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2章 ファナエル=???

それは愛の仕掛けだから

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 「ふぅ……私の顔みて何か思いつくことある?」
 「そりゃぁお前……あれ、さっきまで誰かの顔と同じだと思ってたのに」
 「よしよし。あ~危なかった」

 突然現れた虹髪の少女はホッと、安心したような息を漏らす。
 
 「いい?私は君のピンチを救うために来たいわばお助けキャラなの。だから君は素直に私に助けられるだけで良いの、だから私の正体に関することは考えないでね」

 「いや、無理があるだろそれ」

 ピンポイントで何かを思いだせないという違和感を覚えるその見た目。
 軽口をたたきやすい謎の雰囲気。
 脈絡もなく突然現れて、氷雨たち超能力者の集団の動きを時間でも止めたみたいに停止させた力。

 そんな要素を持つ存在がいきなり目の前に現れたら正体の一つや二つ気になる所だろう。

 「大体私の事考えてる余裕ないんじゃない、この状況?」
 「……そうだな、今はこの状況をどうにかする方が先だ」
 「そうそう、愛しのファナエルさんの為に頑張らないと!」
 「なんでファナエルの事を知ってるか聞いても答えてくれないんだろ?」
 「話が早くて助かる~。それじゃ動かないでね」

 そう言った彼女は左手を大きく開いた。
 すると、ドクドクと鼓動する紫色の液体が彼女の左手に絡みつき始めた。
 その液体はバッ、バッ、と音を打ち鳴らしながら形を変えてゆく。

 「ミョルニル・レプリカ」

 気づけば彼女の左手には銀色の鉄槌に変化した。
 彼女はそれを大きく振りかぶると、俺のすぐ隣の地面に向かって振り落とした。

 地面をえぐるような衝撃と、悲鳴のようにも聞こえる金属音が辺り一帯に響き渡る。
 体の拘束が無くなった事を確認すると、俺は両足に力を入れて今度こそ立ち上がった。

 「あっぶないなお前!!俺の身体に当たったらどうするつもりだ!!」
 「残念でした~。私はこいつを使って一度も手元が狂ったことがありません。君がビビりすぎなのが悪いんじゃな~い」
 「あのな……いや、いいや」

 なんだろう、こいつと話してたらなんか疲れるし緊張感も薄れる気がする。
 とりあえず……今はるるが使ってた魔眼の影響もないみたいだし、今の内に口の中のガムを吐き出しておくか。

 俺はポケットの中からテッシュを取り出し、ファナエルから貰った黒いガムを吐き出す。
 その刹那、いつぞやと同じように心の声が頭の中でガンガンと響き始めた。

 『秋##も助けたし、ファナエルさんにも###で特定した秋##の###送ったし、私がやらかしたヘマの尻ぬぐいは出来たかな』

 『まさかただの人間だと思ってた子があんなに強い##力持ってるとは思わなかったし……うん、私は悪く無い』

 『にしても正体バレかけるとは思わなかったなぁ……##としての力を30%しか出さなかったのが裏目に出たのかも』

 「ッツ……この頭を殴るみたいな痛みがキツイな」
 「ん~?もしかして今、私の心の声を聞いたとか?」

 虹髪の少女は首をかしげて俺をじぃっと見つめはじめる。
 すると、何かを見つけたのか彼女はニヤリと笑い始めた。

 「あ~、そりゃあ力の使い方がへたっぴだからだよ」
 「力の使い方?」
 「まぁ彼女らしい仕掛けと言うかなんというか……君の体にファナエルさんが仕込んだその力を上手く扱うにはね、愛が重要なんだよ」
 「愛?」
 「そ、君の中にあるファナエルさんに対する愛」

 彼女はそう言った後何かを気にするかのように辺りを見渡す。
 つられて俺も周りを見てみると、動きを止めていた氷雨達の身体がゆっくりゆっくりと動き始めていた。

 「色々言いたい事あったけどここら辺が潮時か……まぁいいや、ヒントはあげたし。ファナエルさんと君が今後どんな関係になるかは君の行動次第ってことだね」

 それじゃぁ頑張ってね、と軽い口調で言った彼女は俺に背を向けて歩きだす。

 「あ、ちょっと待て」
 「も~何?!これ以上私に何かたかるつもり?」
 「……アンタの正体はよくわかんないけど、どうして俺の事を助けてくれたんだ?」

 俺の言葉を聞いた彼女はピタリと足を止める。
 そしてひときわ大きな彼女の心の声が頭の中で反響した。

 『まぁ######だしミッションのことぐらい教えてもいいかな』

 ミッション?

 不意に聞こえた場違いな言葉に首をかしげていると、彼女はぐるりと上半身をのけぞってこちらに振り返り、首に嵌められている緑色の金属で出来た太い首輪を両手の人差し指でツンツンと差した。

 「、『牛草秋良が幸せでいること』って条件を満たしてあげないとコレが私の首を閉めちゃうからね」
 「え?!」
 「だからさ、ファナエルさんにカッコイイ所見せてさっさと幸せになってよね」

 彼女はそれだけ言って指をパチンと鳴らした。
 次の瞬間には彼女の姿は見えなくなり、グゥゥゥンと耳をえぐるような低音が辺りに響いた。

 「あ、あれ?お兄さんがどうしてあんな所に居るのです?」

 そして、氷雨達の身体も動き始めていた。
 再び俺の事を凝視し始める超能力者達をジィっと見つめて俺は一人、虹髪の少女が残した言葉を思い出していた。

 「当り前だ、絶対にファナエルと幸せな未来を掴み取って見せる」

 決意を固めるために漏れ出した独り言。
 自然と右の手は強く拳を握っていた。

 「だって俺は……ファナエルの事が大好きだから」

 脳裏に浮かぶのはファナエルの顔だった。
 
 「だからファナエルが望むなら、化け物にだって何にだってなってやる!!」

 俺のその声に呼応するかのように何か大きな力がドッと湧き上がる。
 次の瞬間、右腕から大量の銀髪が生え、俺の視界を埋め尽くすほどに溢れ出た。
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