104 / 119
第二章 精霊産みといろいろ
104.旅立ち
しおりを挟む私たちは神殿を出た。ヴェルナーは警備隊として外に、残りの私たちは荷馬車の中で思い思いに座っている。リーリエは私を抱きしめて離さない。神殿から離れたばかりで寂しいんだと思う。
「街に着いたらゲルトの実家に挨拶して、探してもらった新居のお礼を言わないとね。ちょっと緊張する」
「両親は私が結婚できると思ってなかったから、サヤカをありがたがってますよ」
「そうかな。どんな家か見るの楽しみ」
「必要なものは大体揃えてもらってますから、生活するのに問題ないと思います」
「うん、ありがたいね」
コッチの家は大体家具付きになっている。新しいものがほしいときは注文して作る、もしくは売り出されてる家にある中古の家具を買うとか、工房にある見本品を買うとか、そんな感じらしい。布団もベッドに合わせて注文か中古になるのでこっちも揃えてもらった。
細々したものはこれから買い揃える。
「サミーとヨアヒムは勤め先を探さなきゃね」
「ああ。ゲルトの実家に人探してるとこあるか聞いてもらってんだ。世話になりっぱなしで悪ぃな」
「いえ、付き合いがあるので大丈夫です」
「私も働かないと。どういうとこがあるかな」
「サヤカは家にいりゃぁいいだろ」
「家のことするの?」
「私も一緒にいます。2人で家のことをしましょう」
「リーリエと私で家のことするのか~。掃除嫌いだからリーリエにお願いする」
「嫌なら使用人を雇いますよ」
リーリエの指をいじりながら言ったら、ゲルトが魅力的な提案をしてくれた。
「大丈夫です。私が巫女と一緒にこなします」
「リーリエはサヤカと2人でいてぇだけだろ」
「そうです」
ラルフのツッコミに涼しい声で返答する。リーリエってこういうとこあるよね。面の皮厚い、みたいな。
移動のあいだはおしゃべりしたり昼寝したり、ご飯はヴェルナーも一緒に食べた。周りに警備隊の人がいるので夜は眠るだけ。
3日目の昼、港町についた。警備隊と別れた私たちはゲルトの実家へ寄り、新居まで案内してもらった。
港の喧騒から離れた高台の住宅街にある白壁の二階建て。荷物を降ろした荷馬車は貸してくれたゲルトの実家へ帰し、ヴェルナーは仕事に戻った。
7人家族なので広い。リビング、ダイニング、台所、お風呂場もある。少し狭い個室が6部屋、広い主寝室は神殿の頃のように私に割り当てられた。
エントランスにある階段から二階へ上り、主寝室の木の窓を開けると真っ青な海が見えた。港へ続く石畳の道、白壁の家々、白い花を咲かせているのはレイルードの木。
随分と遠くにきてしまったらしい。
「……精霊王につ~れられて、……ってね。赤い靴じゃないけど。そもそも死んでるし」
ぼんやり独り言をつぶやいたら、お腹の中がボヨンボヨンし始めた。この感じは覚えがあるぞ。精霊王の素のお玉ちゃん達か?
お腹を撫でながら気になってたことを聞く。
「みんなで戻って来たの? おかえり。石なかったよ」
「……誰と喋ってんだ?」
ラルフの声に返事をしようとしたら、お腹がなんか変。手で触ってた精霊王の石が出っ張り始めたので、慌てて服をめくってみた。
石がコロリと床に転がり落ちる。もう一つ出っ張って、コロリ。
「……言ってた石ってこれか?」
「そうかも」
ラルフが出てくる石を眺める。置いてきたって、私のお腹の中だったのか。
コロコロと五個の石が床に転がった。拾おうとするラルフを咄嗟に止める。
「待って。魔力痕が付くって言ってたから、他の人が触っちゃダメなんじゃない?」
「あー、そうか。じゃあ、頼むわ」
「うん」
拾って一つを手渡したら、受け取ってすぐ服の裾に包んで持ち直した。
「魔力を勝手に吸い取るから直に持てねぇな。ずっと持ってると魔力枯渇おこす」
「けっこうな危険物だね」
みんなのもとに戻り、石の説明をした。5つある石はリーリエ以外が持つことに決まっていて、今いないヴェルナーのぶんは私のポケットに入れた。
簡単な片づけを終えて買い物に出かけた。坂道をくだって歩く。お店が立ち並ぶ通りで買い食いしつつ、色々なものを買い込んだ。ラルフとサミーは大喜びでお酒を選び、ゲルトはどこかのお店に行き、ヨアヒムとリーリエと私は食材を色々と買い込んだ。
ヨアヒムが重い荷物を持ってくれたので私は軽いカゴだけを持って帰る。
家に着いたら共同水道の場所を確認するために水汲みをした。こっちの水は洗濯や掃除に使い、炊事の水はヨアヒムが水魔法で水瓶をいっぱいにしてくれたものを使う。薪に火を付ける練習で火打ち金を使ったけど難しい。
ヨアヒムは晩ご飯用にパンを捏ね、私とリーリエはスープを作った。他のメンツは掃除をしたり、ベッドを整えたりしている。人数が多いとこういうとき便利。
夕方、ヴェルナーの帰って来た声が聞こえたので迎えに出ると抱きしめられた。
「……夢じゃないんだな」
「うん、お帰り。お疲れ様」
「一週間ほど休みをもらった。ゆっくり過ごそう」
「うん」
新婚だ~。なんか照れる。
「おい、帰ってきたんなら早く顔出せよ。酒飲まねぇで待ってたんだぜ」
ラルフが呼びにきて、食卓についた。作った料理と屋台で買った料理が並ぶ。ゲルトが手の一振りでロウソクに火を付けた。
それぞれのコップにお酒を注いで手に持つと、サミーが笑って私に声を掛けた。
「サヤカが挨拶するか?」
「え、なに言うの?」
「なんでもいい」
急に言われてもな。みんなの視線が向けられてなんだか緊張する。
ぐるりと見渡せば、いつの間にか馴染んで親しみを感じる顔が並んでる。今更だけど結婚するのか、6人と。多くない? 多いよね。なんで6人もいんの? でも、誰かがかけても寂しいな。……うん、多いけどこれでいい。
「えーと、至らない点は多々ありますが、多めにみていただけるとありがたいです」
「クハッ、なんだよ、仕事の挨拶みてぇだな」
「だってさ~。えーと、家族になるのでみんなで仲良くしましょう」
「ぶふっ」
「サミーまで笑って」
「悪ぃ、悪ぃ、可愛くてよ」
「じゃあ、カンパーイ!」
もういいやと思って、みんなのコップに軽く当ててから口をつけた。サングリアよりはハーブっぽい色々な味がする。
「はー、久々の酒はうめぇ。いやー、飲めねぇのはしんどかったな」
「だよなぁ。神官だって隠れて飲んでるヤツいたのによ」
「いませんよ」
「たまに酒臭いヤツいたって。オレでもほんの少し臭うくらいだから気づかねぇかもしんねぇけど」
「妖精族もたくさんいりゃ、変わり者も出てくるよな」
ラルフとサミーはリーリエを巻き込んで盛り上がっている。
「これはサヤカが作ったのか?」
「うん、リーリエと一緒にね。こっちの食材わからないから。郷土料理みたいなのある?」
「ここは海が近いので魚介類の料理が多いです」
「ゲルトの実家はここだもんね。ヴェルナーのほうは?」
「うちのほうは鳥が多いな。香草も使う」
「じゃあ、あっさりだと物足りないかな? ヨアヒムのうちはどこ?」
「俺の家は森のほうだから豚とか山菜とかだよ」
「みんなのうちのご飯再現するのもおもしろいかもね。明日はゲルトのうちで挨拶してご飯食べるでしょ? レシピ教えてもらえるかな?」
「大丈夫です。気に入った料理があれば聞いてください」
みんな揃ってご飯を食べてると神殿みたいなのに、神殿じゃないからなんか変な感じ。久しぶりのお酒は酔いがすぐにまわり、あまり飲まないうちに頭がポヤポヤしてきた。
みんなの顔を見渡すと改めて不思議。6人は私のこと好きだって言うけど、私に好かれる要素なんてあるのかな。ヴェルナーは吸引されてるらしいから不可抗力だとしてもさ。あ、サミーは自分より背が高いのが好みだって言ってたから、私も好みの範囲か。あとは、なんでだ? そういえば匂いの相性がいいって話だったか。これもなんか本能的なもんか。
精霊王が相性いいの集めたって言ってたっけ。なら、不思議でもないってことかな。
「……サヤカ、酔ったのか?」
「うん? うん、そうみたい」
話しかけられてるのに気付かず、ぼんやりしてた。
「もう寝るか?」
「うん、久しぶりにお風呂に入りたい」
荷馬車の中で体は拭いたけども、3日入らないと辛い。頭をちゃんと洗いたい。ヨアヒムとゲルトが用意すると言って席を立ったので、ありがたく甘える。
「もう寝んのか? 酒に弱ぇんだな」
「そうでもないんだけど、久しぶりだし引っ越しで疲れた」
「新しい場所は馴染むまでちょっと落ち着かねぇよな」
「うん」
準備ができたと戻ってきたヨアヒムとゲルトにお礼を言って立ち上がると、ヴェルナーに抱きかかえられた。
「歩けるよ」
「わかっている」
そう言って降ろさずにのしのし歩く。酔っ払って揺られるのは気持ち良いな。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる