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2章 ファナエル=???

ノイズと頭痛とガム

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 「あ、秋にぃ起きた」
 「アキラ大丈夫?私が分かる?」

 ふんわりとぼやける俺の思考がジワリジワリと覚醒する。
 目に入るのは間違いなく俺の部屋で、レジ袋の中身を物色している斬琉きるの姿と心配そうにこちらを見つめるファナエルの姿がそこにはあった。

 「イテテ‥‥‥ファナエルがなんで俺の部屋に?」
 「嫌な予感がするからって家まで駆けつけて来たんだよファナエルさん。薬とかもほら、こんなに沢山」

 ガサガサと音を立ててレジ袋を掲げる斬琉きる
 その袋からは頭痛薬のCMでよく見る黄色い箱やミネラルウォーターのペットボトルがうっすらと見えている。

 「色々買ってきてくれたんだな」
 「アキラが頭痛で寝込んでるって事をキルちゃんが教えてくれたからね」
 「悪いな、心配かけたみたいで」
 「気にしなくていいよ、恋人同士なんだし」
 
 そう言ったファナエルは愛の誓いをした跡が残っている右耳付近の髪の毛を弄っている。彼女の顔は若干赤く染まっていて、どこか不安そうでもあった。

 『アキラが私を######嬉しかった』

 瞬間、頭の中にファナエルの声が響く。
 大きなノイズが混じっていて一部聞こえない所があったものの、その声は俺の理性を壊すには十分すぎるものでー

 「こんなに可愛い彼女が居るなんて俺は幸せものだな」
 
 気づけば彼女の手をそっと握りしめていた。
 ジィっとファナエルの顔を見つめる。
 彼女もそれに呼応するように俺をじっと見つめている。

 『いいよ、アキラがしたいなら』

 不安な表情が消え、更に赤くなった彼女が顔がゆっくりと近づいてくる。
 いつもなら恥ずかしくて逃げ去ってしまうのだが‥‥‥不思議な事に体が逃げようとしないし恥ずかしさも感じない。

 これは……いわゆるムードってやつなのか?
 それなら俺はこのままファナエルと唇をー

 「んっんん!!あ~、甘い。砂糖吐きそうだしコーヒー取って来ようかな!!」
 「へ、ん?うわぁ!!お前まだ居たのか」
 「ずっと居たでしょうが!!ムードに飲まれて僕の存在消すんじゃないよ秋にぃのバーカ!!」

 さっきまでのムードが粉々に砕け去る音がする。
 『恋人とキスする寸前までいった所を実の妹に見られる』シチュエーションはアニメやラノベなんかで何度か見てきたが……羞恥心しゅうちしんがこんなに湧いてくるものとは思わなかった。

 この状況でファナエルや斬琉きると目を合わせるのが気まずい……ここは今まで見てきたハーレム系主人公に習って布団で顔を隠すことにしよう。
 
 「ビミョーに隠しきれてないし!!あ~もう、僕は自分の部屋に帰るからね」

 フーッと困ったようにため息をつきながら斬琉きるはコンビニ袋をファナエルに突き出した。「僕よりファナエルさんに見てもらった方が喜ぶし」と文句まで添えながら。

 「あ、そういやウチの両親からファナエルさんに伝言」
 「私に?」
 「『もう深夜だから泊まったら』てさ。二人共ファナエルさんのこと気に入ってるみたいだよ~、孫はきっと可愛い子になるってさ」

 あのバカ親たちなんてことを‥‥‥ってかそれファナエルに伝えなくていいだろ!!
 斬琉きるの奴一体何考えてー

 『あ、秋にぃの顔赤くなってる。やっぱり秋にぃからかうのは楽しいなぁ』

 「お、お前なぁ」
 「じゃあ、そういうことだから。何やっても良いけど隣にある僕の部屋まで聞こえる物音立てないでよ~」
 「フフ、肝に銘じておくね」

 小悪魔的な笑みを浮かべて俺達を煽る斬琉きると笑顔のままそれに動じないファナエル。
 なんかこれお互いに牽制しあってるように見えるんだが……女の人って何考えてるか分からん。

 『あの子がアキラの妹か。ちょっと距離が近すぎる気がするけど#################みたいだね』
 『やっぱり##で話題になってた###がファナエルさんか。まぁ秋にぃが彼女と付き合いたいって言うなら、あくまで妹#####じゃ口出しできないね』

 また頭に声が響く。
 今度の声は二人ともノイズがひどいしさっきまで気にならなかった頭痛もひどくなってきた。

 「アキラ、もうキルちゃん行ったから顔出してもいいんじゃない?」
 「そ、そうか。もうこんな時間だけどファナエルは眠くないのか?」

 ちらっと目にした時計の針は深夜の一時を指している。
 こんな遅い時間まで看病してくれたのはありがたいが、そのせいでファナエルが寝不足になるのは忍びない。

 「ううん、私は大丈夫……また頭痛がぶり返してきたんじゃない?」
 「ちょっとな……でも我慢すれば何とかなるレベルだし心配いらないよ」
 「我慢すれば大丈夫なんて言っちゃ駄目。良かったらこれ噛んで、少し楽になると思うから」

 そう言って取り出したのはファナエルがいつも噛んでいる黒いガムだった。
 どこのメーカーが作っているか分からないそのガムを彼女は俺の口にそっと置く。

 「ほんとだ、ちょっと楽になった気がする」
 「それなら良かった。眠たくなったらこの紙に吐き出してね、私はアキラが寝るまでここに居るから」

 そう言って彼女はベッドの空いているスペースにちょこんと座り、俺の頭を優しく撫でる。
 
 『貴方の身体は今何者かによって変質させられているのです。最近変な物を食べさせられたりしませんでしたか?』
 『心当たりがあるならその人と距離を取るべきなのです。その人はあなたの人生を大きく狂わせます』

 夢の中に出てきた氷雨と言う女の子の言葉を思い出す。
 彼女が何を思ってあんな事を言ったのか俺には分からない。
 彼女の言う通りファナエルの作った例のクッキーや俺が食べた彼女の髪の毛が俺の身体を変質させているのかも知れない。

 でも、こんなに優しい笑顔を見せてくれる彼女がただ俺を傷つけるためにそんなことをするはずがない。今俺の身体に起こっている異変はきっとファナエルにとって大切な何かで、それを皆悪いものだって勘違いしてるんだよ。

 きっとそうに違いないさ。
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