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最初の試験編

試験開始日の朝

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「財布よし、学生証明書よし、超高速モノレールの電子パスよし、私特性対策ノートよし、そして……眼鏡よし」

時間は朝の7時、秋乃奏あきのかなでは今日に入って6回目の荷物の確認を終えたところだった。

「私が試験を受けるのは東京第二支部、降りる駅はT―102」
空中ディスプレイに表示されている日本教育連盟からのメールを何度も確認し彼女は呪詛のように
「東京第二支部T-102」と言いながら自分の部屋を出て洗面台へ向かい顔を洗う。
姿見の前に立ち長い髪の毛を右と左に均等に分けそれぞれを三つ編みにする。
奏がリビングに向かうといつもよりほんのちょっとだけ豪華な朝食が食卓に並んでいた。

「おはよう奏。もうご飯できてるわよ」
「おぉ、おはよう奏。昨日はよく眠れたか?」

先にリビングにいた奏の母と父が娘を見て声をかける。

「おはよう。どうしたの?この朝食、えらく気合入ってるね」
「そりゃあ娘の大事な試験の日だもの、それにいつうちに帰ってこれるかわからないんだから朝食作るのも気合が入るわ」

奏の質問に母は優しい笑顔で答え、家族そろって食卓を囲い始める。

「そう言えば奏、服はそれでいいのか?確かこの試験は服装自由だっただろ、わざわざ学校の制服着なくたって」
「いいの、制服ならだれが来ても変には思われないでしょ。これがベスト!」

淡い赤を基調としたセーラー服を見せながら奏はドヤ顔で父の質問を返す。

「まぁ、お前がそれでいいんならいいけど。この試験は結構いろんな人と知り合いになる機会があるから友達少ない奏にもたくさんの友達が出来るかもしれないぞ、かくいう父さんもこの試験で母さんと出会ってだな」
「はいはい、ごちそうさまでしたっと」

奏は無慈悲にも父親が始めようとしたのろけ話を中断し自分の食器を片付けていく。
そうして、7回目の最終の持ち物チェックを済ませ玄関に立った。

「それじゃあ行ってくるから」
「ええ、奏なら大丈夫よ。頑張って」
「帰ってきたときには宴会だからな。肩の力抜いていけよー」

奏は玄関で両親に激励を送られながら超高速モノレールに乗れる最寄り駅まで足を運ぶ。
季節は十月、今日は今年高校2年生を迎えた学生にとって最も大切な「社会人基礎力VR検定試験」の受験開始日。
この試験をクリアしなければ大学受験や就職活動ができないどころか、高校三年生になる資格さえも与えられない。
日本中の高校二年生たちが大きな希望と不安を抱えながらそれぞれ割り当てられた試験会場へと足を運ぶ。

「きっと大丈夫、こんなにたくさん調べたんだから……大丈夫」

奏は自分の中から湧いて出てくる不安をかき消すようにお守り代わりの「私特性対策ノート」を何度も何度も見直し、気が付けば超高速モノレールは目的地である東京第二支部があるT-102へたどり着いていた。
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