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最終章 罰

温かい新生活に芯まで溺れて

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 「にしても、何も置いてない部屋を見るのは新鮮だな」
 「そう?私はもう見慣れちゃったな」

 眼前に広がるのは空っぽの部屋。
 これから俺とファナエルが過ごす事になる家の景色だ。

 異砂イザ市ヨモツ町にあった少し古いビル。
 俺達はそのビルの2階と3階の部屋を借りる事になった。

 2階は二人で始める霊能事務所に使い、3階が俺達の住む家になる。

 「にしても……審査とかの件はファナエルに頼りっぱなしだったな」
 「高校生のふりをして色んな所に家を建てたりしてきた経験がアキラの役に立って良かった」

 世間の人から見れば、俺達二人は家出してる高校生カップルも同然。
 当然そんな奴らに家やら部屋やらの契約をしてくれる大家は居ない。

 結局、この二部屋を借りる事が出来たのはファナエルが堕天使の力を上手く使ってくれたおかげだ。
 力の総量という面では今の俺の方が優れてるみたいだけど、正直ファナエルみたいに器用な使い方は出来る気がしないな。

 「次は家具を買いに行こう。バスに乗って数分の所に家具量販店と家電量販店が隣り合わせに立ってるところが有るみたいだよ」
 「いつの間に調べたんだ、それ?」
 「アキラが電車で寝てる間に。さっきも言ったけど、こういう事は慣れてるからね」

 お出かけ用の小さなバッグを肩にかけながらファナエルは微笑んだ。
 
 「あ、でも……」

 何かに気づいた様にそう言った彼女は俺の目をじっと見つめた後、ぶらぶらとしていた俺の右手をそっと握る。

 「誰かと幸せになる為の家具を買うのは初めてなの。だから、二人でじっくりお買い物しようね」
 「……ああ、もちろん」

 ファナエルの手を離さない様にぎゅっと握り返す。
 少し力んでしまっている様に感じるのは、さっきの言葉が俺の独占欲を変に刺激したからだ。

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、それとも俺の心を読んだのか。
 ファナエルはご満悦な様子で部屋の扉を開いたのだった。

 ◇

 「当日配達サービスが有ったから助かったね」
 「そのおかげで何とか夜までに家具を並べられたからなぁ」

 時刻は深夜0時。
 ベッドや机などの最低限の家具を並べた俺達は交互にシャワーを浴び、その後で買っておいたカップ麺にお湯を注いでいた。
 飲食用のテーブルにカップ麺を置き、俺達は買ったばかりの椅子に座って3分経つのを待つ。

 「天界からの追手は大丈夫そう?」
 「ああ、幸運にもここに来るまで見つかる事は無かったみたいだ。このビル全体に結界も張ったし、ここはもう安全だろう」
 「そっか。それじゃあ今日はぐっすり寝られるね」

 ピピピピ、ピピピピ。
 タイマーの音がけたたましく鳴り響く。

 お湯を入れるだけと言う楽な作業で作った今日の晩御飯は、その手軽さに見合わない濃い味で疲れていた俺の身体を芯から温めてくれた。
 凝った料理もいいけれど、こう言う日は楽に作れるインスタントも良いねと話をしながら麺をすすり、最後に残ったプラスチックのカップを透明なゴミ袋に入れる。

 二人並んで洗面台に立って歯磨きを終わらせ、今日買ったダブルベッドがある場所まで足を運んだ。

 「やっぱりダブルベッドで寝るのは恥ずかしい?」
 
 ファナエルの質問を聞いて、心臓がドクンと跳ねる。
 どれだけ二人で旅をしても、自分がどれだけ強い力を手に入れても、やっぱり俺の本質は変わらないようで……いきなりファナエルと隣で寝て大丈夫とは行かない。

 でも……このベッドを見た時にファナエルが心の中で強く『このベッドが欲しい』と願っていたのを聞いてしまって、いい加減ヘタレな自分に腹を括らないといけないんじゃないかと思ったんだ。

 「ちょっと心臓がうるさいだけだよ」
 
 そんな言葉で誤魔化して、俺は先にベッドに入った。
 そんな俺に続いて彼女もベッドに入り、二人並んで横になる。

 「ねぇアキラ」
 「何?」
 「旅をしてる時、ずっと寝ている私を守ってくれてたんでしょ?」
 「……たまたまファナエルが寝てる時に襲われただけだよ」
 「私、嬉しかったんだ。今まで私を守ってくれる人なんていなかったから」
 「……」
 「でも、ちょっと不安だったんだよ。明らかにアキラは寝不足だったし、電車で寝てる時も顔色は良く無かったし」

 ゴソゴソと布団が擦れる音がする。
 少し気になって視線を彼女がいる方向に向けたとたん、俺の身体は彼女にカバっと抱きしめられた。

 「わ、ちょっー」
 「今日も私が寝るまで起きて見守るつもりだったんでしょ?」
 「……バレた?」

 バレバレだよと言いながら、彼女は俺の背中を優しくさする。

 「ここはもう安全なんでしょ。だったらそんなに気を張らないで良いんだよ。私を今まで助けてくれた分、私に甘えて良いんだよ」

 背中をさすっていた手は頭へ。
 「よしよし」の言葉に合わせてその手は俺の頭を優しく撫でる。
 そうされていく内に俺の意識は途切れていって、自分が居る場所や直前の記憶があやふやになっていく。

 「大丈夫、アキラが私を守ってくれたみたいに。私はこうやってアキラを助けるからね」
 
 そうして俺の意識は深い深い夢の世界へと落ちていく。
 それはそれは夢見がいつもより良いと感じる不思議な寝心地だった。
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