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5黄金狐
宿場
しおりを挟む黄金と白金に蒼月の加わった三人での旅。
蒼月の一族の者の情報を求めながらも、ドンドンと歩みをすすめていく。
「疲れた~」
人間の宿屋で、白金は姿を現して倒れた。
川沿いのそれなりに栄えた街。
その街の大通りに面したレンガ造りの宿屋。小さな部屋に、ベッドが四つ。
その一つに、白金が倒れ込む。
「大丈夫か?」
蒼月が心配して問えば
「甘やかすな。以前よりはついていけるようになった」
と黄金が冷たく言う。
「意地悪なことを。二人に追いつくだけで、こっちは精一杯なんだ」
白金が涙目になる。
蒼月が一緒に旅をするようになって、歩くペースは速くなった気がする。以前よりも甘えることを許されなくなった。
蒼月の手前、白金に甘い顔はできないということだろう。
蒼月と黄金の二人で、情報を探しがてら街を見物に行くというので、白金は、宿で一人留守番をする。そんな元気は、白金にはない。
狭い宿だが、荒れ寺よりは快適。
痛む足をさすりながら、窓の外を見れば、往来には人が行き交っている。
汽車も都会の方では運行を始め、新しい工業も増え、洋装の者も増えた。
時折だが外国人の姿も有り、レンガ造りの建物も造られた。
付いて行くだけで必死だったが、それでも、見る物何もかも楽しかった。
人の世とは、新しい刺激でこんなにもガラリと変わる。面白い。
狐の里は、いつまでも何も変わらない。何百年も長老狐紫檀様の守りの下で、昨日と同じ月日を歩む。長い長い年月の間変わらない事。
なのに、短い命の人間の生きざまは、瞬きする間にも変化する。昨日いた人間はいつの間にかいなくなり、昨日は正義とされていたことが、今日は悪となる。
儚く、脆く、流転する世の動きは、川の水が渦を巻いてすぐに消えてしまうのを見ているようで、愚かで、面白く、そして愛おしく思える。
白金の見つめる先には、妖が一匹。
建物の陰に、人間の服を着て、妖はじっと何かを見つめている。
……河童だ。こんな所へ、何しに来たのだろう?
河童の見つめる先には、小さな窓。診療所? 診療所の二階に、女の子が座っている。
切なそうに見つめる河童。人間の姿を真似てはいるが、どこかおかしい。
周囲の人間はチラチラと河童の方を見ては、何かをひそひそと話している。
これでは、正体がバレて騒ぎになるのも時間の問題だろう。
河童が騒ぎを起こしたこなれば、白金達は、見過ごすことができなくなるだろう。
それは、困る。
最悪は、あの河童を退治しなければならなくなる。
やれ、仕方ない。
白金は、痛む足を無理に動かして、河童の元へ向かった。
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