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古い民家がぽつぽつと並ぶ住宅街。
辺りは、シーンと真っ暗闇の中、
一軒の民家の2階から光が漏れている。
その部屋で女は、タバコをふかしていた。
高校の体育ズボンとロックミュージシャンのバンドTシャツ。
ビールを脇に置き片手にiPhoneをスクロールしている。
1年前に起こった通り魔事件の裁判がネットニュースになっていた。
スーパーの帰り道、自転車に乗っていた女性が金品を盗られ殺害された。
裁判では、愛する妻を殺された夫の悲痛な文書や思春期に母を失った息子の戸惑いや日常の無情さが語られていた。
女は涙ぐみながら、タバコの煙を押しつけ残りのビールをぐっと飲み干した。
「私が替わりに刺されればよかったのに。」
そう言って自嘲気味に笑った。
下っ腹に鈍い痛みが走る。
周期遅れのPMSの兆候だった。
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辺りはワイワイと大学生の男女がほろ酔いで楽しそうに歩いている。
そんな姿にコンビニの前のベンチに腰掛けていた、
和泉なぎさは下を向き前髪を整えた。
「和泉‼︎」
ハーフパンツにTシャツというラフな姿をした長身の男が声をかけた。
「ごめん。もっと遅くなると思ってたから風呂入ってた。」
「いや…思ったより早く仕事が終わったので…
それより、久しぶりですね。」
前髪に手を掛けながらなぎさが言った。
高鳴る鼓動が聞こえないように立ち上がった。
「どこ行きますか⁇」
「ちょっと歩いた先に焼き鳥屋があるから。」
早歩きで歩く男に遅れないよう、少し後ろを小走りで追った。
その猫背の後ろ姿を見上げながら、手を伸ばしたい衝動に駆られた。
「好きって言えばよかった。」
「えっ」
そう言った男の声が遠くなった。
*
*
*
*
*
窓から差し込む光に女は眉間にシワを寄せた。
枕元に置いてあるiPhoneを手に取り
04:00と書かれた待ち受け画面を見てため息をつく。
「いっっってぇーー」
重たい身体を起こし下っ腹をさすりながら、
1階にある薬箱を目指す。
「なぎさ。生理⁇」
数分ほど、ガサゴソと置き薬探っていると
起きてきたパジャマ姿の白髪の女が声をかけた。
「母さん。起こした?」
「歳とるとね、朝が早いの。
あんた年々重くなるね。
普通は年をとったら軽くなるもんよ。生理」
「そんな事言ったって。痛いもんは痛いんだもん。
そしてまだ。来てないと思う。
こっからが長いんだよね。
始まっても2日までは痛いしさ。
じゃっまだ3時間程寝れるから。
おやすみ。」
そう言ってなぎさは、トイレに寄ってから
急斜面の細い階段をミシミシ音を立てながら
部屋に上がった。
「まだユメに見るんだ。」
そう呟いてまた布団に潜り込んだ。
「どうせなら、うまくいったユメ…見せてくれたらいいのに。
まぁ…上手くいってたら…今頃こんなユメ見ないか。」
だんだん大きくなる独り言の声に気づき、
口元を押さえた。
彼女の父親が寝ている部屋の方を向いて
さっと深く布団をかぶった。
ギュッとなる胸の痛みとは逆に
和らいでくる下っ腹の痛みを感じながら。
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