実妹と恋愛するのは間違っているだろうか!?

明日録

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第一章 変わる関係

19話 触れ合う気持ち

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「姉さん、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
「……ったく、随分と手酷くやられたな」
「それはお互い様よ。こっちが煽ったわけだし」
 
 先輩の頬は由衣からの強烈な一撃をもらい、赤くなって痛々しい。
 それを弟くんは優しく撫でる。
 
「痛かったろ」
「ええ、効いたわ……由衣ちゃんってああ見えて力強いのね」

 先輩と由衣が口論になるような算段ではあったのだが、まさが由衣が暴力を振るうとまでは思っていなかった。
 
「すいません! 俺のせいで……こんな」

 俺は先輩に深く頭を下げて謝った。
 由衣がした事とはいえ、もともとは俺の責任だ。
 悪役までやってもらい、こんな目に遭わせて、本当に申し訳ない気持ちだった。

「いいから、いいから。そんな事より、ここだと人目があるから、ね?」

 そう言われて周りを見渡すと数人の客が何事かとこちらの様子を窺っている。
 あれだけ騒げば当然だろうか。

「とりあえず場所を変えようか。近くに良い喫茶店があるから、そこに行きましょう」
「……はい」
「ほらシャキッとする! 上手くいったんだからもっと喜びなさいよ!」
 
 俺の力無い返事を咎めるように、先輩は俺の背中をバシバシと叩いてくる。

「とりあえずは、腹ごしらえね!」

 先輩は気にするなと言わんばかりの笑顔を向けてそう言った。


――
 

 遊園地から少し離れたところにある小洒落た喫茶店に入り、俺たちは少し遅めの昼食をとった。
 昼時を過ぎていることもあり、店内の客は少なく、落ち着いた雰囲気だ。

 食後のコーヒーを飲みながら今後の事について話し合う。

「この後、ちゃんと由衣ちゃんと話せそう?」
「……たぶん………………大丈夫だと、おもう……」
「どうだかな。さっきはブルブル震えてビビってたじゃねえか」
「そうなの?」
「……ええっと……まあ……」

 なんだかすっかり俺の情けないイメージがこの姉弟に浸透してしまった。
 先輩はやたら心配そうに聞いてくるし、弟くんは嫌味ったらしく責めてくる。

「今のこいつが妹と二人きりになって、まともに話せるとは思えないけどな」

 弟くんには言われっぱなしで悔しい限りなのだが、実際にそうなりそうなのは、俺自身理解してるので言い返せない。

「いい? 優人。あなたは由衣ちゃんに大切な彼女をぶたれてデートを台無しにされたの。だから由衣ちゃんに対してちゃんと怒っている態度を取って欲しいんだけど……分かってる?」
「……分かってはいるけど……ちゃんと出来るかは、少し不安かな……」
「不安なのはこっちだっての。姉さんが身体張ったんだからヘマしたら許さねえぞ」

 先輩に優しく諭されたらと思えば、弟くんは脅してくる。何という飴と鞭か。

「…………あの……やっぱりさ、先輩があれだけやってくれたんだし……俺はいつも通りにってのは……駄目かな?」
「優人くん……」
「お前なあ……」

 俺の日和った意見に新庄姉弟はそろってため息をつく。

「いい? 優人は妹に告白しろって命令を受け入れちゃうくらい私に惚れてるの。それなのにその彼女に危害を加えられて平気な顔をしていたら不自然でしょう?」

 まったくもってその通りなのだが、またあの放課後のように失敗してしまうよりは良いのではないかと思った次第で……
 実際、これから家に帰った時に、由衣が俺に何を言ってくるのか全く想像がつかない。
 想像がつかないと、心構えも出来やしない。
 ただでさえ不測の事態に弱いというのに、それでは由衣と上手く会話など成り立ちはしないだろう。
 俺には失敗する未来しか見えなかった。

「……ごめん。正直、あんな荒れた由衣を見た後だと、上手く話せる自信がなくて……」
「そう、なら…………そうね…………」

 俺が弱音を吐くと、先輩はどうしたものかと考え込む。

「……それじゃあ無視をするだけでもいいわ」
「無視?」
「そう。要するに怒ってるのが伝わればいいのよ。無視をするだけならボロが出ることもないでしょ?」
「……なるほど」

 確かにそれなら俺でも失敗はしないだろう。
 
「ま、しばらくは気まずい感じになるだろうけど、そこは我慢して頂戴」
「……気まずく、なるよな……」
「大丈夫。頃合いを見て私たちは別れたことにしましょ? そしたら後は時間が解決してくれる……きっと普段通りのあなた達に戻れるから」

 ……そうだ。
 これで終われる。
 終わってくれないと困るんだ。
 
「わかった。その線で行ってみる」

 腑抜けの俺にとっては良い妥協案だ。
 
 ただ、それでも不安は拭えない。
 狂った歯車はそう簡単には戻らない気がしていた。
 

――


 それから適当に時間を潰した後に、俺達三人は解散する流れになった。

 家に帰る足取りは重い。

 ただ無視をするだけで良いとは言え、由衣に対して酷い事をしているのには変わりなく、非常に心苦しく思う。
 
 しかしそうは言ってられない事情もある。
 先輩があそこまでの事をやってくれたのだ。
 それを無駄にするような真似は出来ない。

 家の前に到着すると、例のごとく身体に緊張が走る。
 震えだす脚に、思わず自嘲的な笑みがこぼれた。
 
 玄関の扉はいつも以上に重い。
 
 仕事熱心な両親は居ないので、由衣が帰って来ているとすれば二人きりになってしまう。
 
 今、由衣は自室にこもっているだろうか、それともリビングにでもいるのだろうかと、そんなことを考えながら家の中に入り、俺は面食らってしまった。

「お兄ちゃん……」

 由衣が玄関に居たのだ。

 壁に背をつけ、体育座りで床に座っていた。
 まるで俺を待っていたかのように。

「……っ」

 おもわず間抜けな声が出かかったが、すんでのところで堪えることが出来た。
 由衣は立ち上がり、俺の側に寄って来る。

「あの……さっきは、私……」

 今にも泣きそうな顔で、震える声を詰まらせながら何かを言いかけるが、俺はそれを聞かずに由衣の横を通り過ぎる。

「お兄ちゃん!」

 由衣の懇願するような呼び声に振り返ることなく、俺は部屋に向かった。
 
 自室に入り、ベッドに身を投げて、枕に顔をうずめる。

 由衣が待ち構えているとは思いもしなかった。
 ずっとああして待っていたのだろうか……

 不意打ちを食らって驚いた心臓がバクバクとなっている。
 気持ちを落ち着けるために、ギュッと強く目を閉じた。


――
 

 ゆっくりと目を開けると見慣れた天井が見える。
 どうやら少し眠ってしまっていたようで、緊張は抜け、身体はすっかりと落ち着いていた。

 そのままぼんやりと天井を見つめ、今日あった事を思い出す。
 
 先輩が悪役を演じきってくれたおかげで、由衣はあの告白が先輩のせいだったのだと、そう思い込んでくれているはずだ。
 俺達はこれからもずっと兄妹であり続ける。
 
 これで良かったのだ。これですべて解決したのだと、そう思いたかったのだが――

――コン、コン と、控えめなノックが響いた。

「お兄ちゃん? 入っても良い?」

 由衣がドア越しに許可を求める。

 入って来るなと拒絶するべきなのか、無視をするべきなのか……俺はどうしていいのか分からずに、そのまま何も言えずにいた。

「入る、よ?」

 沈黙を肯定と捉えたのか、由衣はゆっくりと扉を開け、部屋の中に入って来る。
 
 鍵を閉めていなかった事を酷く後悔した。
 どう考えてもこの状況は俺の身に余る。
 
 俺に出来る事と言えば寝たふりをして、この場を乗り切ることだ。
 目を閉じ、吐き出す息が震えぬよう、スーッと静かな寝息をたててみせる。
 
「寝てるの?」

 その通りだからと、今は寝ているから早く部屋から出て行ってくれと……そう願うのだが、由衣はそれを許してくれない。
 
 足音がこちらに近づいてきた。
 
「お兄ちゃん?」

 すぐ隣から声が発せられる。
 俺の鼓動が由衣に聞こえてしまうのではないかと気が気ではない。
 
 ベッドに沈み込む感覚があり、由衣がベッドに腰かけたのだと分かる。

「お兄ちゃん」

 再度、俺を呼ぶ。
 俺はそれでも寝たふりを続ける。

「お兄ちゃん」

 由衣はもう一度言うと、俺の胸にそっと手を当てた。
 
 これは不味い。
 非常に不味い。

 俺の暴れまわる胸の内を知られてしまう。
 
 どうすればいい?
 どうしたらいい?

 訳も分からず混乱していると、ふっとが俺の顔の近くに寄ってきた。

「…………」
 
 そして――俺の唇に、それが優しく触れた。
 その感触は柔らかく、少し、震えていただろうか。
 数秒触れ合い、それは離れていく。
 由衣の吐息をすぐそばで感じる。

「……私……お兄ちゃんが好き……」

 由衣が放った言葉は俺の思考をかき乱す。

 今の俺には大きすぎる問題だ。
 どうしていいのか分からずに、俺はそのまま寝たふりを続けることしか出来ない。

 そしてもう一度、俺の唇に柔らかな感触がやってきて、数舜たって離れていく。

「好きだよ……お兄ちゃん」

 最後にそう言い残し、由衣は部屋を出て行った。

 

 ――こんなことはきっと、間違っている
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