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海を越えて戻ってきた男(夏目漱石と胸筋)
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本因坊店長が本日も元気にダンベルをあげる当店では、現在リピーターの浪人生さんが遊びに来ている。
店長と共に楽し気に小さめのダンベルをあげる浪人生さん。
「本因坊店長! こうですか!」
「うむ! 無理は禁物だ。己の力を過信せず、適度な筋トレでこそ筋肉は喜ぶのだ!」
「なるほど! それは勉強も一緒ですね!」
いい感じの笑顔で浪人生さんは、本因坊店長と会話している。
なにやらとても気が合っていそうな二人。
浪人生さんがこの付近の大学が志望ならば、きっと俺の後継者としてこの店に来てくれる大切な人材だろう。
「ぬるいぞ! ぬるいぞ!! 本因坊!!!」
突然入ってきたのは、柔道着に黒帯の極太マッチョの髭親父。
「摩周湖!! お、お前! 日本に帰っていたのか!」
摩周湖さん、聞いたことがある。
確か、海外に道場破りの武者修行の旅に出た本因坊店長の知り合い。本因坊店長の知り合いってやっぱりこんな風に濃い人物が多いのかな? お腹一杯なんですけれども。
「ああそうだ! お前に負けないように、過酷な武者修行に出たというのに、肝心の本因坊が、こんな風に腑抜けておるとは……」
ガクッと膝を折る摩周湖さん。
突然、カッと目を見開いて、摩周湖さんが本因坊店長を指さす。
「お前に宣言する! 俺は、今こそ夏目漱石の『坊ちゃん』を買ってやる!!」
え、何て?
夏目漱石の『坊ちゃん』……え、これを買うために武者修行の旅に出たの? なんで?
『坊ちゃん』ってあの、四国を舞台とした無鉄砲な主人公が、いけ好かない赤シャツに一泡吹かせる話だろう?
「ば、馬鹿な! それほどの筋肉をお前がつけているとは……」
「なんてことだ! この男は、『坊ちゃん』を買えるほどの実力者なのか……」
おいおい、浪人さん? なんでこのノリについていけているの?
青ざめてゴクリと息を飲む浪人生さん。
「分かった。お前の度胸を信じて、試してやろう! 佐々木君! 倉庫から『坊ちゃん』を!」
訳が分からないまま、俺は倉庫から坊ちゃんを取り出す。
持って店舗に戻れば、摩周湖さんが何やら気合を入れている。
「ついに! ついにこの時が!!」
『坊ちゃん』を受け取る摩周湖さんの手が震えている。
「うおおおおおお!」
摩周湖さんが本を手に雄たけびを上げている。『坊ちゃん』のページをめくる摩周湖さんの胸筋が、とんでもなく力強く盛り上がっている。
えっと、この雄たけびのために必要な筋肉ってことかな?
「ま、摩周湖ーーー!!! 無理はするなーー!! 筋肉が悲鳴をあげている!!」
本因坊店長が、摩周湖さんに必死で声をかける。
「クソがー!! この俺の修行の成果をそこで見ていろーー!!」
どんどんページをめくる摩周湖さん。
「す、すごい! こんなの見たことがない!」
とめどなく流れる涙を拭うこともぜず浪人生さんが感動している。
ええ、感動はしませんが、こんなの俺も見たことないです。
死闘の末、摩周湖さんは『坊ちゃん』を、無事お買い上げしてお帰りになりました。
店長と共に楽し気に小さめのダンベルをあげる浪人生さん。
「本因坊店長! こうですか!」
「うむ! 無理は禁物だ。己の力を過信せず、適度な筋トレでこそ筋肉は喜ぶのだ!」
「なるほど! それは勉強も一緒ですね!」
いい感じの笑顔で浪人生さんは、本因坊店長と会話している。
なにやらとても気が合っていそうな二人。
浪人生さんがこの付近の大学が志望ならば、きっと俺の後継者としてこの店に来てくれる大切な人材だろう。
「ぬるいぞ! ぬるいぞ!! 本因坊!!!」
突然入ってきたのは、柔道着に黒帯の極太マッチョの髭親父。
「摩周湖!! お、お前! 日本に帰っていたのか!」
摩周湖さん、聞いたことがある。
確か、海外に道場破りの武者修行の旅に出た本因坊店長の知り合い。本因坊店長の知り合いってやっぱりこんな風に濃い人物が多いのかな? お腹一杯なんですけれども。
「ああそうだ! お前に負けないように、過酷な武者修行に出たというのに、肝心の本因坊が、こんな風に腑抜けておるとは……」
ガクッと膝を折る摩周湖さん。
突然、カッと目を見開いて、摩周湖さんが本因坊店長を指さす。
「お前に宣言する! 俺は、今こそ夏目漱石の『坊ちゃん』を買ってやる!!」
え、何て?
夏目漱石の『坊ちゃん』……え、これを買うために武者修行の旅に出たの? なんで?
『坊ちゃん』ってあの、四国を舞台とした無鉄砲な主人公が、いけ好かない赤シャツに一泡吹かせる話だろう?
「ば、馬鹿な! それほどの筋肉をお前がつけているとは……」
「なんてことだ! この男は、『坊ちゃん』を買えるほどの実力者なのか……」
おいおい、浪人さん? なんでこのノリについていけているの?
青ざめてゴクリと息を飲む浪人生さん。
「分かった。お前の度胸を信じて、試してやろう! 佐々木君! 倉庫から『坊ちゃん』を!」
訳が分からないまま、俺は倉庫から坊ちゃんを取り出す。
持って店舗に戻れば、摩周湖さんが何やら気合を入れている。
「ついに! ついにこの時が!!」
『坊ちゃん』を受け取る摩周湖さんの手が震えている。
「うおおおおおお!」
摩周湖さんが本を手に雄たけびを上げている。『坊ちゃん』のページをめくる摩周湖さんの胸筋が、とんでもなく力強く盛り上がっている。
えっと、この雄たけびのために必要な筋肉ってことかな?
「ま、摩周湖ーーー!!! 無理はするなーー!! 筋肉が悲鳴をあげている!!」
本因坊店長が、摩周湖さんに必死で声をかける。
「クソがー!! この俺の修行の成果をそこで見ていろーー!!」
どんどんページをめくる摩周湖さん。
「す、すごい! こんなの見たことがない!」
とめどなく流れる涙を拭うこともぜず浪人生さんが感動している。
ええ、感動はしませんが、こんなの俺も見たことないです。
死闘の末、摩周湖さんは『坊ちゃん』を、無事お買い上げしてお帰りになりました。
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