実妹と恋愛するのは間違っているだろうか!?

明日録

文字の大きさ
19 / 37
第一章 変わる関係

18話 許せないこと

しおりを挟む
 昼時を少し過ぎた時間、遊園地内にある野外フードコートで食事をとる事になった。
 俺と弟くんは注文をするために、店先で三組ほどの客の後ろに並んでいる。
 由衣と先輩には一番端の目立たない席を確保してもらっていて、ここからは他の席の陰になっていて良く見えない。
 
 由衣の視界に入らないように、俺達は彼女らの様子を窺う。
 これからついに、先輩の計画が実行されるわけだ。
 なので緊張からか、先ほどから身体の震えが止まらい状態になっていた。

「おい、大丈夫か?」

 隣にいる弟くんが俺の事を気遣ってか、ほんの僅かに優しめの声を掛けてくる。
 さっきは殺すぞとか物騒なこと言ってきたくせにな……

「顔色悪いぞ」

 弟くんは呆れたような表情で俺の顔を覗き込み、そう言った。

「だ、だいじょうぶだ」
「……そうは見えないけどな」
「少し、吐きそうなだけだ」

 喋るとうっかり心臓が口から飛び出しそうである。マジで。

「そんなに緊張するほどか?」
「……そら、まあ……」

 今回のことは俺達兄妹の関係性を決めるであろう出来事になるはずだ。
 緊張するなという方が無理がある。
 ましてや最近の俺のメンタルは、完全に弱り切っているときた。

「また泣き出すようなヘマはするんじゃねえぞ」
「…………ああ」
「これ以上、話がややこしくなるのは御免だからな」
「……分かってる」

 そんなこと言われんでも同じ轍を踏むつもりは無い……ただ精神状態が不安定なので、あまりプレッシャーになるようなことは言わないで欲しい。

「ほら、こいつをつけとけ」

 弟くんにワイヤレスイヤホンを片方だけ手渡される。
 そしてそれと装着すると、由衣と先輩の会話が聞こえてきた。
 互いに笑い合い、実に楽しそうな雰囲気だ。
 しかしながら、これから起こることを考えると、酷く胸が痛む。

「……」
「……」

 俺たちは黙って彼女達の会話に耳を傾ける。

――

『ねえ、由衣ちゃん。凄く面白いものがあるんだけど……見てみたくない?』

 不意に先輩が本題を切り出す。
 その瞬間、俺の鼓動が一層と高鳴る。

 由衣は呑気にも「気になります。見てみたいです」と、興味津々といった様子だ。

『最近見つけた動画なんだけど……凄く笑えるの』

 先輩が汚い笑みを浮かべているであろう事は想像に難くない。

『ええ、なんだろ。ハプニング系の動画ですか? それともお笑いですか?』
『それは見てからのお楽しみかな』

 その動画が何なのかを分かっている身としては非常に心苦しい。
 俺なら絶対にそれを見たくはないからだ。
 本来なら由衣に見せる事もしたくはない。

 俺の人生最大のトラウマ。

 あの放課後の、無くしてしまいたい記憶。

 俺が由衣に告白した――あの時、撮影していた動画。

 情けない俺の声が流れる。

 聞くに、堪えない。

『…………あの……これ…………なん、で』

 明らかに戸惑っているであろう由衣の声。
 その裏でクスクスと先輩の笑い声が聞こえる。

『どう? 面白いでしょ?』

 先輩の声からは悪意しか感じられない。

『…………なんで、先輩が……これを……』

 今までの明るい雰囲気が嘘のように、空気が凍り付いていくのを感じる。
 
『ホントに馬鹿だよねえ。あいつ』
『……せん、ぱい?』
『いくら私と付き合いたいからってさ、自分の妹に告白とかするとかキモ過ぎだっての』

 先輩は冷たく、吐き捨てるように言った。
 普段の先輩の物腰からは想像もできないくらいに、まるで別人のように。

『……どういう、ことなんですか?』

 由衣は苦しそうに声を絞りだす。
 良い人だと思っていた人物が、豹変したとあっては仕方もないだろう。
 
『先輩と付き合えるなら何でも出来ますって言うからさ、じゃあ妹に告白してみてよっつったらマジでやるんだもん。アホかっての』
『……なんで……そんな事……』
『は? 冗談のつもりだったのに、あいつが本気にするからじゃん。馬鹿なんだよ馬鹿。あんたは毎日一緒にいるんだから分かるでしょ? あいつの馬鹿っぷりがさ』

 先輩の口調はどんどん悪くなっていく。
 見事に低俗な人間を演じきっていると言っていいだろう。

『しかもピーピー泣き出してダサすぎでしょ。あんた恥ずかしくないの? あんなのが兄貴で』
『……そんな事、ない』
『……あ?』
『……お兄ちゃんは、かっこよくて……優しい……』
『はっ、どこが? 付き合い始めた初日にセックスしようとする猿じゃん』

 先輩が家に来て、服をはだけて見せた時の事だ。由衣はその場面を目撃している。

『………………ちがう』
『所詮カラダ目的なんだって。今日も二人きりになったとたんベタベタ触ってきたし、盛り過ぎじゃね? あんたの兄貴』
『違う! お兄ちゃんはそんなんじゃない!』
『違わねえんだよ。ヤルことしか頭にない猿だろ』

 
『お前にお兄ちゃんの何が分かるッ!!』

 
 イヤホンからは音割れた由衣の怒鳴り声。
 それは空気を伝って、離れた位置の此処まで届いて来た。
 そのくらいに大きな声だ。

「おい、頃合いだ。行くぞ」

 弟くんは俺の背中をポンと叩き、二人のいる席に向かい、俺もその後に続く。

『……なにムキになってんの?』
『もうお兄ちゃんに関わらないで』

 イヤホンからは依然として二人の会話が聞こえる。

『あんたには関係ないでしょ』
『私のお兄ちゃんだから』
『あいつは私のおもちゃなの。なんでも言うこと聞いてくれる奴隷だから』
『そんなの、許さない……これ以上、お兄ちゃんに酷いことをしないで』

 由衣の語気が荒くなってくる。
 だからといって先輩が譲ることはない。

『酷いこと? 私みたいな美人と付き合えてあいつも喜んでるでしょ。それに妹だからって兄貴の色恋に首を突っ込むのはおかしくない?』

 先輩は大きな態度を崩すことなく続ける。
 
『それともなに? あんた、もしかして――』


 
 先輩がそう言ったのと、俺が由衣の姿を視界に捉えたのが同時だったろうか。

 由衣は勢いよく立ち上がり、大きく腕を振り上げ、そしてそれを――先輩の顔に叩き込んだ。
 
 その衝撃で、先輩は椅子ごと地面に倒れ込み、手に持っていたスマホは大きく地面を転がっていった。

「由衣ッ!」

 反射的に由衣の名を叫んでいた。
 由衣は俺の存在に気が付き、驚いた様子を見せると逃げるように走り去っていく。

「由衣ッ!!」

 もう一度叫んでみても、由衣は振り返らない。

――

 あれほどに声を荒げる由衣は初めてだった。
 兄妹同士で喧嘩をしたときだって、あんな怒声を上げることは無い。

 『お前にお兄ちゃんの何が分かる』

 その叫びが、俺の脳内を木霊していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...