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春休み
しおりを挟むプロムでのアスナの計略を防いだのに、シロノの悪い噂は、残念ながら流れ始めた。
『シロノは、父のグスタフの手先。優秀なセシル様を邪魔に思い、傷つけようとしている』そんな話がチラチラと耳に入る。
根も葉もない話だ。
そもそも、グスタフは、本当は権力なんてどうでもいい男だ。親友の妻であったアレーナ女王を助けるために宰相になっただけ。アレーナが女王でなくなれば、さっさと隠遁生活に入ると、日ごろから豪語している。誰も信じないが……。
最愛の妻も、親友も失い、グスタフには、権力に固執する必要がないのだ。
そうでなければ、既得権益を無視して、あんな大胆な改革は出来ない。
「俺の努力は無駄だったのかな? みんなにあんなに協力してもらったのに……」
俺がぼやけば、
「そんなことないですよ。この噂には決定打がありませんので、アスナの取り巻きが頑張って噂を流しても、すぐ立ち消えてしまう。やっぱり、あのプロムで大々的な動きが出来なかったことが響いていますね」
とリンネが励ましてくれる。
「じゃあ、もうシロノの断罪は不可能?」
「いいえ。ひょっとしたら、切羽詰まったアスナ達が、強引な計画を立てる可能性があります。警戒は怠らない方が良いでしょう」
相変わらずリンネは厳しい。
とはいっても、もう春休みだ。
四月のセシルの誕生日まで、一ヶ月もない。
そう。なぜ春休みにまた俺が学校の寮室でリンネと話しているか。
それは、誰が考えても自明。
また俺は、授業内容を理解していないと言われレポートをクラウス先生に要求されて、家に帰らないリンネと一緒に過ごしているのだ。
本当に、クラウス先生とは、とことん相性が悪い。ううっ(泣)
「リオスは、自分の誕生日にも学校にいたいのですか? 早くレポートを済ませて下さい」
リンネの言う通りだ。
三月末には、大切なシロノ誕生日がある。こんなところでグダグダしている場合ではない。俺は、家に帰って心をこめた『おめでとう』を、シロノに贈りたいのだ!
「分かっているってば……ねえ、リンネは、俺が帰った後は、どうするの?」
「図書館で過ごすだけです。いいですよ。休みの図書館。誰も来ませんから、学校の何万という蔵書を独り占めです。時間はいくらあっても足りないくらいです」
うっとりするリンネ。
寂しくないのだろうか?
「良かったら、一緒に俺の家に来ない? シロノも喜んで歓迎するよ」
「え……どうしましょうか」
「そうしようよ!」
迷っているということは、それもアリってことだろう! じゃあ、リンネも一緒に帰ればいい。
そのためには、俺が、クラウス先生が納得するレポートを、きっちり提出する必要があるのだが……。
俺は、リンネの指導の下、死に物狂いでレポートを仕上げて、最愛の妹、シロノの誕生日の朝に、リンネを連れて家に帰った。
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