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プロムの誘い

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 三学期が始まって、最上級生がそわそわしている。
 そりゃそうだ。事実上婚約とも言える卒業プロム。そのまま、結婚するカップルも多いと聞く。皆、真剣だ。

「なあ、リオス。呼んでくれって」

クラスメートに声をかけられて、廊下に出れば、見覚えのない最上級生。
 本当に俺に用なのかな。誰かの間違いではないだろうか?
 あ、そうか。シロノに繋げって依頼かな? そんなのは秒で断るが。
 自分でシロノに声をかける勇気もない奴は、おととい来やがれってんだ。

「あの…リオス。俺とプロム行かない?」

モジモジとしながら最上級生はのたまう。

「は?」

今、なんて言いました?

「だから、もう男でもお前なら可愛いし、ノリ的にいいかなと思って」

「は?」

待て、同じノリをどっかで聞いたな。
 そうだ。マキノだ。マキノが一学期に似たようなことを言っていた。

 なんだ? 昨今の貴族の子息とやらは、チャラ男率が高いのか? ずいぶん危ういな、この国の未来。

「すみません、先輩。リオスは俺が予約しているんです」

 俺が断るよりも先に、マキノが間に入ってくる。
 え? 予約していませんが?
 だが、助かる。今はそういうことにして、黙っておこう。

「だよなぁ~。お前ら仲いいし」

 見知らぬ最上級生が、ため息をつく。
 そこ、納得するのおかしくないですか? どういう風に周囲から見えているんですか??

「シロノちゃんに断られて、アスナちゃんに断られて。もう、諦め半分でここに来てみたんだけれども、やっぱ駄目か」

 ずい分惨敗だな。この先輩。一人が駄目でも次をチャレンジしようとするその根性は、偉いとは思うが、ちょっと節操はなさそうだ。
 てか、諦め半分とか、ノリとか、ちょっと色々と俺に失礼じゃない?

「アスナはどうやって断ったんですか?」

「アスナちゃん? 気になる? 実はね、アスナちゃんは、好きな人がいるんだって。一目惚れで、その人を支えるのが今の夢なんだって。可愛いよね、健気で」

 さすが、アスナ。正統派ヒロインだ。
 きっとその相手はセシル。王太子の正妃を狙っているとストレートに言うよりも、ずいぶん印象の良い言葉を選んでいる。

「でね、今は、その人に仇なす人がいるから、どう防ぐか考えているんだそうだ」

 断罪の準備をしているということだろうか?
 では、『仇なす人』とは、きっとシロノのこと。
 ライバルであるシロノを、正妃が決まる前に断罪する準備を本格的にしているということだろう。なるほど、だから、シロノの方が有利なこの状況でも、アスナは全く諦めずに正妃を狙いにきているんだ。

 どんな計画を練っているのだろう。その計画の詳細が知りたい。
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