【R18】イチャイチャしたすぎる女と感情に疎いトカゲ

象の居る

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6.気持ちを正確に伝えるのは難しい

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 当然のようにロラと一緒にいるつもりだったビダルは動揺した。

「メシは?」
「うーん、まだ大丈夫そうだから、これ食べるわ。ビダルも食べて」

 そう言ってロラはテーブルの上に置きっぱなしの惣菜を食べ始めた。

 ビダルは一緒にいる口実を他に思いつかない。内心うなだれながら新しい水を汲んできてコップに注ぎ、ロラの前へ置く。

「ありがとう。……ん、ふふ、嬉しい。新しいものって久しぶり」

 くるくると嬉しそうにサンダルを見るロラを、可愛いとビダルが眺める。と、ロラは苦い顔をした。

「……さっき、嫌な言い方してごめんね。だまされたとか」
「いや」
「そういうこと言っといて浮かれてちゃ世話ないよねぇ」
「浮かれた?」
「うん、ごめん。俗物で」

 俺が贈ったものを喜んでるんだから、それでいいのに。
 ロラの浮き沈みのわけがわからないビダルはジッとロラを見て考える。
 ロラは謝る。謝るってことは悪いと思ってる。俺は『いや』って言った。でも謝るってことはわかってない? わかってないなら悪くないって伝えなきゃいけない。何が悪くない? ロラが謝ったのは言い方。騙されたかどうかって。俺は気にしてない。うん。

「気にしてない」
「……あー、うん、ありがとう」

 ビダルは初めてこんなに人の気持ちを考えた。そして初めて気持ちの助けになろうとしたが、すれ違いによりちょっと外れた。『俗物』を気にしてないという意味で受け取ったロラはしゅんと落ち込む。誉め言葉でもないし、自分で思ってても人からはっきり言われるとショックなのだ。

 ロラが静かになってしまったので、ビダルは説明が足りなかったのだと思った。
 わかるように説明って難しい。他にどうしたらいい? ロラは、ロラはどうしてる? ロラはいろいろ喋る。なんか頭の中ぜんぶ喋ってるみたいに。俺はそれを聞いてわかる。そうか、ロラの話が俺にもわかるのはぜんぶ喋るからか。
 真理を得た気分でビダルは再度、口を開く。

「気にしてない。ロラが嬉しいなら俺も嬉しい。騙されてても騙されてなくてもどっちでもいい。ロラに似合ってるからそれでいい」

 これで伝わったかとビダルはロラを見た。ロラは目を見開いてビダルを見てる。それから盛大に驚いた。

「え----っ!? そんなに喋れたの? えー、わーびっくりした。……あ、えーと、ありがとう。私もとても嬉しい。へへへ」

 今度はうまくいったらしいとビダルもホッとして笑った。肩の力が抜けてだいぶ緊張してたんだと気づく。

「……え、笑えるの?」
「うん」
「あんまり表情動かないから鱗人はそうなのかと……ビダルがわかりにくいだけ?」
「さあ。よく笑うヤツもいる。俺は、俺は、笑わない?」
「なんで疑問形なのーーーっ」

 ロラはビダルに疑問をぶつけてひとしきり騒いだあと、体力が尽きてテーブルに突っ伏して呻いた。

「うう、いたた。そろそろ帰るね」
「送る」

 ぎこちなく動くロラを抱きかかえようとして断られたビダルは、代わりにロラのカバンを持った。
 腕がスースーしてる気がする。
『寂しい』がわからないビダルは腕をさすった。隣にいるロラの頭の天辺を見下ろしながら、ときおり顔を上げて笑うのを待ち遠しく思う。待ちきれなくて覗き込んだら口づけをしたくなったので、そのあとはおとなしく頭の天辺だけみることにした。

 ロラが住む集合住宅の階段を登り切れなかったのでそこはビダルが喜んで抱えた。部屋の前でロラがビダルを見上げる。

「ありがとう。寄ってって言いたいとこだけど、力尽きて無理だわ。おやすみ」
「おやすみ。明日くる。なに食べたい?」

 ビダルは用意していたセリフを口にする。

「え、やー……」
「食べられないものある?」

 俺もなんでも食べれるわけじゃない。きっとロラも。

「なんだろ? ないかな。思いつかない」
「わかった。また明日」
「あー、うん。……寝てたらごめん」
「うん」

 ロラはもぞもぞと中に入り、手を振ってドアを閉めた。帰る音が聞こえるかと聞き耳を立てたけどまったく足音がしない。そういえば動作がぜんぶ静かなんだよなと思い出す。
 いろいろあった。いろいろと。これからもいろいろあるっぽい。ご馳走になってばっかりじゃ申し訳なくて断ろうと思ったけど、これからもいろいろあるならお返しできるから。
 ロラはベッドに倒れ込んで大きいため息をつく。うぎーと手足をバタバタしたかったが筋肉痛だったので、ゴロゴロするだけで耐えた。

 なになになに----このイチャイチャっぷりはっっっ! なんだこれはっ! すごく高い靴くれて修理もしてくれて私が嬉しいと嬉しいってっっ! あああああーーーどうしよう、結婚報告しなきゃいけないかも。いやいやいや、先走りすぎた。すーぐ結婚とか言い出す間抜けはどいつよ。わたしーーーー。うわーうわーうわー、足をわざわざ洗ってくれるとか、サンダル履かせてくれるとかあり得ないでしょ? それがあるんですよーーーーここにあった! あーもうダメ。受け止めきれない……

 ロラはパチンと体力が尽きてそのまま眠った。
 翌日、昼近くに起きてバキバキの体で叫びながら伸びをした。マシになった痛みを引きずって水汲みと身支度を終える。そろそろ仕事するかとあくびしながら納品数と素材の在庫を確認した。
 これは買い足しておくかなぁ。ビダルが来る前に。
 はっ、ビダルがくる!? この部屋に!? 掃除っっ!
 バタバタと目立つ場所だけ掃除する。シーツは迷いつつそのままにした。筋肉痛が抜けないと楽しめない。

 日が暮れたらビダルがやってきた。珍しく息を切らし、まだほんのりあったかい焼き物を持って。
 その日は一緒に食事をしてビダルは帰った。次の日もその次の日も。ロラの体が治るまで待つつもりだった。その次の次の日、もうそろそろ体も大丈夫だしいいかなと思っていたら、ロラが今日は月の光が必要な調合をすると言うので邪魔にならないよう帰ることにした。

「明日、納品に行くんだよね。だから帰りにどっかで食べて帰ろうよ。行きたい店ある?」
「ない」
「じゃあ、ビダルの仕事場って職人街でしょ? そこらへんにしようか。ビダルがよく行く店ってどこ?」

 ニコニコ笑うロラに行き慣れた店をいくつか教え、ロラが選んだ店の中で待ち合わせることになった。また明日と別れたビダルは、明日を楽しみにする気持ちとモヤモヤした不安を抱えていた。
 ロラは笑って楽しそうに喋る。俺も楽しい。約束だってした。でも、俺は触りたい。ロラは? わからない。ロラが忙しいのは仕事だから。でも俺として体を痛めたから。俺のせいだったから。俺に触られるのを嫌になってたら?
 ロラにぜんぶ話してちゃんと聞けばいいと思うのに、答えが怖くて口にできない。誰かの言葉が怖いなんて思ったことはなかった。物事はビダルの外側でただそうだってだけのものだった。嫌なものからは離れればよくて、面倒そうだと思えば巻き込まれる前に遠ざかればいい。でも、ロラから離れるなんて考えるだけでゾッとする。

 ビダルはどうにもできないものを抱えてイライラと不安をつのらせていた。
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