6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第二章 精霊産みといろいろ

104.旅立ち

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 私たちは神殿を出た。ヴェルナーは警備隊として外に、残りの私たちは荷馬車の中で思い思いに座っている。リーリエは私を抱きしめて離さない。神殿から離れたばかりで寂しいんだと思う。

「街に着いたらゲルトの実家に挨拶して、探してもらった新居のお礼を言わないとね。ちょっと緊張する」
「両親は私が結婚できると思ってなかったから、サヤカをありがたがってますよ」
「そうかな。どんな家か見るの楽しみ」
「必要なものは大体揃えてもらってますから、生活するのに問題ないと思います」
「うん、ありがたいね」

 コッチの家は大体家具付きになっている。新しいものがほしいときは注文して作る、もしくは売り出されてる家にある中古の家具を買うとか、工房にある見本品を買うとか、そんな感じらしい。布団もベッドに合わせて注文か中古になるのでこっちも揃えてもらった。

 細々したものはこれから買い揃える。

「サミーとヨアヒムは勤め先を探さなきゃね」
「ああ。ゲルトの実家に人探してるとこあるか聞いてもらってんだ。世話になりっぱなしで悪ぃな」
「いえ、付き合いがあるので大丈夫です」
「私も働かないと。どういうとこがあるかな」
「サヤカは家にいりゃぁいいだろ」
「家のことするの?」
「私も一緒にいます。2人で家のことをしましょう」
「リーリエと私で家のことするのか~。掃除嫌いだからリーリエにお願いする」
「嫌なら使用人を雇いますよ」

 リーリエの指をいじりながら言ったら、ゲルトが魅力的な提案をしてくれた。

「大丈夫です。私が巫女と一緒にこなします」
「リーリエはサヤカと2人でいてぇだけだろ」
「そうです」

 ラルフのツッコミに涼しい声で返答する。リーリエってこういうとこあるよね。面の皮厚い、みたいな。

 移動のあいだはおしゃべりしたり昼寝したり、ご飯はヴェルナーも一緒に食べた。周りに警備隊の人がいるので夜は眠るだけ。
 3日目の昼、港町についた。警備隊と別れた私たちはゲルトの実家へ寄り、新居まで案内してもらった。
 港の喧騒から離れた高台の住宅街にある白壁の二階建て。荷物を降ろした荷馬車は貸してくれたゲルトの実家へ帰し、ヴェルナーは仕事に戻った。
 7人家族なので広い。リビング、ダイニング、台所、お風呂場もある。少し狭い個室が6部屋、広い主寝室は神殿の頃のように私に割り当てられた。
 エントランスにある階段から二階へ上り、主寝室の木の窓を開けると真っ青な海が見えた。港へ続く石畳の道、白壁の家々、白い花を咲かせているのはレイルードの木。
 随分と遠くにきてしまったらしい。

「……精霊王につ~れられて、……ってね。赤い靴じゃないけど。そもそも死んでるし」

 ぼんやり独り言をつぶやいたら、お腹の中がボヨンボヨンし始めた。この感じは覚えがあるぞ。精霊王の素のお玉ちゃん達か? 
 お腹を撫でながら気になってたことを聞く。

「みんなで戻って来たの? おかえり。石なかったよ」
「……誰と喋ってんだ?」

 ラルフの声に返事をしようとしたら、お腹がなんか変。手で触ってた精霊王の石が出っ張り始めたので、慌てて服をめくってみた。
 石がコロリと床に転がり落ちる。もう一つ出っ張って、コロリ。

「……言ってた石ってこれか?」
「そうかも」

 ラルフが出てくる石を眺める。置いてきたって、私のお腹の中だったのか。
 コロコロと五個の石が床に転がった。拾おうとするラルフを咄嗟に止める。

「待って。魔力痕が付くって言ってたから、他の人が触っちゃダメなんじゃない?」
「あー、そうか。じゃあ、頼むわ」
「うん」

 拾って一つを手渡したら、受け取ってすぐ服の裾に包んで持ち直した。

「魔力を勝手に吸い取るから直に持てねぇな。ずっと持ってると魔力枯渇おこす」
「けっこうな危険物だね」

 みんなのもとに戻り、石の説明をした。5つある石はリーリエ以外が持つことに決まっていて、今いないヴェルナーのぶんは私のポケットに入れた。

 簡単な片づけを終えて買い物に出かけた。坂道をくだって歩く。お店が立ち並ぶ通りで買い食いしつつ、色々なものを買い込んだ。ラルフとサミーは大喜びでお酒を選び、ゲルトはどこかのお店に行き、ヨアヒムとリーリエと私は食材を色々と買い込んだ。
 ヨアヒムが重い荷物を持ってくれたので私は軽いカゴだけを持って帰る。

 家に着いたら共同水道の場所を確認するために水汲みをした。こっちの水は洗濯や掃除に使い、炊事の水はヨアヒムが水魔法で水瓶をいっぱいにしてくれたものを使う。薪に火を付ける練習で火打ち金を使ったけど難しい。
 ヨアヒムは晩ご飯用にパンを捏ね、私とリーリエはスープを作った。他のメンツは掃除をしたり、ベッドを整えたりしている。人数が多いとこういうとき便利。

 夕方、ヴェルナーの帰って来た声が聞こえたので迎えに出ると抱きしめられた。

「……夢じゃないんだな」
「うん、お帰り。お疲れ様」
「一週間ほど休みをもらった。ゆっくり過ごそう」
「うん」

 新婚だ~。なんか照れる。

「おい、帰ってきたんなら早く顔出せよ。酒飲まねぇで待ってたんだぜ」

 ラルフが呼びにきて、食卓についた。作った料理と屋台で買った料理が並ぶ。ゲルトが手の一振りでロウソクに火を付けた。
 それぞれのコップにお酒を注いで手に持つと、サミーが笑って私に声を掛けた。

「サヤカが挨拶するか?」
「え、なに言うの?」
「なんでもいい」

 急に言われてもな。みんなの視線が向けられてなんだか緊張する。
 ぐるりと見渡せば、いつの間にか馴染んで親しみを感じる顔が並んでる。今更だけど結婚するのか、6人と。多くない? 多いよね。なんで6人もいんの? でも、誰かがかけても寂しいな。……うん、多いけどこれでいい。

「えーと、至らない点は多々ありますが、多めにみていただけるとありがたいです」
「クハッ、なんだよ、仕事の挨拶みてぇだな」
「だってさ~。えーと、家族になるのでみんなで仲良くしましょう」
「ぶふっ」
「サミーまで笑って」
「悪ぃ、悪ぃ、可愛くてよ」
「じゃあ、カンパーイ!」

 もういいやと思って、みんなのコップに軽く当ててから口をつけた。サングリアよりはハーブっぽい色々な味がする。

「はー、久々の酒はうめぇ。いやー、飲めねぇのはしんどかったな」
「だよなぁ。神官だって隠れて飲んでるヤツいたのによ」
「いませんよ」
「たまに酒臭いヤツいたって。オレでもほんの少し臭うくらいだから気づかねぇかもしんねぇけど」
「妖精族もたくさんいりゃ、変わり者も出てくるよな」

 ラルフとサミーはリーリエを巻き込んで盛り上がっている。

「これはサヤカが作ったのか?」
「うん、リーリエと一緒にね。こっちの食材わからないから。郷土料理みたいなのある?」
「ここは海が近いので魚介類の料理が多いです」
「ゲルトの実家はここだもんね。ヴェルナーのほうは?」
「うちのほうは鳥が多いな。香草も使う」
「じゃあ、あっさりだと物足りないかな? ヨアヒムのうちはどこ?」
「俺の家は森のほうだから豚とか山菜とかだよ」
「みんなのうちのご飯再現するのもおもしろいかもね。明日はゲルトのうちで挨拶してご飯食べるでしょ? レシピ教えてもらえるかな?」
「大丈夫です。気に入った料理があれば聞いてください」

 みんな揃ってご飯を食べてると神殿みたいなのに、神殿じゃないからなんか変な感じ。久しぶりのお酒は酔いがすぐにまわり、あまり飲まないうちに頭がポヤポヤしてきた。

 みんなの顔を見渡すと改めて不思議。6人は私のこと好きだって言うけど、私に好かれる要素なんてあるのかな。ヴェルナーは吸引されてるらしいから不可抗力だとしてもさ。あ、サミーは自分より背が高いのが好みだって言ってたから、私も好みの範囲か。あとは、なんでだ? そういえば匂いの相性がいいって話だったか。これもなんか本能的なもんか。
 精霊王が相性いいの集めたって言ってたっけ。なら、不思議でもないってことかな。

「……サヤカ、酔ったのか?」
「うん? うん、そうみたい」

 話しかけられてるのに気付かず、ぼんやりしてた。

「もう寝るか?」
「うん、久しぶりにお風呂に入りたい」

 荷馬車の中で体は拭いたけども、3日入らないと辛い。頭をちゃんと洗いたい。ヨアヒムとゲルトが用意すると言って席を立ったので、ありがたく甘える。

「もう寝んのか? 酒に弱ぇんだな」
「そうでもないんだけど、久しぶりだし引っ越しで疲れた」
「新しい場所は馴染むまでちょっと落ち着かねぇよな」
「うん」

 準備ができたと戻ってきたヨアヒムとゲルトにお礼を言って立ち上がると、ヴェルナーに抱きかかえられた。

「歩けるよ」
「わかっている」

 そう言って降ろさずにのしのし歩く。酔っ払って揺られるのは気持ち良いな。


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