私の恋は、手のひらの上

再会

1.初恋は実らないという

　24歳。社会人三年目。
　仕事にも慣れて、上京してきたこの街での暮らしにも、ようやくリズムが掴めてきた。

　慌ただしかった新人の頃を思えば、今はだいぶ余裕がある。
　休日には映画を観たり、掃除した部屋でゆっくりコーヒーを淹れたり。
　そんなふうに、自分の時間を楽しめるようになったのは、きっといいことなんだと思う。

──でも、その分だけ、ぽっかり空いた心の隙間に、ふと昔の記憶が入り込む。

　玄関のドアを閉めたあと。
　夜、眠る前にスマホの光をぼんやり見つめているとき。
　不意に、あの声が蘇る。

──美緒ちゃん、一人だったら、俺と組もうよ！

　優しい笑顔。
　太陽に透ける、やわらかな茶色の髪。
　私の手を引く、あたたかい体温。

　どれも、もう朧げになっているはずなのに。
　それでも、なぜか忘れられない。

　……まだ、好きなのかもしれないな。

　でも、いつまでも“思い出”に恋しているわけにはいかない。
　もう24歳。友達の中には結婚した子もいる。

「……そろそろ、ちゃんと恋愛しないと」

　そう思って、私はマッチングアプリを始めた。