天使くん、その羽は使えません

またり鈴春

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天使くんのピンチ2

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「え?」
「っ!!」


 条件反射で、サッと耳を押さえた私。そんな私を、天翔くんが急いで抱きしめた。
 そして天使の羽をバサッと勢いよく出して、滑り台の遊具を軽く飛び越える。

 ザザッ


「ひぃ!?び、ビックリ、したぁ!」


 安全バーなしでジェットコースターに乗った気分!めちゃくちゃ怖い!!
 だけど――怖がった私以上に、天翔くんは顔色を青くして「ある人」を見ていた。
 その「ある人」は、天翔くんと同じく天使の羽を出して、滑り台のてっぺんに立っている。


「あの人も、天使……?」
「……」


 すると、何も言わない天翔くんに変わって、「ある人」が口を開く。


「久しぶりだな、弟よ」
「……兄さん」

(え、この二人って……兄弟!?)


 なるほど!と思ったのは、顔。なんとなく端正な顔立ちが似てる。
 というか、天使にも家族があるんだね。そっかそっか。

 だけど、どうにも様子がおかしい。
「家族と会えてよかったね!」って言える雰囲気じゃないもん。見えない火花が、二人の間で対立しているみたい。すごく声を掛けづらい。


「そこの人間」
(声をかけづらいと思ってたら、逆に声を掛けられた!)


 天翔くんのお兄さんは金髪のロング。だけど、低い位置で一つ括りにしている。耳には……うわ、すごい大きな十字架。それに、額にも金色の小さな宝石が埋まっている。
 見た目からして「なんだかすごい天使」。
 そんな人に声を掛けられて、思わず緊張しちゃう。


「な、なんでしょう、か……?」


 ドキドキしながら、何とか返事をする私。
 すると、天翔くんのお兄さんはフッと笑った。


「さっきお前は、弟を”完璧な天使”と言ったな?」
「はい。言いました……けど?」


 頭をコテンと倒しながら聞く。そんな私を見て、お兄さんは、また「ふ」と短く笑った。
 そして――


「愚かな。この愚弟のどこが”完璧”というのだ。正天使にもなりきれない愚弟に”完璧”などという言葉は、ほど遠い」
「せい、てんし……?」


 正天使――お兄さんが、その言葉を口にした途端。天翔くんは、眉間のシワを深めた。
 そんな天翔くんを見て、今度はお兄さんも不機嫌な顔を浮かべる。


「正天使こそ、完璧な天使。神様から認められた天使の事だ。一方、この愚弟は準天使。天使見習い、とでも言えば伝わるか?」
「天使、見習い……」


 私が言葉を反復した時。お兄さんは目を細めて、楽しそうにニヤリと笑った。


「ふ、ふふ、ふはは!ピッタリな言葉だな。天使にもなれず、人間にも戻れず。半端なまま下界をさ迷う気分はどうだ、弟よ?先日のネコの件。アレも、しかと見ていたぞ」
「……っ」


 ネコの件――というのは、天翔くんが死んだネコを、土に埋めてあげたことかな?
 なんで、その事を「さも悪い事」かのように言うの?
 一体、どういう事!?


「命あるもの、死ぬのは当然。死んだ魂を天界へ送るのも、天使の仕事として当然の事。それなのに――
 死んだネコを、なぜ土に還した?その身が朽ちるのを待たずとも、すぐに天界へ送ればいいものを。なんと、まどろっこしい」
「……っ」


 天翔くんは、唇をギリッと噛む。何も言わないのかな?言い返さないのかな……?


「天翔くん……」


 天翔くんの服を、ギュッと握る。すると、そんな私を見て、天翔くんは少しだけ驚いた顔をした。
 だけど、唇を噛むのはやめたみたい。代わりに「言わせてもらうけど」と――お兄さんに言い返す。


「……身が朽ち果て、土に還る間。死んだモノの魂は、下界にいる事が出来る。
 あのネコは……車に轢かれて死んでいた。首輪がついているという事は、飼い主がいたという事。突然に命を落としたんだ。ネコの気持ちに寄り添って、最期に飼い主と別れの挨拶をさせてやりたかったんだ。
 そう思うのは、間違った事?」

「……」
「天翔くん……」


 そうなんだ。そういう理由があるんだね。
 天翔くん、優しいな。ネコの事を考えてあげてるんだね。
 だけど、そんな天翔くんの主張を鼻で笑ったのが――お兄さん。「愚弟が」と呟いて、スッと目を閉じた。


「な、何をするの……?」
「俺の後ろに下がって。兄さんは、きっと――」


 天翔くんが、そこまで言った時だった。お兄さんの体が、赤く光はじめる。
 鋭く、尖るような発色の良い赤色。まるで、お兄さんの「怒り」を表しているかのような色。


「来い――」


 お兄さんがそう言うと、天翔くんがネコを埋めた場所の土が、モコモコと動き始めた。え、ま……まさか。お兄さんがやろうとしてる事って……!
 すると嫌な予感は的中した。
 土の中から、ネコの亡骸(なきがら)が出て来たのだ。お兄さんが、掘り返した事によって。


(許せない……!)


 私が怒りを覚え始めた時。
 この場に、もっと驚く事が起きる。


「愚弟よ、よく見ておけ。なぜ自分が正天使になれないのか。なぜ未熟なままなのか――

 それは己の心の弱さに他ならない。その事をよく知っておけ。胸に刻み、片時も忘れるな。

 人間に近い心を持つお前に、天使の道は開きはしない」


 ネコの亡骸を自分の前に呼び寄せるお兄さん。
 その瞬間、真っ白の大きな鳥が舞い降り、巨大な翼でネコを包みこむ。

 そして翼で完全にネコが見えなくなった時。鳥もすぅっと、姿を消した。
 鳥の「ケーン」という甲高い鳴き声だけが、あたり一面に木霊している。

 ネコが眠っていた土は、空っぽ。
 お兄さんが呼び寄せた鳥により、いなくなってしまった。

 ギュッ……


「それ、やめて。兄さんには、何をやっても勝てないよ」
「……あ」


 気づけば、私はラケットを手に持ち、力強く握っていた。私、いつの間に……。
 これでお兄さんを叩こうとしてたのかな?命よりも大事なラケットって、いつもそう思ってるのに。


(いけない……。私、完璧に頭に血が上っている)


 それを見かねた天翔くんが、私に落ち着くように注意をした後。抑揚のない声で、ざっくりと説明を始めた。


「俺、さっきはあぁ言ったけど……。でも、俺が天使の仕事をしなかったのは本当だから。あの時も、このネコは土に埋めるべきじゃない。すぐに魂を天界に送るべきって……そう思っていた。それなのに、そうしなかった……出来なかったんだ」
「あ……」


 そうか、だから――初めて会った時、天翔くんは悲しそうに見えたんだ。
 土を掘る淡々とした作業の中で、彼のもの悲しそうな雰囲気が引っかかっていた。だけど、今やっと、謎が解けた。

 天使の仕事をやるべきという思いと、ネコの気持ちに寄り添いたいという思い――この二つの思いの間で、天翔くんは揺れていたんだ。
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