6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第二章 精霊産みといろいろ

75.精霊祭 後編 Side 神官(シリル)

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 Side 神官( シリル )

 感動を引き摺ったまま祈りは終わり、神殿長から退出していく。万雷の拍手を背に全員が控えの間に戻ってきた。
 神殿長が精霊の父母に言葉をかけてらっしゃるのをぼんやりと眺めてたら、ニコルにつっつかれた。産屋棟の昼食を宿舎棟で受け取らなきゃなんないの忘れてた!
 ルグラン様たちと別れて宿舎棟に行き、昼食を詰めた籠を受け取った。今日の神殿はどこも人だらけでワゴンで食事を運ぶなんて無理だから簡単なサンドパンだ。

 産屋棟に着くとルグラン様たちは衣装を脱いでいつもの服装になっていた。昼食の籠を渡すときに『精霊映し』の感動を伝える。もっと語りたかったのにニコルに話が長いって文句言われた。なんだよ~。

「シリル、ニコル、昼メシに行くんだろ?」
「はい」
「屋台で珍しい食いモンあったら買ってきてくれねぇか? お前たちの分も出すからさ」
「やった! はい!」
「頼むわ」

 ラルフ・ベックに渡された小さい革袋をスられないように握り締めて、人の溢れる騒がしい神殿前広場にきた。ここぞとばかりに立ち並んだ屋台の近くは食事をする人たちが石畳の上に点々と座ってる。頭のスカーフに精霊祭の花を飾った家族連れの小さい子が、はしゃいで飛び跳ねてるのが微笑ましい。すれ違う人たちから『精霊映し』に感激した声がいくつも聞こえた。さすが、俺たちのルグラン様!

 人波をかき分けながら屋台を覗いて歩く。なんせ奢ってもらえるんだからウキウキだ。

「いや~、いい人だよね~」
「食い物もらうとすぐそれだ」
「いいじゃないの。あ、あれ見たことない果物だ」

 屋台の親父が今日のために港町で仕入れた外国産の果物だと言った。潰れて売り物にならないものをほんのちょっぴり味見させてくれる。

「うぉー、なんだこれ。甘くて爽やかで変わってて美味しい! これをお土産にしよう!」

 指で作る輪っかくらいの丸い果物を1人1つ、俺たちの分も。小さくて高いけど今日しか食べられないしな!
 肉包みをぱくつきながらこんな調子で色々買い物をした。こんなに楽しいのに精霊の父母は気軽に出歩けなくて気の毒だから、渡されたお金を全部使ってお土産を買うのは気遣いってもんだよね~。

 お土産をテーブルの上に置いて空っぽになった革袋を返した。

「ハハッ、持って帰ってくんの大変だったろ、ありがとな。腹いっぱい食ったか?」
「はい! ごちそうさまでした! あっ! これ、これ美味しかったんですよ」
「見たことねぇな」
「船で運んできた果物って言ってましたよ。食べたことない味で」
「食ってみるか」

 みんなが果物を食べて不思議な顔になるのが面白くて笑った。

「すんごい美味しいですよね?」
「ああ、なんつーか、旨いけどなんて言えばいいかわかんねぇ味。サヤカはどうだ?」
「美味しい。ライチっぽくて」
「似たような果物があんのか?」
「うん。熱い国の果物だった。……半分食べる?」
「いいんですか!?」

 あっという間に食べ終わって淋しくなってた俺に、巫女がナイフで半分に切って分けてくれた。嬉しいよ~。飲み込むのをガマンして口の中で味わう。

「美味しい物好きなの?」
「はい。変わり者って言われますけど美味しい物をいっぱい食べたいんですよ~」
「食べたいよね。お菓子も好き?」
「好きです! いつも楽しみにしてます!」
「なら、良かった。リーリエと仲が良いの?」

 おっ!? ルグラン様のこと聞きたいのかな? なら、ルグラン様が一番だって教えなきゃ。

「ルグラン様は仕事できるし丁寧だし、綺麗で優しい俺たちの憧れですよ~」
「……うん、丁寧に仕事するよね」
「ルグラン様くらい綺麗な人はあまりいませんよ! それに優しいし! 大事にしてください!」
「うん、大事にする」
「シリル、大事にするのは巫女のほうですよ。精霊王が呼んでくださった方なんですから」
「はい!」

 そうだった! あんな綺麗な精霊産むんだから巫女も大事にしないとね~。わかってますわかってます。

「……すいません、巫女。私は医療天幕の手伝いに行きますね。今日は外に出掛けられませんから部屋でゆっくりお休みください」
「頑張ってね、リーリエ」

 巫女がルグラン様を玄関で見送った。うんうん、ルグラン様を大事にしてくれるなら巫女も大事にしなきゃね~。
 俺とニコルはそのあと、いつも通りに掃除をしてから洗濯物を持って宿舎棟に向かった。

「なんかさ~、やたら警戒してたけどなんにも起こらなかったね~。ルグラン様が夫だってバレないように専用護衛つけないって言ってて、心配だったけどこれなら大丈夫そう」
「そうだな。医療天幕も護衛に囲まれてるらしいから、大丈夫だろ」
「夕食も屋台か~。楽しみ~」
「あ、産屋棟の夕食いらないって言いに行かなきゃ。シリルが買い過ぎるから」
「だって~せっかくのお祭りに出歩けないなんて可哀想なんだもの~。でもさ、精霊映し綺麗だったよね~。あんなに綺麗な精霊を産めるならいくらでも我慢できるかも」
「……ああ、すごく綺麗だった」

 ニコルが珍しく感動を込めた声で返事をした。

 ルグラン様がいない間、参拝者がいなくなるまで外に出られない父母のために産屋棟で待機することになってる。用事を済ませて戻ったらヴェルナー・フォン・スピラが玄関の前で警備していた。警備隊も忙しいから休んでるひまがないんだろうな。
 中に入るとラルフ・ベックとサミー・ティティエがテーブルを挟んでお茶してた。この二人は喋ってるのをよく見る。というか、他の夫が喋らなさすぎなんだよ。

「待機ご苦労さん。用事もねぇし座ってろよ」
「ありがとうございます」
「随分と神官を慕ってんな」
「ルグラン様はお優しいです。腹減ってたら果物わけてくれるし、魔法が下手でもバカにしないし。俺、細かいの苦手なんですよ~。今日みたいな声の拡散もできたことない」
「風属性か。風のヤツラはたいがい大ざっぱだからな。オレも含めて。お前って精霊にからかわれそうだよな」
「そうなんですよ~、たぶん遊ばれてます。いや~でも、あんなふうに駆け回って遊んでるなら、なんかもういいかなって思いました」
「『精霊映し』な。オレたちも初めてみたときは感動したよな」
「ああ。何回みてもじ~んとするっつうか、そんな感じだな」
「羨ましいです! 俺も夫に選ばれたかった」
「次は200年後だっけ? 神殿の妖精族なら生きてるだろ」
「子供も作れない年じゃ選ばれませんよ!」
「そういやそうか、ハハッ、爺さんだもんな」

 そのあとも他愛のないお喋りをした。ルグラン様が戻ってきたら俺たちの今日の仕事が終わる。
 ニコルと一緒に夜の広場に出かけた。精霊祭のときだけは夜まで屋台が出てる。ランタンをあちこちにぶら下げたほんのり明るい広場はいつもと違う雰囲気で、お祭りの楽しい余韻が夜風に含まれてるみたいだった。昼間より少なくなった人通りの中、屋台で買った果実酒を飲みながら歩く。酒のせいか、精霊を思い出すとあのホワホワした光が体のすぐそばにいるようでくすぐったい。風の精霊の楽しそうな駆けっこが頭に浮かび、思わず噴き出した。

「なんだよ、いきなり」
「風の精霊を思い出してさ~。あははは。俺も一緒に遊びたいよ~」
「俺も火の精霊思い出してた。俺が魔法を使ってるときは、見えないけどあんなふうに光ってんだな」
「最高だね、精霊祭」
「ああ」

 見えないけど存在してる綺麗なもの。世界に欠かせない大切なもの。それを産み出してくれる精霊の父母への感謝が湧き上がる。
 ほんの少しだけ手の平に起こした風が、前髪を吹き上げて飛んでった。やっぱり遊ばれてる。あはは。俺の魔力で精霊が遊ぶ。自分と世界に繋がりがあるんだって感覚、この世界に俺もいていいんだって思える喜び。

 心地いい騒めきに流されながら、沢山の星が瞬く夜空を見上げて目の中の水が引っ込むのを待った。


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