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虎になれ! (ラノベと腹筋)
しおりを挟む本日は、書店のバイトを離れて友達と遊んでいる。
カラオケ行って、ご飯を食べて。
格安で有名なイタリア料理店。
デートで彼女を連れて行けば怒られるらしいが、彼女なんていたことはないし、いないならば叱られることはあり得ない。真理だ! ウウッ! チクショー!
「なあ、佐々木まだあの変な書店でバイトしてんの?」
俺の友達、長野がパスタを食べながら聞いてくる。ミートソースの大盛パスタは、大食漢の長野の腹にあっという間に収まっていく。
「ああ」
「なんで?」
「う~ん。訳分かんな過ぎて癖になる感じ?」
「なんだそれ? スルメ的な何か? 噛めば噛むほど味がでるような?」
「硬いめのグミかも。噛み過ぎて顎が痛いのに止められない感じ」
長野がゲラゲラ笑う。
俺はドリアを平らげて、ドリンクバーでアイスコーヒーを入れて戻ってくる。
長野は、最近FFになったという女の子? と、楽しくSNSでやり取りをしている。
「ねむねむ♪」とか書かれているのに「おはよ」とか返すのが楽しいらしい。
可愛い女の子のアイコン。
ピンクの髪で大きな目の人気アニメのキャラだ。
「ふわりん・もふもふ国王なのにゃん」なんてアカウント名が付いている。
「なあ、知ってる?」
「何?」
「女の子アイコン使っているやつ、大体おっさん」
「お、お前! 俺の夢を壊すなよ! マジやめろ!」
長野が本気で悶絶する。
「クソ! ゴリマッチョの親父と仕事しているくせに! よし! 今からお前のバイト先に行って、お前の現実確認してやる!」
「やめてくれ! 恐ろしい現実は、身に染みて分かっているんだ! バイトの無い日にまで、あの救いようのない異世界に行きたくない」
懇願する俺。だが、ささやかな夢を壊された長野の怒りは収まらなかった。
口は災いの元だ。
俺と長野は、マッスル書店へ向かう。
書店の中では、中書島先輩がヨガポーズを取っている。
『虎のポーズ』
四つん這いになって、前後に片方の手を伸ばすポーズなのだが、俺には、虎というよりかは、『ホームで転んで終電逃した人のポーズ』にしか見えない。
伸ばした手足に、待ってくれー! という悲哀を感じる。
「あら、佐々木君! 今日はバイト休みじゃなかった?」
「あ……いえ、今日は友達が来てみたいっていうから……」
にこやかな中書島先輩に、長野が見惚れている。
あんなマッスル脳の中書島先輩だが、美人ではある。残念イケメンの女性版。残念美人というやつだろう。
どうやら本因坊店長は、席を外しているようだ。
今、今逃げなければ、大変なことになる。
「ふふ。せっかくだから、本買っていく?」
「あ……それは、また今度」
早く逃げなければ。店長が来る!
「じゃあ、俺が、欲しかった小説買おうかな……ちょうどラノベの新刊が……」
「長野! やめろ! それは、大学の生協とかで買えばいい。学割も効くぞ! ここは……」
「何をお望みかな?」
背後から聞こえる声。
終わった。
例によって裸エプロンの本因坊店長。ポージングを決めながら微笑む。
ラノベを買うために、長野は夕方まで腹筋を鍛えて帰りました。
俺は買わないのに、どうして俺まで……。
昼に食べたドリアが腹でサンバを踊る。ウウッ。気持ち悪い。
「良い店だな!」
爽やかに笑う長野。やめてくれ。友達のお前まであの店のマッスルに染まらないでくれ。
あ、お買い上げありがとうございました。
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