1 / 24
本編
「蒼き空への祈り」 バルトside
しおりを挟むオレの名前はバルト。平民の出で荒っぽい性格だとよく言われるが、幼馴染のカルムと、そして中性的でどこか儚げなサマリー──彼らは貴族の息子だったが、2人と過ごす日々は、何よりも大切なものだった。
それなのに、だ。どうしてオレは、こんなにも惨めな役を押し付けられてしまったんだろう。
カルムは小さな頃からオレの一番の親友だった。平民のオレを差別する事も無く、成長してからもいつも背中を預け合い、どんな相手にも臆さず共に立ち向かえるようなそんな間柄だ。サマリーは中性的な姿で色々な人の目を惹く為、トラブルに巻き込まれかけた事は幾度もある。しかしそんな彼をさりげなくフォローした時には、律儀に「助けてくれてありがとう」と微笑んで、お礼として普段手に入らないような高級な菓子を渡してくれることもあった。
だからこそ、この二人はオレにとって守るべき存在だったんだ。
──だが、いつからか歯車は狂った。
サマリーがカルムを好きだということに、オレは薄々気付いていた。本人はオレに告げなかったが、彼の目を見れば分かる。カルムに送る視線の柔らかさ、それを隠そうとする時のほんの僅か照れる表情。他人の感情に鈍感なオレでも、感じ取れるくらい分かりやすかった。
けれど、そんなオレ達の関係性が気に食わない人達も存在していた。貴族の人間達だ。
彼らが背後で暗躍した結果──オレは「当て馬」に仕立て上げられた。
サマリーが困っているときは助け、傷つけようとする相手を撃退するのはいつもオレだった。そのことが周りの貴族達は気にいらなかったらしく、やがて「バルトが彼らに嫉妬して、仲を引き裂こうとストーカーや刺客を差し向けている」なんてありもしない噂を流布し始めたんだ。 そんな噂がカルムの耳にその話が入った時の、あの冷たい目──幼馴染として最も信頼してくれていたはずの相棒の視線が、オレを鋭く突き刺した。
「はぁ……お前には心底失望したよ、バルト。」
その言葉を、オレは今も忘れられない。 言い返そうにも、暴漢に襲われかけ服の袖を裂かれたサマリーの怯えた顔を見て、言葉がつかえてしまった。オレが無実を訴えたら、かえって彼らを混乱させ余計な迷惑をかけるだけだと思ってしまった。
だからオレは黙って当て馬としての役を背負った。
それから暫く経った今も、オレのやる事は変わらなかった。唯一今までと違うのは、彼らに気づかれないようにサマリーを助け、未だ誤解したままのカルムの罵声もかろうじて受け入れる事だった。
密かに、カルムとサマリーが互いに想い合えるようにそっと橋を渡す──そんな当て馬としての役割もこなしていた。
けれど、限界はすぐに来た。
二人が互いを見つめ合い、ようやく心を通わせた姿を目にした瞬間、オレはもう笑えなくなっていた。「おめでとう」なんて言える筈が無かった。 嬉しいはずなのに、胸の奥に広がったのはどうしようもない虚無感だった。 だからオレは、2人から距離を取った。理由は告げず、ただ「用事がある」とだけ言い残して。
◆
──行き着いた先は、戦場だった。 敵国との激戦地に志願兵として赴き、硝煙と血の臭いが渦巻く前線に身を投じた。 そこでは、余計なことを考える暇もなく、ただがむしゃらに剣を振るい続けられたからだ。
だが、夜になると二人のことを思い出してしまう。かつてオレに向けられたカルムの真っ直ぐな瞳と、サマリーの優しい笑み。どうかお前達は幸せになってくれ──オレがここで命を散らす代わりに。 そう願いながら、オレは戦場の仲間達から少し離れた場所で、冷たい光を放つ夜の月を仰いだ。
◆
最後の戦いの日は、皮肉にも澄み切った青空だった。 仲間を庇い、敵の刃を胸に受けた時、オレは不思議とどこか穏やかで安らかな気持ちでいた。
「バルトッ!!」 「ゲホッ…ゴボッ…!これで、いい…これで……。オレの役目は、ちゃんと…果たした……。」
驚いた表情で駆け寄ってくる仲間達にうっすらと笑いかけながら、血に濡れた身体は力無く地面に崩れ落ちた。
激痛が全身を駆け巡り意識が朦朧とする中でも、遠い国で笑っているであろう二人の姿を幻のように思い描いた。
「……カルム…、サマリー……どうか、ど、うか……お前達、は…幸せ、に……」
──オレの時間は、そこで終わりを迎えたのだった。
◆
後に、カルムはすべてを知ることになる。 バルトは本当は刺客を差し向けてなんかいなかった事、彼のことが気に入らない他の貴族達が、陰謀によって流布したただの噂にしか過ぎ無かった事。彼は本当にサマリーを守っていただけだったという事。 そして、彼らの幸せを願い側を離れ、自ら戦場に散ったという事実を。
「バルト……すまない。すまなかった…っ!!お前は、ずっと俺たちのために……!」
カルムは拳を震わせ、激しい悔恨に苛まれた。
「ごめんなさい、バルト…!私は…私は貴方に、何度も救われたのに…!!」
サマリーもまた、涙を流し続けた。自分が何も言わず保身に走ったせいで、バルトを戦場に向かわせたった一人で死ぬ事を選ばせてしまったことを後悔しながら。
けれどバルトはもういない。
ただ、彼の祈りだけが、青空の下に残されていた。
22
あなたにおすすめの小説
僕は今日、謳う
ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。
彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。
彼との最後の思い出が欲しかったから。
彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。
本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。
終始セリフばかりです。
話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。
名前が出てこない短編part4です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が!
あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。
私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
さかなのみるゆめ
ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる