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103)仲良しコンビ再び
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「まーたボクの勝ちぃ」
「負けてしまいました……」
「オイオイ木葉、ゲーム自体初めての日和に対して本気出しすぎだろ」
「そういう金侍は、初めてじゃないのに日和に負けてるよね?」
コントローラーを片手に無邪気な笑みを浮かべる樫原さんは、四つに区切られた画面の右上に出た『YOU WIN!』の文字を見て満足気にそう言った。
私は初めてのテレビゲームにまだドキドキが止まらなかったけれど、佐倉さんと樫原さんは過去に何度かこのゲームで対戦しているらしく、操作は慣れたものだ。
「うっせーな。俺はこういうチマチマしたテレビゲームみたいなのは苦手なんだよっ。ホントのカーレースならお前にゃ絶対負けねぇ」
「そんなこと言って。リアルじゃいつもボクより安全運転のくせに」
「――――ああ? ゲームと現実を一緒にすんな」
「先に一緒にしたのはそっちでしょ」
「俺はレースって言ったんだよ。あーもういい! 次は格ゲーで勝負だ!」
「ふふふ。お二人は本当に仲良しなんですねぇ。あ、私はそろそろケーキの準備を」
「ちょ。こんなん仲良しじゃな……ッ」
「わーい、待ってました! 日和ありがと。ボク、ココアね」
「かしこまりました」
腐れ縁と公言しているだけあって、このお二人は本当に仲が良い。
佐倉さんのツッコミを聞き流しつつ、私は一人部屋に備え付けの簡易冷蔵庫の前へと移動する。
今日は休日に厨房をお借りしてブルーベリーシフォンの試作をしていたところ、匂いを嗅ぎ付けたらしいお二人が現れた。
お腹を空かせていたらしいお二人は「是非試食したい!!」と言ってくださった。
けれども生憎、シフォンケーキは焼き上がりから最低でも三~四時間ほど型にいれたまま冷やさなくてはならない。
すぐに外すと、メレンゲの力で膨らんだスポンジが萎んでしまうからだ。
相談の結果、ケーキが冷めて生地が安定するのを待つ間、樫原さんのお部屋にお邪魔してゲームをしていたという訳だ。
樫原さんのお部屋は私の部屋と同じ棟の反対奥に位置する。
樫原さんいわく「自宅は別にあるけど、夜遅くなった日のために空き部屋の一つを拝借している」のだそうだ。
「お待たせしました。ブルーベリーシフォンの生クリーム添えです」
「わーい、ありがと♪」
淹れたての珈琲(樫原さんの分はココア)と型から外したばかりのケーキを持って二人の所へと戻ると、目をキラキラさせた樫原さんがトレーへ寄ってきて、一番大きなケーキの乗った皿を取って早速口に運んだ。
「おい、木葉。行儀わりーぞ」
「んーっ、美味しい! ボクここに移り住もうかな」
「え……ですがご自宅は別にあるんですよね?」
「まぁね。けど最近は忙しすぎてほとんど帰ってないから、家賃が勿体ないなぁって。ボクには金侍と違って家族がいる訳じゃないし」
樫原さんは一人暮らしらしい。結婚指輪もしていないようだし、家族がいないという事は独身なのだろうか。
「お前は日和の作る菓子が目当てだろ。俺ん家で睦の手料理を食う次は、日和のスイーツかよ。ほんとお前って人の手料理好きだよな」
「睦……さん?」
聞き慣れない名前に私が反応すると、佐倉さんが口を開く。
「あぁ。睦はうちの一番下の妹だ。この春から就職が決まったんで、もうじき家を出るんだけどな」
「ムッちゃんもいよいよ就職かぁ。あ、なら金侍もこっちに越して来ちゃえばいいじゃん」
「バカ言うな。大事な実家を勝手に引き払う訳ねーだろ。アイツらが巣立ってからも、帰ってくる家を守るのは俺の役目だ」
そう言いながら、佐倉さんは珈琲とケーキの皿を受け取った。
私が東條院家に来て、まもなく三ヶ月。
ここに来た当初は雪がちらついていた季節も、近頃はすっかり春めいてきた。
春というのは世間一般的に巣立ちや別れ、新たな出会いや新生活が始まる季節らしい。テレビでは最近桜の開花時期を予想する話題が頻繁に上がっていて、みんなが春を心待ちにしている様子が微笑ましい。
「負けてしまいました……」
「オイオイ木葉、ゲーム自体初めての日和に対して本気出しすぎだろ」
「そういう金侍は、初めてじゃないのに日和に負けてるよね?」
コントローラーを片手に無邪気な笑みを浮かべる樫原さんは、四つに区切られた画面の右上に出た『YOU WIN!』の文字を見て満足気にそう言った。
私は初めてのテレビゲームにまだドキドキが止まらなかったけれど、佐倉さんと樫原さんは過去に何度かこのゲームで対戦しているらしく、操作は慣れたものだ。
「うっせーな。俺はこういうチマチマしたテレビゲームみたいなのは苦手なんだよっ。ホントのカーレースならお前にゃ絶対負けねぇ」
「そんなこと言って。リアルじゃいつもボクより安全運転のくせに」
「――――ああ? ゲームと現実を一緒にすんな」
「先に一緒にしたのはそっちでしょ」
「俺はレースって言ったんだよ。あーもういい! 次は格ゲーで勝負だ!」
「ふふふ。お二人は本当に仲良しなんですねぇ。あ、私はそろそろケーキの準備を」
「ちょ。こんなん仲良しじゃな……ッ」
「わーい、待ってました! 日和ありがと。ボク、ココアね」
「かしこまりました」
腐れ縁と公言しているだけあって、このお二人は本当に仲が良い。
佐倉さんのツッコミを聞き流しつつ、私は一人部屋に備え付けの簡易冷蔵庫の前へと移動する。
今日は休日に厨房をお借りしてブルーベリーシフォンの試作をしていたところ、匂いを嗅ぎ付けたらしいお二人が現れた。
お腹を空かせていたらしいお二人は「是非試食したい!!」と言ってくださった。
けれども生憎、シフォンケーキは焼き上がりから最低でも三~四時間ほど型にいれたまま冷やさなくてはならない。
すぐに外すと、メレンゲの力で膨らんだスポンジが萎んでしまうからだ。
相談の結果、ケーキが冷めて生地が安定するのを待つ間、樫原さんのお部屋にお邪魔してゲームをしていたという訳だ。
樫原さんのお部屋は私の部屋と同じ棟の反対奥に位置する。
樫原さんいわく「自宅は別にあるけど、夜遅くなった日のために空き部屋の一つを拝借している」のだそうだ。
「お待たせしました。ブルーベリーシフォンの生クリーム添えです」
「わーい、ありがと♪」
淹れたての珈琲(樫原さんの分はココア)と型から外したばかりのケーキを持って二人の所へと戻ると、目をキラキラさせた樫原さんがトレーへ寄ってきて、一番大きなケーキの乗った皿を取って早速口に運んだ。
「おい、木葉。行儀わりーぞ」
「んーっ、美味しい! ボクここに移り住もうかな」
「え……ですがご自宅は別にあるんですよね?」
「まぁね。けど最近は忙しすぎてほとんど帰ってないから、家賃が勿体ないなぁって。ボクには金侍と違って家族がいる訳じゃないし」
樫原さんは一人暮らしらしい。結婚指輪もしていないようだし、家族がいないという事は独身なのだろうか。
「お前は日和の作る菓子が目当てだろ。俺ん家で睦の手料理を食う次は、日和のスイーツかよ。ほんとお前って人の手料理好きだよな」
「睦……さん?」
聞き慣れない名前に私が反応すると、佐倉さんが口を開く。
「あぁ。睦はうちの一番下の妹だ。この春から就職が決まったんで、もうじき家を出るんだけどな」
「ムッちゃんもいよいよ就職かぁ。あ、なら金侍もこっちに越して来ちゃえばいいじゃん」
「バカ言うな。大事な実家を勝手に引き払う訳ねーだろ。アイツらが巣立ってからも、帰ってくる家を守るのは俺の役目だ」
そう言いながら、佐倉さんは珈琲とケーキの皿を受け取った。
私が東條院家に来て、まもなく三ヶ月。
ここに来た当初は雪がちらついていた季節も、近頃はすっかり春めいてきた。
春というのは世間一般的に巣立ちや別れ、新たな出会いや新生活が始まる季節らしい。テレビでは最近桜の開花時期を予想する話題が頻繁に上がっていて、みんなが春を心待ちにしている様子が微笑ましい。
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