。
 次の日の張れた顔はリーリエに回復魔法をかけてもらった。

「泣きたくなったら俺の部屋にくるといいよ。何もしないし、一緒に眠ろう」
「……うん、ありがとう」

 起きてからわけを聞いたら、家族からそうやって慰められたからと言った。こっちに家族がいない私の家族になると、家族だから甘えていいのだと言ってくれた。

 甘えていい、と言われたのは初めてだ。初めて。
『頼って』はこっちでみんなに言ってもらったけど。頼る、は何か正当な理由があれば問題に対処してもらえる気がする。でも、『甘えて』は理由とか何もいらない。
 ただ甘えることを許してもらうってなんて嬉しいんだろ。私はヨアヒムの優しさに感謝して、とても幸せで切ない気持ちになった。

 ラルフには疲れ気味なのだと誤魔化した。心配してくれたけど笑って大丈夫だと答えた。
 大丈夫なんだ、ヨアヒムに甘えるから。

 しばらく休みにしてもらい、ヨアヒムと眠ってリーリエを可愛がっている。

 甘やかされるのは気持ち良くて、どんどんダメ人間になっていく。ダラダラデロデロしてヨシヨシされるって心地良過ぎて元に戻れる気がしない。なんか、リーリエがメチャクチャ懐いてくる気持ちがわかった。甘やかされるって幸せなんだよね。なんも心配しないで安心できる。リーリエに共感してしまい、かなり甘やかし中。リーリエも幼児退行気味だ。甘えたことない人が甘えると際限なくなっちゃうのかも。


 数日のお休みのあとリーリエとゲルトの日になった。見張りはラルフ。
 こないだのサミーの日みたいに朝まで一緒にいたいなら、手だけ見せて内緒にしてもらったら、とリーリエにすすめたら硬い顔して頷いた。

 2人に手を見せたあと、緊張で動けないリーリエに代わって説明した。普段は魔法で隠してて、内緒にしてほしいと。察しの良いラルフはなんでもないふうに了解してくれ、ゲルトも頷き一安心する。

 先にリーリエと寝ることになったけど緊張したせいか、いつもよりしがみついてきた。冷や汗で湿った体を抱きしめてゆっくりキスをする。大丈夫だと慰めながら可愛がった。
 受け入れてくれる人が増えたらいいな。理解は難しくても、知ってて否定しない人がいるだけで違うだろうから。
 目くらましを掛けていないリーリエの素顔を撫でる。まばらな眉毛にキスをする。歪んだ小鼻に、硬くなった皮膚に。可愛い耳たぶに、綺麗な肌の首に。リーリエがうわ言のように私を呼ぶから、リーリエの名前を呼び返した。不安になったら好きかどうか聞いてくる。だからずっと好きだよと答えて安心をあげる。

 そうしてもうそろそろ交代しようと考えてたら、ラルフから声が掛かった。ゲルトの調子が悪いから今日は戻るって。獣化のあれやこれやで獣人も色々とあるけど、体力があるから一晩寝たら回復すると説明された。よく分らないけど、確かに調子が悪そうだったので見送ってお休みを言った。

 ベッドに戻ったらリーリエに抱き付いて迎えられた。

「獣化を頻繁にしたら体調崩すとかあるの? まるっきり姿形変わるし」
「獣化状態を長く続けていたら元に戻った時に精神的な疲労が酷いという話は聞いたことがあります」
「それは回復魔法で治る?」
「精神的なものは治せません。獣人は回復力が高いので数日静かにしていれば大丈夫ですよ」

 回復魔法は万能じゃないんだ。そっか。

「私だけになりました、巫女」
「そうだね」
「脱いでください」

 見送りのために着たパジャマを脱いで横になるとリーリエが抱き付いて胸に顔を埋めた。チュッチュと乳首を吸ってるので頭を撫でる。リーリエはおっぱいが好きらしく、いつも眠るまで触ってる。
 髪を撫でながら話しかけた。

「ねぇリーリエ、次の春には私いなくなるでしょ?」
「っ、……はい」
「それまでに満足できなかったら、ラルフ誰か紹介してもらったら? 冒険者の人は傷痕慣れてるって言ってたし大丈夫な人を紹介してくれるよ、きっと」
「……でも、きっと、普通の妖精族になって」
「うん、もちろんそうだけど。でも何か、リーリエ以外の問題が起きて満足するのに足りなくなるかもしれないでしょ? もしそんなことがあったらっていう話」
「……はい」
「大丈夫、きっと良い人がいるよ」
「私は、おかしくないでしょうか?」
「リーリエは可愛いよ。家に連れて帰りたいくらい」

 リーリエがギュッとしがみついてきたので抱きしめ返す。

「大丈夫。ラルフもサミーも相談にのってくれると思うし」
「はい、巫女。……でも今は満足するためにもう少しください」
「うん」

 リーリエが潤んだ金色の瞳で私を見つめて唇を重ねる。
 何度も欲しがるから明け方近くまで抱き合った。傷痕を見せて情緒不安定になったのに、満足できるかどうか不安にさせることも言ったのは失敗だった。私は余計なことを言ってしまいがち。

 お昼まで眠って下に降りたらゲルトに謝られた。
 獣人特有の問題じゃどうにもならないし、体調悪いときはゆっくり休んでと伝えたら静かに返事をした。ゲルトは自分を卑下してるから、気にしないでほしいけど気にしちゃうんだろうな。


しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...