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恋人
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樹は今日も彩にお土産を持って屋敷の中を足早に歩く。
そこで父親とすれ違った。
その時父にこう言われた。
「また、物の怪へ貢物か?」
その言葉にカチンときた。
「彼女は物の怪ではありません。普通の少女です」
「お前・・・あれに入れ込むなよ。見合い話はたくさんある。その中からどれでもいいから選べ。そうしないと当主としての役目を怠っていると思われかねないぞ」
その言葉には返す言葉がない。
「・・・俺はまだ結婚なんてするつもりはない」
そう言うと樹は奥座敷へ向かい急いだ。
「え?彩?」
彩は隠れて泣きそうになっていた。
さっきの会話を聞いたのだ。
「どうした?」
「樹・・・結婚するの?」
(さっきの会話聞こえていたのか・・・)
「俺はまだしない」
彩は少し黙ってこう言った。
「まだってことはいずれするって事?」
樹は黙った。
「・・・」
「私は、樹が他の女性と結婚するの嫌だよ」
彩はそう言いながら、大粒の涙を流し始めた。
「・・・わかった。俺は結婚しない。見合いも受けない」
彩は顔を上げ樹の顔を見た。
「本当?」
「ああ、これからも彩とこうやって過ごす」
そう言い彼女の涙を指で掬い取った。
彼女の泣き顔を見たくなくて樹は彼女に初めて嘘をついた。
いずれ、結婚させられるはずだ。
(俺がどんなに嫌がっても・・・)
それが当主の役目でもあるから。
少しでも良い家と懇意になって八代家を大きくしていかねばならない。
代々そうやって来たのだ。
その古い因習はいまだに変わらない。
彼女は樹の嘘を信じ泣き止んだ。
樹は罪悪感を覚えた。
樹が見合いも結婚もしないと聞き、無邪気に喜ぶ彼女を愛おしく思った。
樹はつい彼女に手を出してしまった。
樹は喜ぶ彼女にキスをしたのだ。
軽く触れあうだけのキスだったが彩はそれだけでも驚き、顔を真っ赤にした。
樹はしまったと思ったが、もう手遅れだった。
「どうして・・・キスを?」
戸惑いながら樹に聞いてきた。
意を決して彼は告げた。
「・・・ずっと、言えなかったが俺は・・・彩が好きなんだ」
「!」
彩は驚き呆然とした。
「彩にとっては迷惑なことかもしれないけど・・・嫌だったか?」
「嫌じゃ・・・なかった」
彩は何とか答えることが出来た。
彩にとってこれほど予想外のことはない。
樹からのキスを受け、喜んでいる自分がいた。
しかし自分は樹の父が言ったように物の怪のような存在だ。
そんな自分が彼から好かれてもいいのだろうか。
「でも、私は座敷童よ。物の怪の類。それでも好いてくれるの?」
彩はもう一度彼の言葉を聞きたくて質問した。
「何度でも言う。俺は彩が好きなんだ。初めて会った時から惹かれていた」
そう言うと彼女は不思議そうに言った。
「でも、樹は今まで恋人がいたりしたじゃない」
「あれは、何となく付き合っていただけだ。別に好きでも何でもなかった」
樹のその答えに彩は非難めいた表情を見せた。
「好きじゃなくても付き合えるんだ・・・へぇ・・・」
そう言われると何も言えない。
「・・・」
「じゃあ、私とも付き合ってくれるの?だって私の事好きって言ってくれたし・・・」
彩は自分の唇に触れながらそう言った。
「彩とは好きだから付き合いたいと思っている。今までの恋人たちとは違う」
「そっか・・・」
彩は嬉しそうに微笑んだ。
「彩、もう一度キスしてもいいか?」
「・・・うん」
そう言い再び彩の小さな唇にキスをした。
二人は今日から恋人となった。
そこで父親とすれ違った。
その時父にこう言われた。
「また、物の怪へ貢物か?」
その言葉にカチンときた。
「彼女は物の怪ではありません。普通の少女です」
「お前・・・あれに入れ込むなよ。見合い話はたくさんある。その中からどれでもいいから選べ。そうしないと当主としての役目を怠っていると思われかねないぞ」
その言葉には返す言葉がない。
「・・・俺はまだ結婚なんてするつもりはない」
そう言うと樹は奥座敷へ向かい急いだ。
「え?彩?」
彩は隠れて泣きそうになっていた。
さっきの会話を聞いたのだ。
「どうした?」
「樹・・・結婚するの?」
(さっきの会話聞こえていたのか・・・)
「俺はまだしない」
彩は少し黙ってこう言った。
「まだってことはいずれするって事?」
樹は黙った。
「・・・」
「私は、樹が他の女性と結婚するの嫌だよ」
彩はそう言いながら、大粒の涙を流し始めた。
「・・・わかった。俺は結婚しない。見合いも受けない」
彩は顔を上げ樹の顔を見た。
「本当?」
「ああ、これからも彩とこうやって過ごす」
そう言い彼女の涙を指で掬い取った。
彼女の泣き顔を見たくなくて樹は彼女に初めて嘘をついた。
いずれ、結婚させられるはずだ。
(俺がどんなに嫌がっても・・・)
それが当主の役目でもあるから。
少しでも良い家と懇意になって八代家を大きくしていかねばならない。
代々そうやって来たのだ。
その古い因習はいまだに変わらない。
彼女は樹の嘘を信じ泣き止んだ。
樹は罪悪感を覚えた。
樹が見合いも結婚もしないと聞き、無邪気に喜ぶ彼女を愛おしく思った。
樹はつい彼女に手を出してしまった。
樹は喜ぶ彼女にキスをしたのだ。
軽く触れあうだけのキスだったが彩はそれだけでも驚き、顔を真っ赤にした。
樹はしまったと思ったが、もう手遅れだった。
「どうして・・・キスを?」
戸惑いながら樹に聞いてきた。
意を決して彼は告げた。
「・・・ずっと、言えなかったが俺は・・・彩が好きなんだ」
「!」
彩は驚き呆然とした。
「彩にとっては迷惑なことかもしれないけど・・・嫌だったか?」
「嫌じゃ・・・なかった」
彩は何とか答えることが出来た。
彩にとってこれほど予想外のことはない。
樹からのキスを受け、喜んでいる自分がいた。
しかし自分は樹の父が言ったように物の怪のような存在だ。
そんな自分が彼から好かれてもいいのだろうか。
「でも、私は座敷童よ。物の怪の類。それでも好いてくれるの?」
彩はもう一度彼の言葉を聞きたくて質問した。
「何度でも言う。俺は彩が好きなんだ。初めて会った時から惹かれていた」
そう言うと彼女は不思議そうに言った。
「でも、樹は今まで恋人がいたりしたじゃない」
「あれは、何となく付き合っていただけだ。別に好きでも何でもなかった」
樹のその答えに彩は非難めいた表情を見せた。
「好きじゃなくても付き合えるんだ・・・へぇ・・・」
そう言われると何も言えない。
「・・・」
「じゃあ、私とも付き合ってくれるの?だって私の事好きって言ってくれたし・・・」
彩は自分の唇に触れながらそう言った。
「彩とは好きだから付き合いたいと思っている。今までの恋人たちとは違う」
「そっか・・・」
彩は嬉しそうに微笑んだ。
「彩、もう一度キスしてもいいか?」
「・・・うん」
そう言い再び彩の小さな唇にキスをした。
二人は今日から恋人となった。
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