【R18】イチャイチャしたすぎる女と感情に疎いトカゲ

象の居る

文字の大きさ
7 / 8

7.形にならなかったもの

しおりを挟む
 ロラは納品を終わらせてちょっと早めに店に来ていた。家を出る前に全身洗ってピカピカになっている。これで思う存分イチャイチャできるとご満悦だ。調合するとどうしても独特の匂いが移るため、臭わない程度の距離を心がけていたロラは鬱憤がたまっている。ビダルは「臭くない」と否定したのだが、鼻の奥に匂いが染み付いていたロラは、それはビダルの気遣いだと思っていた。

 ビダルが強引にでも抱きしめればロラは流されるのでそれで済む話だったが、体を痛めつけたと気にしていたビダルにできるはずもなく。もともと無表情のうえ、ロラを世話する機会を逃すまいと甲斐甲斐しいビダルがイライラしてたなんてロラが気づくはずもなく。
 今夜は楽しむぞととロラはウキウキで店に入った。

 嬉しさを隠して待ち合わせだと言い、テーブル席に座った。エールを持ってきた給仕に軽いつまみを頼んでエールを飲む。ロラは純粋に楽しかった。愚痴もなにもなく、このあとは楽しく過ごせる相手と飲んで楽しんで眠るだけ。

「一人?」
「は?」

 ニヤけた男がエール片手に、ロラに聞くことなしに向かいの席へ座る。職人が多い店に若い女一人というだけで目を引き、軽い男がとりあえず声をかけた。

 ロラは、はあああ? と喧嘩売りたくなるのを我慢して「男がくるんだからどっかいって」と冷たく言うにとどめる。

「そうなんだ。俺よりイイ男?」

 男をみれば、言うだけあって顔は整ってた。他は最悪だけど。顔も別に好みじゃない。

「当たり前でしょ。早くどいてよ」
「ハハハ、冷てぇなぁ。そんなこと言わないでよ。お姉さん、ニコニコしてて可愛いし俺の好きなタイプなんだって。俺と遊ぼ?」

 ロラは怒りで頭が冷えた。
 欲しいときにこないくせにいらないときにくる。八つ当たりだとわかっていた。少し前までの自分がみじめに思えてどうしようもない。こんな引っかきまわしたいだけの誘いに乗ったかもしれない自分が。
 なにが可愛いだクソが。私がいま笑ってるのはビダルがいるからで、可愛いく見せてるのはビダルに可愛く見せようとしてるからだ。お前はまったく爪の先ほども関係ない。

「私が機嫌よくしてるのは私の男と楽しむためなの。そういう女が欲しいなら、あなたが自分で手間暇かけて機嫌よくしてあげなさいよ。他人の成果を横取りしてないでさ」

 ロラは怒りを込めてニッコリ笑った。

「うわーきっついなぁ。相手の人も大変そうだねぇ」
「さぁね。じゃ、さようなら」

 笑顔で告げてエールを飲んだ。楽しい気分に水を差されてくさくさする。

「ロラ」
「ビダルっ、お疲れ様」

 声を掛けられて急いで立ち上がった。テーブルの前、男とのあいだに立ってくれたビダルをみてホッとしたロラは手を取った。

「うわぁ~そういう趣味かよ、きっつ」

 捨て台詞を残して席を離れた男に舌打ちしつつ、ビダルを座らせる。

「誰?」
「知らない。私の男がくるって言ったのにどかないからどうしようかと思っちゃった。頭からエールぶっかけたらエールがもったいないじゃない?」
「うん」
「ムカつくことは忘れて美味しいもの食べよ。ビダルが好きなのってどれ? いつものお返しに今日は私がご馳走するからさ、好きなだけ飲んで食べよ」

 せっかくのお出かけなんだからと、ロラは気持ちを切り替えるべく店に貼られたメニューを眺めた。ビダルに手の上に置いた手をギュッと握り返されて頬が緩む。

「エール飲む?」
「酒は飲めない」
「あ、そうなの? どんなのでも? 一滴も?」
「胸が悪くなる」
「体に合わないんだ。じゃあ美味しいものいっぱい食べよう。ふふ、ビダルのオススメ楽しみ」

 ロラは機嫌よく振舞ってる。ビダルはいいようのないムカムカを押し込めてロラのあったかい手を握りしめた。
 ロラは俺がいるってちゃんと言ってくれた。だから、大丈夫。笑ってたけど、きっとたぶん喧嘩しないようにで。ロラもムカつくって言ったし、嫌な奴だったし、俺を見て笑って、手もさわってくれた。
 またギュッと手を握ると、ロラがビダルを見上げて嬉しそうに笑う。でも何か、『なにか嫌なもの』としかビダルには表現できなかったけれど、それがひっかかったままだった。

 店を出た帰り道、ビダルはロラに合わせてゆっくり歩いた。すれ違う人間が二人をチラチラと見ている。男の悪意をぶつけられていたせいで、ビダルはやけに視線が気になった。

 俺たちが他種族だから。同族じゃないから。ロラは、ロラも気にするんだろうか。
 ああ、嫌だ。

 隣でロラが笑ってるのを見てもさっきの男がチラチラ思い浮かんだ。

 人間の男。俺とは違う、ロラにちょうど良さそうな大きさをした同種族の男。
 二人だけのときは気にならなかったのに、気づいてしまえばひどく焦る。

「ロラ」
「ん?」
「ウチに行こう」
「ふ、うん、いこういこう」

 笑って頷くロラにホッとして抱き上げた。

「あっ、ちょっと、なに」
「うん」

 なんか焦るから、早くロラを家に連れて帰りたい。

 家についてドアの前に立つ。ロラを降ろしたくないと考えたビダルはしゃがんだ足の上にロラを座らせてポケットから鍵を取り出した。

「あはははは、なにそれ。あははは。ふふ、はい、鍵ちょうだい」

 差し出されたロラの手の上に鍵を置く。ロラは笑いながら鍵を開けてビダルに返した。

「ほら、私の手は空いてるから」

 面白がるロラの態度でビダルの焦燥はだいぶましになった。なぜなのかはわからない。わからないことばかりだ。

「ほんとだ」

 でも返事をする余裕はできた。
 ビダルはロラを抱えて立ち上がる。ロラがドアを開けて、また閉める。そのぜんぶを嬉しいと思った。ロラを椅子に降ろそうとして立ち止まり、どうしたらこの状態でいられるか考えたのち自分が座って膝の上にロラを乗せることにした。

「えー、あははは、どんだけ離れたくないのって」
「ずっと」

 ふざけた自分に真面目なトーンで返事がきて、ロラはしばし固まった。かぁーと頬が熱くなる。

「そ、そっか~」
「うん」

 なんて言っていいかわからなくて流そうとして失敗する。

「ロラ」
「え」
「さっきの、……なに喋ったの?」
「え? あ、声かけてきたヤツ?」
「うん」
「言ったと思うけど。誘われたからビダルがいるって断ったって」
「うん、でもなんか違った」
「あー、うん」

 無関係でも他の男と誤解されたくなかったから、ビダルに見られたことが気になっていた。八つ当たりを含む怒りを見られたのもきまり悪く、ロラはモソモソと口に出す。

「なんか腹立って」
「なんで?」
「だってさぁ、ビダルがくるのに話しかけられたら邪魔だし」
「俺が来ないときならいいの?」
「え、いや、それはない。や、ただの世間話なら別に、おっさんが子供自慢してくるとかそういうのは世間話だし、一人で飲んでるときならいいけど、そうじゃなくて、誘いはいらないなって」
「『誘われなかった』って言ってた。誘われたかったって」
「あーもう、それは違うでしょ。ビダルと会う前でしょ。今はビダルがいるから、ってそうだよね!?こんだけくっついといてそういうつもりじゃないとか言う!?」
「え、あ、いわない」

 ロラの勢いに気圧されてガクガクと頷いた。もちろん、いわない。
 ロラが自分といるつもりだとわかってビダルは心からホッとした。モヤモヤが消えるとと同時に、そんなつもりじゃなかったのにロラを責めていた自分に気づいてゾッとする。

「ごめん、俺、なんかおかしい」
「え、なにが」
「さっき、責めて」
「あーうん、そうね。なんか怒ってたね。うん、まあ、ビダルはやきもち焼きってことだよね。わかった」
「やきもち」
「もー私のこと好きすぎじゃない? あははは」

 自分で言って照れてるロラはビダルの肩を叩いた。

 ビダルはロラを凝視する。

 好き

 聞こえた音が染み込んで言葉に変わる。それの意味するところがゆっくりとビダルの中で形になる。そうして理解してしまえばこれほどしっくりするものもなかった。

「好き」
「え?」
「好き。俺はロラが好き」
「え、え、え、あ、……うん」

 そうか、と思う。形にならなくてもどかしかったのはこれだ。そうか、ロラに、そう言いたかったのか。
 どうしたらいいかわかれば、受け止めてくれると信じられるなら。ビダルの中に溢れかえっていたものがロラへ向かって勢いよく流れていく。

「好き。俺はロラと一緒にいたい。ロラに触りたい。ずっと。朝も夜も。ロラに会いたい。俺はロラが好きだから離したくない」

 滞っていたものが消化されてスッキリしたビダルは、大きな目でジッとロラを見つめる。

「ロラは? ロラは俺が好き?」

 真っ赤になって俯いてしまったロラを、体を傾けて覗き込んだ。ロラは顔を覆って照れ隠しに叫ぶ。

「好きですけど―!? もー、顔、隠してんだから見ないでよ」
「かわいい」
「きーーーー」

 ロラは変な声をあげてビダルの胸に顔を押し付けた。奇声を上げながら抱き着いてグリグリしている。ロラのちょっとした奇行もビダルには可愛く思えた。というか、なにしても可愛かった。初めての恋はビダルを捕らえて離さない。

「腹が立ったのそれだけ?」

 それはそうと、他の男が関わるところは細部まで確認したい。

「え、今言う? まあいいけど。えー、なんだっけ。あーんと、そうムカついたのは、……だってさあ、今、私がご機嫌なのはビダルのお陰でしょ? こうサッパリスッキリしてウキウキしてんのはビダルが私を見つけて手を出したからでしょ? くすぶってたのをイイ感じにしたのはビダルじゃない。それをさ、私のご機嫌がもとからそうだったみたいに、私のこれまでとビダルの手間暇をなかったみたいに、たまたまそこにあったみたいに手を伸ばされたら腹立つじゃない。人様の手でできあがったものをお前が持ってこうとするなってさぁ。自分で育てろよって思わない?」

 早口すぎるし、ビダルには抽象的すぎてよくわからなかった。ただ、自分のしたことが評価されてるらしいというのはわかった。つまり。

「俺のため?」
「ビダルと私のため」
「うん。……ロラ」

 ビダルがギュッとロラを抱きしめる。ロラもビダルを抱きしめて胸の中で息を吐いた。

 あーよかったとロラは胸の内で息を吐いた。ムカついたのはもはやどうでもいいけど、やきもちをひきずるのは良くない。不安にさせるのは嫌だ。こじれたら困るし。ビダルのポヤポヤした可愛いさは大事だもんね。落ち着いたようでよかった。……やきもちだって。あー可愛い。

「ビダルも可愛い」

 俺が可愛い。わからないけど、俺がロラを見て思うみたいにロラが俺を思ってたらいい。ロラが俺を可愛いってくっつきたいって思ってたらいい。

「くっつきたい?」
「あはは、うん、くっつきたい。もう痛くないし」
「治った?」
「治った」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...