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2.親切なトカゲ
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「びっくりしたー。ありがと。アハハ、酔ってんだよね」
トカゲのビダルは体勢を持ち直して笑うロラの背中から手を離した。本当に酔っ払いだと思う。自分を怖がりもしないなんて。大丈夫かと目をやった先には、甲を押さえる皮が外れてブラブラしているサンダル。むき出しになった足の指や甲には血がにじんでいる。大きい傷ではないけれど、ビダルから見れば小さくて弱そうな足にケガをしているのは痛々しい。
「ケガが」
「あっ、サンダルっ、ええー壊れてる。えええぇ。あー血ぃでてるし。あーあ」
「ケガ」
「あー、どーしよ。ほんとヤんなる。布ぬのぬの」
酔いと衝撃で暴走しているロラはビダルの話を遮ってる意識もない。手ぬぐいが見つからなくてスカートの裾で血を拭おうとした手を止められ、はっとまた見上げた。緩くなった頭から存在が飛んでたトカゲが、自分の手ぬぐいを取り出して傷口を押さえてくれる。ピリッとした痛みが走って眉をしかめた。
「いたっ」
「……手当、する? ウチで、近くだから」
えっ!? それって!? いやいやいや、親切なトカゲだから下心は、な、あ、るどっちだ? ない、ある、あっても、いいのかなぁ、トカゲと……いけるな、うんいける。いや、ただの親切かも。帰ったら奥さんいたりとか……はあぁぁぁ、いいなぁ、やりまくれて。あーいや、わかんないけど。トカゲねぇ、はじめて見たけどデカいな。アッチも、いやいやいや。てか、住んでるトカゲいるんだ。
グルグルと迷走した結果ダメもとで突き進もうとロラは勢いよく頷いた。
「うんはいっ、おねがいします! いやーいい年して転ぶとダメージあるね」
よこしまな気持ちを誤魔化すのにヘラリと笑う。いや、だって距離が近すぎるしと頭の中で慌てつつ。
トカゲは黙って頷き、傷口を布でしばってから散らばったロラの荷物や惣菜を拾う。
「ありがとー」
ロラはお礼を言ってよろよろ立ち上がる。足首とかかと部分だけになったサンダルを引きずって砂まみれの惣菜をごみ入れに投げ入れた。服の埃を払ってたら月明かりが遮られ、見上げるとトカゲがそばに立っている。
立って並ぶとロラの頭とビダルの肩が同じくらいで、首が長めのトカゲ族はロラから見ればにょっきりした印象だ。女性の中で背が高いほうのロラは真上を見上げるなんてしたことがなく、慣れなくてまじまじと見つめてしまう。
ビダルが渡してきた荷物で両手がふさがって我に返り、えー持ってくれないの歩くのだけで大変なのにと図々しくがっくりしたらいきなり体が宙に浮いた。びっくりして惣菜を取り落とすと、ロラを横抱きにしたままビダルがしゃがみ、拾ってロラの上へ置いた。
「あ、りがと。びっくりした。ハハ」
驚きと気恥ずかしさで頬をほんのり染めて笑うロラを見たビダルはちょっと瞳孔をせばめ、ふいと顔をあげて立ち上がる。歩き出しても振動はほんの少し。抜群の安定感にロラのこわばりが解けた。がっしりとたくましい腕は変に揺れず、寄りかかった体はみっしりと筋肉がつまってる。
「あははっ、抱っこされたのはじめてだ。こんな感じなんだね、ありがとう、すごいラク~」
この地方では結婚した日、新郎は新婦を抱えて家に入り周りはそれを祝福するというお決まりのパフォーマンスがある。自分は体験しないんだろうと思っていたのに、いきなり起きてしまいロラはフワフワと舞い上がった。ちょっとは羨ましいけど別にいいしと負け惜しみに思ってたのは、二人が楽しそうで。そう、他人のイチャイチャがものすごく羨ましかったので。これはそんな意味もなにもないただの人助けだと自分に言い聞かせつつ、やっぱり嬉しくてフワフワした気持ちのまま笑った。
「靴、壊れてるから」
「うん、あ、重くない? ごめんねーあはは」
「いいや」
抱き上げた言い訳をしたビダルは、何も気にしてないように見えるロラにホッとする。抱えた腕にかかるのは軽くない、肉体というものを感じさせる暖かな重さ。胸に寄りかかる体は柔らかで楽しそうに笑っている。人間はいつも暖かいらしいと聞いていたが本当にそうだった。触れ合っている部分からじんわりと心地よさが広がる。足の下の石畳も暖かいけれどそれとは違う、もっと染み込むような。
トカゲ族を含む鱗人と呼ばれる人種は人間より寒さに弱く、暖かいところを好む。適温はそれぞれ違うが、ビダルは初めて抱きしめる人間の柔らかな暖かさに惹かれた。
この世界に種族はいろいろあるが、くっつくのはほぼ同族同士だ。他種族と結ばれるのはかなりの変わり者。ビダルも今まで同族以外をそういう目で見たことはないし、興味もなかった。特に人間の女は鱗人自体を怖がる傾向にあったので、避けてもいた。なのになんでだろうと思う。なんでこのまま触っていたいと思うんだろう。
同族との経験だってないわけじゃない。村祭りの夜、奔放な知り合いとこれまた奔放な相手が目の前でさかり始めたから退散しようとしたのに、つかまった。女を知らないビダルをからかう二人の悪ふざけがなぜかそんなことになり。ビダルもそれなりに欲があったので流されてしまった。そのあと何回か女の誘いに乗ったがすぐに飽きられてそれきり。
それっきりまったく何の縁もない。そもそもどうにかしようとする気もなかった。女というものがやけに生々しく、自分の中に湧きおこるなんらかの感情も煩わしく思えて。
ビダルは故郷で働いていた工房から修行という名目で追い出され、なんとなく、同族がいなさそうな町へでた。やっと見つけた働き口で真面目に仕事をし、食事して家に帰る繰り返し。もともと一人が好きなたちだから寂しいとも思わない。
今日も食事をした帰り道だった。前を歩く女がふらついてると気づいてたが、酔っ払いはそんなものだ。ただ、荷物をまき散らして盛大に転び、手で顔を覆って泣いているを目の前で見たら、ビダルだって心配くらいする。泣くどころか笑ってるけど。
なんというか、だからかもしれない。やたらと喋って元気だから、支えた背中が暖かかったから、傷口を押さえるのに触った足が小さくて、なのにその小さな体に生命力が満ち満ちてるみたいだったから。
自分でもよくわからない。けど、サンダルは抱き上げるための口実だった。だって暖かな体が腕の中にある、そのことにこんなにも高揚している。
家のドアを開けるためにロラを降ろしたのを残念に思い、断りもいれずにまた抱き上げて椅子に座らせた。
「アハハ、子供みたい。まあ、それぐらい違うよねぇ」
なんでもおもしろがって笑うロラの気の置けない態度は男女関係に疎いビダルの心をくすぐる。こんなくすぐったさも、浮ついて持て余すような気分もビダルは知らない。どうしていいかわからず、ことさらなんでもないよう黙って手当の準備をした。
水を入れた桶をロラの足下に置き、床に着いていない足を緊張しながら手にとった。サンダルを脱がし、手ぬぐいの結び目をほどく、露にしていく手順の背徳感が尻尾の先をくねらせる。手ぬぐいを取り去って現れた足はビダルの手の中に収まってしまう小ささで。あまりにも自分と違うそのさまに、抑えた息を静かに吐いた。手の中の足にそっと水をかけて傷口を洗えば、乾ききっていない傷口からは赤い血がにじむ。土埃がついてしまった足の指の、その間に指先を割り込ませて撫で洗った。トカゲ族とは違う不思議な形の指を一本一本はさんでは、そっと。そうして洗い終えた足にまとわりついている水滴の、大きい粒が流れて滲んだ血に混ざり、桶の中へ落ちた。甲に透ける血の道から染み出しているのだろうか。鱗の肌となんて違うのだろうと思う。あまりにも無防備な薄い皮膚の、滲むその血を舌で。
衝動をともなうような妄想を意識して振り払う。たいした傷じゃないとはいえ手当中に考えることじゃない。ビダルは頭を切り替えるために巻きつけ用の布を手に取り、勢いよく裂いた。
「あ、薬、私のかばんに入ってるわ。ちょっと待って」
ロラの声で意識が戻る。
「私、薬師でさー、別に必要はないんだけどなんかこう、いざというときに『薬なら私が』って咄嗟に出せたらカッコいいと思って傷薬とか持ち歩いてて。まあ、使ったことないけど。あ、今がそのときか。はい、使って」
ロラの流れるようなお喋りにポカンとしたビダルはややあって小さく吹き出した。
「えー笑う? アハハ、笑うか。いやーもともとは営業用に持ち歩いてたんだけどさー、やっぱり使う機会ほしいじゃない?」
「くっ、ふ、そう、だな、ほしくなる」
笑いながら渡された小さな貝殻を、笑いながら受け取った。貝殻に詰められた緑色の軟膏を指先ですくい、あちこちにある細かい傷に塗りつけていく。薬はくにゃりと柔らかく、良く伸びて使いやすい。
「使いやすいな」
「そうでしょそうでしょ。効きもいいよ。ふふふ」
ロラの、得意げに目を細めた表情が艶っぽく見えてビダルはきゅっと口を閉じる。布を巻くためにと目を背け、ひそやかに呼吸を落ち着けた。丁寧に巻きながら、この先に進むのになんて言おうと悩む。わからないまま巻き終わってしまった布の端を結んで、とりあえず片付けのために立ち上がった。
「ありがとう。名前聞いていい? 私はロラ」
「ビダル」
「ありがとうビダル。ところでさ、ビダルの奥さんはいつ帰ってくるの?」
なかなかいい感じだしこのままいけるのでは? ぜひともいきたい! と舞い上がってるロラは、一人暮らしっぽい部屋を見回しつつ念のために確認した。
同じように、名前も聞かれたしこのままいけるのではと期待していたビダルは突然の質問内容に驚愕した。そんなわけあるかと最速で、かぶせるように答える。ここまできて逃がすもんか。
「いない」
「婚約者とか」
「いない。そういう相手はいない」
「じゃあ泊っていい?」
トカゲのビダルは体勢を持ち直して笑うロラの背中から手を離した。本当に酔っ払いだと思う。自分を怖がりもしないなんて。大丈夫かと目をやった先には、甲を押さえる皮が外れてブラブラしているサンダル。むき出しになった足の指や甲には血がにじんでいる。大きい傷ではないけれど、ビダルから見れば小さくて弱そうな足にケガをしているのは痛々しい。
「ケガが」
「あっ、サンダルっ、ええー壊れてる。えええぇ。あー血ぃでてるし。あーあ」
「ケガ」
「あー、どーしよ。ほんとヤんなる。布ぬのぬの」
酔いと衝撃で暴走しているロラはビダルの話を遮ってる意識もない。手ぬぐいが見つからなくてスカートの裾で血を拭おうとした手を止められ、はっとまた見上げた。緩くなった頭から存在が飛んでたトカゲが、自分の手ぬぐいを取り出して傷口を押さえてくれる。ピリッとした痛みが走って眉をしかめた。
「いたっ」
「……手当、する? ウチで、近くだから」
えっ!? それって!? いやいやいや、親切なトカゲだから下心は、な、あ、るどっちだ? ない、ある、あっても、いいのかなぁ、トカゲと……いけるな、うんいける。いや、ただの親切かも。帰ったら奥さんいたりとか……はあぁぁぁ、いいなぁ、やりまくれて。あーいや、わかんないけど。トカゲねぇ、はじめて見たけどデカいな。アッチも、いやいやいや。てか、住んでるトカゲいるんだ。
グルグルと迷走した結果ダメもとで突き進もうとロラは勢いよく頷いた。
「うんはいっ、おねがいします! いやーいい年して転ぶとダメージあるね」
よこしまな気持ちを誤魔化すのにヘラリと笑う。いや、だって距離が近すぎるしと頭の中で慌てつつ。
トカゲは黙って頷き、傷口を布でしばってから散らばったロラの荷物や惣菜を拾う。
「ありがとー」
ロラはお礼を言ってよろよろ立ち上がる。足首とかかと部分だけになったサンダルを引きずって砂まみれの惣菜をごみ入れに投げ入れた。服の埃を払ってたら月明かりが遮られ、見上げるとトカゲがそばに立っている。
立って並ぶとロラの頭とビダルの肩が同じくらいで、首が長めのトカゲ族はロラから見ればにょっきりした印象だ。女性の中で背が高いほうのロラは真上を見上げるなんてしたことがなく、慣れなくてまじまじと見つめてしまう。
ビダルが渡してきた荷物で両手がふさがって我に返り、えー持ってくれないの歩くのだけで大変なのにと図々しくがっくりしたらいきなり体が宙に浮いた。びっくりして惣菜を取り落とすと、ロラを横抱きにしたままビダルがしゃがみ、拾ってロラの上へ置いた。
「あ、りがと。びっくりした。ハハ」
驚きと気恥ずかしさで頬をほんのり染めて笑うロラを見たビダルはちょっと瞳孔をせばめ、ふいと顔をあげて立ち上がる。歩き出しても振動はほんの少し。抜群の安定感にロラのこわばりが解けた。がっしりとたくましい腕は変に揺れず、寄りかかった体はみっしりと筋肉がつまってる。
「あははっ、抱っこされたのはじめてだ。こんな感じなんだね、ありがとう、すごいラク~」
この地方では結婚した日、新郎は新婦を抱えて家に入り周りはそれを祝福するというお決まりのパフォーマンスがある。自分は体験しないんだろうと思っていたのに、いきなり起きてしまいロラはフワフワと舞い上がった。ちょっとは羨ましいけど別にいいしと負け惜しみに思ってたのは、二人が楽しそうで。そう、他人のイチャイチャがものすごく羨ましかったので。これはそんな意味もなにもないただの人助けだと自分に言い聞かせつつ、やっぱり嬉しくてフワフワした気持ちのまま笑った。
「靴、壊れてるから」
「うん、あ、重くない? ごめんねーあはは」
「いいや」
抱き上げた言い訳をしたビダルは、何も気にしてないように見えるロラにホッとする。抱えた腕にかかるのは軽くない、肉体というものを感じさせる暖かな重さ。胸に寄りかかる体は柔らかで楽しそうに笑っている。人間はいつも暖かいらしいと聞いていたが本当にそうだった。触れ合っている部分からじんわりと心地よさが広がる。足の下の石畳も暖かいけれどそれとは違う、もっと染み込むような。
トカゲ族を含む鱗人と呼ばれる人種は人間より寒さに弱く、暖かいところを好む。適温はそれぞれ違うが、ビダルは初めて抱きしめる人間の柔らかな暖かさに惹かれた。
この世界に種族はいろいろあるが、くっつくのはほぼ同族同士だ。他種族と結ばれるのはかなりの変わり者。ビダルも今まで同族以外をそういう目で見たことはないし、興味もなかった。特に人間の女は鱗人自体を怖がる傾向にあったので、避けてもいた。なのになんでだろうと思う。なんでこのまま触っていたいと思うんだろう。
同族との経験だってないわけじゃない。村祭りの夜、奔放な知り合いとこれまた奔放な相手が目の前でさかり始めたから退散しようとしたのに、つかまった。女を知らないビダルをからかう二人の悪ふざけがなぜかそんなことになり。ビダルもそれなりに欲があったので流されてしまった。そのあと何回か女の誘いに乗ったがすぐに飽きられてそれきり。
それっきりまったく何の縁もない。そもそもどうにかしようとする気もなかった。女というものがやけに生々しく、自分の中に湧きおこるなんらかの感情も煩わしく思えて。
ビダルは故郷で働いていた工房から修行という名目で追い出され、なんとなく、同族がいなさそうな町へでた。やっと見つけた働き口で真面目に仕事をし、食事して家に帰る繰り返し。もともと一人が好きなたちだから寂しいとも思わない。
今日も食事をした帰り道だった。前を歩く女がふらついてると気づいてたが、酔っ払いはそんなものだ。ただ、荷物をまき散らして盛大に転び、手で顔を覆って泣いているを目の前で見たら、ビダルだって心配くらいする。泣くどころか笑ってるけど。
なんというか、だからかもしれない。やたらと喋って元気だから、支えた背中が暖かかったから、傷口を押さえるのに触った足が小さくて、なのにその小さな体に生命力が満ち満ちてるみたいだったから。
自分でもよくわからない。けど、サンダルは抱き上げるための口実だった。だって暖かな体が腕の中にある、そのことにこんなにも高揚している。
家のドアを開けるためにロラを降ろしたのを残念に思い、断りもいれずにまた抱き上げて椅子に座らせた。
「アハハ、子供みたい。まあ、それぐらい違うよねぇ」
なんでもおもしろがって笑うロラの気の置けない態度は男女関係に疎いビダルの心をくすぐる。こんなくすぐったさも、浮ついて持て余すような気分もビダルは知らない。どうしていいかわからず、ことさらなんでもないよう黙って手当の準備をした。
水を入れた桶をロラの足下に置き、床に着いていない足を緊張しながら手にとった。サンダルを脱がし、手ぬぐいの結び目をほどく、露にしていく手順の背徳感が尻尾の先をくねらせる。手ぬぐいを取り去って現れた足はビダルの手の中に収まってしまう小ささで。あまりにも自分と違うそのさまに、抑えた息を静かに吐いた。手の中の足にそっと水をかけて傷口を洗えば、乾ききっていない傷口からは赤い血がにじむ。土埃がついてしまった足の指の、その間に指先を割り込ませて撫で洗った。トカゲ族とは違う不思議な形の指を一本一本はさんでは、そっと。そうして洗い終えた足にまとわりついている水滴の、大きい粒が流れて滲んだ血に混ざり、桶の中へ落ちた。甲に透ける血の道から染み出しているのだろうか。鱗の肌となんて違うのだろうと思う。あまりにも無防備な薄い皮膚の、滲むその血を舌で。
衝動をともなうような妄想を意識して振り払う。たいした傷じゃないとはいえ手当中に考えることじゃない。ビダルは頭を切り替えるために巻きつけ用の布を手に取り、勢いよく裂いた。
「あ、薬、私のかばんに入ってるわ。ちょっと待って」
ロラの声で意識が戻る。
「私、薬師でさー、別に必要はないんだけどなんかこう、いざというときに『薬なら私が』って咄嗟に出せたらカッコいいと思って傷薬とか持ち歩いてて。まあ、使ったことないけど。あ、今がそのときか。はい、使って」
ロラの流れるようなお喋りにポカンとしたビダルはややあって小さく吹き出した。
「えー笑う? アハハ、笑うか。いやーもともとは営業用に持ち歩いてたんだけどさー、やっぱり使う機会ほしいじゃない?」
「くっ、ふ、そう、だな、ほしくなる」
笑いながら渡された小さな貝殻を、笑いながら受け取った。貝殻に詰められた緑色の軟膏を指先ですくい、あちこちにある細かい傷に塗りつけていく。薬はくにゃりと柔らかく、良く伸びて使いやすい。
「使いやすいな」
「そうでしょそうでしょ。効きもいいよ。ふふふ」
ロラの、得意げに目を細めた表情が艶っぽく見えてビダルはきゅっと口を閉じる。布を巻くためにと目を背け、ひそやかに呼吸を落ち着けた。丁寧に巻きながら、この先に進むのになんて言おうと悩む。わからないまま巻き終わってしまった布の端を結んで、とりあえず片付けのために立ち上がった。
「ありがとう。名前聞いていい? 私はロラ」
「ビダル」
「ありがとうビダル。ところでさ、ビダルの奥さんはいつ帰ってくるの?」
なかなかいい感じだしこのままいけるのでは? ぜひともいきたい! と舞い上がってるロラは、一人暮らしっぽい部屋を見回しつつ念のために確認した。
同じように、名前も聞かれたしこのままいけるのではと期待していたビダルは突然の質問内容に驚愕した。そんなわけあるかと最速で、かぶせるように答える。ここまできて逃がすもんか。
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