当て馬主人公の小さな祈り

黒狐

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本編

「蒼き空への祈り」 バルトside

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 オレの名前はバルト。平民の出で荒っぽい性格だとよく言われるが、幼馴染のカルムと、そして中性的でどこか儚げなサマリー──彼らは貴族の息子だったが、2人と過ごす日々は、何よりも大切なものだった。

 それなのに、だ。どうしてオレは、こんなにも惨めな役を押し付けられてしまったんだろう。

 カルムは小さな頃からオレの一番の親友だった。平民のオレを差別する事も無く、成長してからもいつも背中を預け合い、どんな相手にも臆さず共に立ち向かえるようなそんな間柄だ。サマリーは中性的な姿で色々な人の目を惹く為、トラブルに巻き込まれかけた事は幾度もある。しかしそんな彼をさりげなくフォローした時には、律儀に「助けてくれてありがとう」と微笑んで、お礼として普段手に入らないような高級な菓子を渡してくれることもあった。
 だからこそ、この二人はオレにとって守るべき存在だったんだ。

 ──だが、いつからか歯車は狂った。

 サマリーがカルムを好きだということに、オレは薄々気付いていた。本人はオレに告げなかったが、彼の目を見れば分かる。カルムに送る視線の柔らかさ、それを隠そうとする時のほんの僅か照れる表情。他人の感情に鈍感なオレでも、感じ取れるくらい分かりやすかった。

 けれど、そんなオレ達の関係性が気に食わない人達も存在していた。貴族の人間達だ。
 彼らが背後で暗躍した結果──オレは「当て馬」に仕立て上げられた。

 サマリーが困っているときは助け、傷つけようとする相手を撃退するのはいつもオレだった。そのことが周りの貴族達は気にいらなかったらしく、やがて「バルトが彼らに嫉妬して、仲を引き裂こうとストーカーや刺客を差し向けている」なんてありもしない噂を流布し始めたんだ。
 そんな噂がカルムの耳にその話が入った時の、あの冷たい目──幼馴染として最も信頼してくれていたはずの相棒の視線が、オレを鋭く突き刺した。

「はぁ……お前には心底失望したよ、バルト。」

 その言葉を、オレは今も忘れられない。
 言い返そうにも、暴漢に襲われかけ服の袖を裂かれたサマリーの怯えた顔を見て、言葉がつかえてしまった。オレが無実を訴えたら、かえって彼らを混乱させ余計な迷惑をかけるだけだと思ってしまった。
 だからオレは黙って当て馬としての役を背負った。

 それから暫く経った今も、オレのやる事は変わらなかった。唯一今までと違うのは、彼らに気づかれないようにサマリーを助け、未だ誤解したままのカルムの罵声もかろうじて受け入れる事だった。
 密かに、カルムとサマリーが互いに想い合えるようにそっと橋を渡す──そんな当て馬としての役割もこなしていた。

 けれど、限界はすぐに来た。

 二人が互いを見つめ合い、ようやく心を通わせた姿を目にした瞬間、オレはもう笑えなくなっていた。「おめでとう」なんて言える筈が無かった。
 嬉しいはずなのに、胸の奥に広がったのはどうしようもない虚無感だった。
 だからオレは、2人から距離を取った。理由は告げず、ただ「用事がある」とだけ言い残して。



 ──行き着いた先は、戦場だった。
 敵国との激戦地に志願兵として赴き、硝煙と血の臭いが渦巻く前線に身を投じた。
 そこでは、余計なことを考える暇もなく、ただがむしゃらに剣を振るい続けられたからだ。
 だが、夜になると二人のことを思い出してしまう。かつてオレに向けられたカルムの真っ直ぐな瞳と、サマリーの優しい笑み。どうかお前達は幸せになってくれ──オレがここで命を散らす代わりに。
 そう願いながら、オレは戦場の仲間達から少し離れた場所で、冷たい光を放つ夜の月を仰いだ。



 最後の戦いの日は、皮肉にも澄み切った青空だった。
 仲間を庇い、敵の刃を胸に受けた時、オレは不思議とどこか穏やかで安らかな気持ちでいた。

「バルトッ!!」
「ゲホッ…ゴボッ…!これで、いい…これで……。オレの役目は、ちゃんと…果たした……。」

 驚いた表情で駆け寄ってくる仲間達にうっすらと笑いかけながら、血に濡れた身体は力無く地面に崩れ落ちた。
 激痛が全身を駆け巡り意識が朦朧とする中でも、遠い国で笑っているであろう二人の姿を幻のように思い描いた。

「……カルム…、サマリー……どうか、ど、うか……お前達、は…幸せ、に……」

 ──オレの時間は、そこで終わりを迎えたのだった。



 後に、カルムはすべてを知ることになる。
 バルトは本当は刺客を差し向けてなんかいなかった事、彼のことが気に入らない他の貴族達が、陰謀によって流布したただの噂にしか過ぎ無かった事。彼は本当にサマリーを守っていただけだったという事。
 そして、彼らの幸せを願い側を離れ、自ら戦場に散ったという事実を。

「バルト……すまない。すまなかった…っ!!お前は、ずっと俺たちのために……!」

 カルムは拳を震わせ、激しい悔恨に苛まれた。

「ごめんなさい、バルト…!私は…私は貴方に、何度も救われたのに…!!」

 サマリーもまた、涙を流し続けた。自分が何も言わず保身に走ったせいで、バルトを戦場に向かわせたった一人で死ぬ事を選ばせてしまったことを後悔しながら。

 けれどバルトはもういない。

 ただ、彼の祈りだけが、青空の下に残されていた。
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