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中学二年生(友人と共に、事件、ゴタゴタを解決)

修学旅行 2

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 部屋の中は、割れた硝子、棚の中に入っていたであろう物、そういう物が、散乱していた。僕たちは、靴の上にビニール袋のような物を被せて、部屋に入る。

「割れたガラスが散乱しているし、靴を脱ぐのは危ないからな」
と木根刑事。

「それに、靴跡を残すのはまずい」
と、赤野君がつけ足す。

「硝子を割って侵入して、何かを探していたの?」

赤野君が木根刑事に尋ねる。

「ああ。どうやら、亡くなったご主人作った資料を探していたのではないかと奥さんは言うんだ」

「資料?」

「二ケ月ほど前に、雑誌記者をしていたご主人が飛び降り自殺をした。そのご主人は、生前、何かの事件を追っていて、それを掴んだそうなんだが……」

「何か問題でも?」

「どんな事件なのか、奥さんにはさっぱり分からないし、どんな形のどういう資料があるのかも、これと言って、ご主人の遺品には見当たらなかったそうだ」

「……ふうん。じゃあ、なんで空き巣の狙いが、その資料だと分かるの?」

「脅迫するような電話がかかって来たり、後をつけられたり。それで、ご主人の自殺の事もあって、後をつけて来ていた男達を調べている最中だったって訳だ」

「で、僕の撮った写真の男たち、つまり空き巣の犯人が、その後をつけていた男達だったということだね」

赤野君は、サラリと言うが、あのバスで見かけた若い男は、この家のご主人を殺した犯人かもしれないということだ。

 ……つまり、殺人犯。

 僕は、ゾッとする。

「奥さんが青ざめていたのは、ついに実力行使に出られて、恐怖にかられていたのかな。どうやら、犯人は、物を見つけられなかったようだし、次は何をされるかと不安に思っている」

「どうして、そう思う? 犯人が、見つけられなかっただなんて」

「だって、犯人は、おばさんが帰宅して、慌てて家から出てきたんだよ。それを僕たちに目撃されている。それに、
この室内の荒れよう。手あたり次第に探して、何の手がかりも無かったんじゃない? 後……」

「後?」

「木根叔父さんが、僕をこの部屋に入れたのは、それを見つけてほしいから。でなければ、僕らを現場に入れようなんて、変な事しないでしょ」

ケラケラと笑う赤野君。

 さきほど、犬の絵に苦戦してチョコチップクッキーを描いていたとは思えない。

「分かっているんなら、さっさと見つけてくれ」

木根刑事が、ケラケラ笑う赤野君にムッとする。

「そう言うけれど、ヒントは少ないんだよ? こんな状態でどうやって見つけろって……」

赤野君が部屋を見回す。

 僕と夏目君と松尾君は、木根刑事の後ろで待機して赤野君の様子を見ている。

「なあ、今井。赤野って、こういうの得意なの?」

夏目君が、僕の肩を軽くつついて聞いてくる。

「うん。僕は、助けられたことがあるから」

「へえ」

松尾君も感心して赤野君を見ている。

 赤野君は、一人で一階の部屋を走り回った後、じっと居間の真ん中で考え込む。

「その死んだご主人の書斎は?」

赤野君に言われて、木根刑事が、案内する。

 木根刑事の案内で、二階の書斎に移動する。
 二階の部屋は、一階よりもすごい状況。足の踏み場も無いくらいに、書斎の本も全て床に散乱しているし、隣の寝室にいたっては、ベッドまでひっくり返されている。

「条件は、少ない。ご主人の死後、奥さんが触らない所に隠されているから、奥さんは気づかなかった。そう言う条件の所で、一階で空き巣が触っていなさそうな所はなかった。トイレの中、浴室の天井も、後は、おかしいのは、こいつだよね」

赤野君がそう言って持ち上げたのは、床に落ちていた位牌。

 戒名なんかが書いた板が入っている黒い仏具。
 床に乱暴に落とされていたこと以外、何の変哲もないこの位牌。中に『~善女』と書かれた木の板が入っている。
 前に祖父母の家の仏壇で見たことがある。故人の戒名が書かれた板を、仏壇などに祭るための物だ。この家には仏壇はなさそうだし、ご主人は亡くなっているんだから、故人の使っていた書斎に飾ってあったって、別に変なようには見えないが……。

赤野君は、何に引っかかったのだろう?

「何が変なの?」

「まず、この戒名。亡くなったのは、男性だよね?ご主人だし。なのに、位牌の中の戒名は、『~善女』つまり、女性の物。なんで、ご主人の戒名を入れなかったの?それに、これ、中に文字を書いた木の板を入れるために、上部が簡単に取れるはなんだ。なのに、こんなに乱暴に床に落とされていたのに、なんで部品が取れていないの? 変だよ」

赤野君が、位牌の上部を引っ張るが、取れない。

「おじさん。これ、接着剤で固定してある。鑑識さんにでも頼んで、はずしてもらって。この中には、木の板が何枚も入る空間があるはずだから、そこに、探している物があると思う」

赤野君は、そう言って、木根刑事に位牌を渡す。

「さ、帰ろう。ホテルに今帰ったら、夕食には間に合うよ」

赤野君は軽快に階段を降りる。僕らは、どうしていいのか分からずに、オロオロしながらも、赤野君の後を追う。

「周作」

木根刑事が、赤野君を呼び止める。

「何?」

赤野君が、木根刑事を振り返る。

「この中を調べたら、また連絡する」

「いいよ。好きにすれば。」

ニコリと赤野君は、笑っていた。



 僕らは、ホテルへの道を歩く。

「タクシーでも乗る? 後で、木根叔父さんに費用を請求しようよ」

そう言って、赤野君がスマホでタクシーアプリを操作する。

「なあ、赤野。あれ、何が入っているの?」

夏目君が、スマホを操作する赤野君に尋ねる。

「さあ、USBとか、メモリーカードかな? だって、資料って言っていたし」

赤野君の言葉に、僕もなるほど、と納得する。

「他の物は調べなくていいの?」

松尾君が聞く。

 分かる。だって、あれだけ色々な物があって、少し変だったからって、あの位牌だけで本当にいいのだろうか。

「他? だって、あれで何メガものデータ量の資料を隠せるんだよ?そんなの要らないよ。違和感のある物を見つけたら、それで十分でしょ」

赤野君が、軽く答える。

「帰って来て良かったのかな?」

僕の最大の疑問。

「わ、それ俺も思った」

松尾君が賛同してくれる。

「え? 駄目なの? 帰ったら」

赤野君がキョトンとしている。心から分からないという顔。

「だって、あんなにおばさん辛そうだったし。僕らにまだ何か出来ることがないかと」

「今井君達は、優しいね。でも、これからあの位牌を鑑識にかけるんだし、犯人の行方を調べるにしても、僕らでは、防犯カメラの確認もできないし……。待てよ……」

赤野君が考え込む。

「明日、自由行動だったよね?」

「うん。各班に分かれて、自由に街の史跡を見学の予定」

赤野君の疑問に、僕は答える。

「ふふ。一個だけ。夏目君と松尾君、それに今井君が協力してくれれば、出来ることがある」

赤野君が、ニヤリと笑った。



 ホテルに帰った僕たちは、クラスの他のメンバーと合流して夕食の時間までの自由行動の時間を得る。
 他の人達が、土産物を買ったり、ゲームしたり、荷物の整理をしている間に、僕らは急いで、赤野君の言っていた仕事をする。

「何とか、先生の許可を得てきたよ。委員長も、大丈夫だって。他のクラスまでは難しいけれども、僕らのクラスのメンバーだけなら、大丈夫そう」

僕が、先生や委員長に許可をもらって部屋に戻ると、

「木根叔父さんからも、許可が出た。写真はまずいけれども、似顔絵なら、大丈夫だって。殺人犯かもしれないから、くれぐれもやり過ぎないようにって釘は刺されたけれども」
と、赤野君が笑う。

「似顔絵も出来た」

「こっちも」

夏目君と松尾君が、写真を元に書いた絵を見せてくれる。

 うまい。犯人の特徴をとらえていて、写真よりも分かりやすい。
 赤野君が、それを写真に撮って、クラスラインに流す。『<協力をお願い>明日の自由行動中に、この二人を見かけたら、すぐに連絡を赤野まで。こっそり写真を撮って、見かけた場所を教えて。こいつらは、空き巣なんだ。まだ、街にいるかは分からないけれども、見つけたら刑事に連絡する。※危険だから、後を付けたりはしないでね』なんて、メッセージを付ける。

「これで、捜査員は四十人に増えた。犯人は、目当ての物をまだ手に入れていないから、まだこの街に居る可能性がある。空振りになるかもしれないけれども、やる価値はあるよ」

赤野君の呼びかけに、クラスのメンバーから、続々と『面白そう』『リアルウォーリーを探せだ』『わ、犯人逮捕の協力ができるんだ』なんて返答がくる。

 皆、犯人を捜すなんて珍しいことに乗り気だ。
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