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お風呂とご飯と委員長2
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『一花、学校は?行かないの?』
『……行きたくない』
『一花……』
『……っ』
ウザいって思われたかな?何を甘えた事を言ってんだって、呆れられたかな。
どんどん不安になる私に、お母さんはこんな事を言った。
『じゃあ一花、これを貸してあげる』
『ん?なにこれ』
お母さんが持って来たのは、大量のアニメのDVD。しかもボックス。
意気揚々と持ってきたお母さんは、ウィンクをしながら私にそれを差し出した。
『もし余裕があるなら、お母さんの青春を貸してあげる』
『お母さんの青春?』
『お母さん、昔からオタクだったから。お母さんの青春は、アニメそのものよ』
『言い切っちゃうんだね……』
苦笑を浮かべた私に、お母さんは私の手を握る。
『青春は色んな形があるから、一花の思った形で思い出を作りなさい』
『!』
『お母さんの願いは、大事な娘の心と体の両方が元気である事だからね』
『お母さん……』
思わず泣きそうになって、DVDをギュッと抱きしめる。すると、お母さんは目の色を変えて「あ!」と、たった今私に渡したDVDを奪い返した。
『大事にしてね!? お母さんの宝物だからね!? 壊れたら、もう買えないからね!? 限定版だから!』
『……』
『はッ! お母さんったら、つい。ごめん! 我を忘れてたわ……。
でも――ね? お母さん、なんか楽しそうでしょ? 青春なんて、そんなもんよ。自分が楽しんだらいいの』
楽しんだもん勝ちなんだから――
その時のお母さんとの会話を、今もハッキリと覚えている。
私が登校拒否をしている理由を、今まで深く聞いてきたことはない。だけど、決して無関心ではなくて、私の手をしっかり握ってくれている。
一人じゃないのよ――って。
あなたの居場所はここにあるからね――って。
そう言ってくれてる気がする。
それに安心しちゃって……自由気ままに、いつまでも登校拒否をし続ける私も、どうかと思うけど……。
「(やっぱり、このままじゃダメだよね……)」
ふぅ、とため息をついた。その時だった。
「あの、いつまでそこにいるんですか?いくら僕のファンだからって、」
「桂木くんのファンになった事は一度もないのでご安心を」
バタン
お母さんに一言告げて、夕方のコンビニに自転車を飛ばす。もちろん、メンズの物を買うなんて初めてのことで……。何を買えばいいかもわからないし、商品を持ってレジに並ぶのも恥ずかしかった。
「(なんで私があの変人の桂木くんのために、ここまでしないといけないのー!?)」
半泣きで自転車をこいで、何とか家に帰った私。そこで、とんでもない光景を目にした。
「お母さん、この唐揚げはどちらのシェフがお作りに?」
「あら~桂木くんってば!」
「……」
桂木くんが、普通に制服を着て、普通にご飯を食べている。
え、ここ私の家だよね? ってか、下着はどうしたの!?
「(もしかして、今ノーパン!?)」
視界に入れまいと意識すればするほど、目は桂木くんの中心部に行ってしまい……。そして運の悪い事に、桂木くんと視線が合ってしまう。
そして「一花さん……」とため息交じりに名前を呼ばれて……。その直後、本当にため息をつかれた。
「はぁ、いくら僕のファンだからって限度がありますよ。ちゃんとパンツは履いてます。替えのパンツは持ち歩く主義なんですよ、僕は」
「あっそーですか! なら言ってくれれば良かったのに! わざわざ買いに行かなくても良かったじゃん!」
「こちらのお宅で保管させていただけると助かります。いつか役に立つかもしれないので、」
「絶対そんな機会は無いから、持ち帰ってください!!」
そして。
ドタバタの晩御飯を終えて、とうとう桂木くんが帰(ってくれ)る時間になった。
だけど困ったことに。
本当に困ったことに「こんな感じで明日も来ます」なんて言うから、丁重にお断りさせていただいた。
「もう、来なくて結構です」
「そうはいきません。僕は学級委員ですから」
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
訳が分かりません――と言いたそうな薄い唇に一度目をやって、自分の唇にキュッと力を入れる。
桂木くんみたいに、スラスラと喋ることは出来ないけど……言ってみよう。
勇気を出して。今の私の気持ちを。
「明日……学校に行くから、ウチにはもう来ないでいい……って事」
「え?明日?学校に?行くんですか?」
「い、行く……から!その疑問符のオンパレードやめてよ!」
「いえ、ビックリしたものですから」
そりゃ、そうだよね。だって私、四月の頭から六月のいままで。二か月まるまる、学校を欠席してるんだもん。そんな私が登校するなんて「急になんで?」って、思うよね。
「お母さん……今日、すごく嬉しそうだった。学校の事は、いつも何も言わないお母さんだけど……青春はどんな形でもいいからって、言うけど……。
でも本心では、私に学校生活を楽しんでもらいたいって、そう思ってるだろうなって。分かったから……」
今日のお母さん、すごく嬉しそうだった。
いつもニコニコしてるお母さんだけど、今日はもっと、ニコニコが全開だった。私の同級生が家にいるって事が、お母さんにとってすごく嬉しい事なんだなって……初めて知った。
「た、単純な理由かもしれないけど……勇気を出したいって、思ったの」
意を決して言った私。
だけど、肝心な桂木くんは――
「分かりました。では明日、八時にここで集合ですね」
「は?」
「迎えに来ますよ。下着のお詫びって事で」
「いや、ごめんなさい。やっぱり学校に行きません。訂正します」
急いで取り下げた私だけど、桂木くんは「一花さんが出てくるまでずっとピンポン押しますね」と言うもんだから、行かざるを得ない。何でこの人、不審者として捕まらないんだろう……。
「委員長だからって、そこまでしなくていいよ。下着も……私が早合点で買った事だから」
「いえ、違うんです」
「?」
何が?と思っていると、桂木くんは急に回れ右をして、去って行こうとする。
え? 帰るの?
「ちょ、ま!桂木くん!何が違うのー!?」
だけど私の声は、静かな住宅街に木霊するばかり。
結局、明日は桂木くんが来るのか来ないのか――
そんなどうでもいい事が気になった私は、ほぼ眠れないまま。
ついに、登校の朝を迎えることになる。
『……行きたくない』
『一花……』
『……っ』
ウザいって思われたかな?何を甘えた事を言ってんだって、呆れられたかな。
どんどん不安になる私に、お母さんはこんな事を言った。
『じゃあ一花、これを貸してあげる』
『ん?なにこれ』
お母さんが持って来たのは、大量のアニメのDVD。しかもボックス。
意気揚々と持ってきたお母さんは、ウィンクをしながら私にそれを差し出した。
『もし余裕があるなら、お母さんの青春を貸してあげる』
『お母さんの青春?』
『お母さん、昔からオタクだったから。お母さんの青春は、アニメそのものよ』
『言い切っちゃうんだね……』
苦笑を浮かべた私に、お母さんは私の手を握る。
『青春は色んな形があるから、一花の思った形で思い出を作りなさい』
『!』
『お母さんの願いは、大事な娘の心と体の両方が元気である事だからね』
『お母さん……』
思わず泣きそうになって、DVDをギュッと抱きしめる。すると、お母さんは目の色を変えて「あ!」と、たった今私に渡したDVDを奪い返した。
『大事にしてね!? お母さんの宝物だからね!? 壊れたら、もう買えないからね!? 限定版だから!』
『……』
『はッ! お母さんったら、つい。ごめん! 我を忘れてたわ……。
でも――ね? お母さん、なんか楽しそうでしょ? 青春なんて、そんなもんよ。自分が楽しんだらいいの』
楽しんだもん勝ちなんだから――
その時のお母さんとの会話を、今もハッキリと覚えている。
私が登校拒否をしている理由を、今まで深く聞いてきたことはない。だけど、決して無関心ではなくて、私の手をしっかり握ってくれている。
一人じゃないのよ――って。
あなたの居場所はここにあるからね――って。
そう言ってくれてる気がする。
それに安心しちゃって……自由気ままに、いつまでも登校拒否をし続ける私も、どうかと思うけど……。
「(やっぱり、このままじゃダメだよね……)」
ふぅ、とため息をついた。その時だった。
「あの、いつまでそこにいるんですか?いくら僕のファンだからって、」
「桂木くんのファンになった事は一度もないのでご安心を」
バタン
お母さんに一言告げて、夕方のコンビニに自転車を飛ばす。もちろん、メンズの物を買うなんて初めてのことで……。何を買えばいいかもわからないし、商品を持ってレジに並ぶのも恥ずかしかった。
「(なんで私があの変人の桂木くんのために、ここまでしないといけないのー!?)」
半泣きで自転車をこいで、何とか家に帰った私。そこで、とんでもない光景を目にした。
「お母さん、この唐揚げはどちらのシェフがお作りに?」
「あら~桂木くんってば!」
「……」
桂木くんが、普通に制服を着て、普通にご飯を食べている。
え、ここ私の家だよね? ってか、下着はどうしたの!?
「(もしかして、今ノーパン!?)」
視界に入れまいと意識すればするほど、目は桂木くんの中心部に行ってしまい……。そして運の悪い事に、桂木くんと視線が合ってしまう。
そして「一花さん……」とため息交じりに名前を呼ばれて……。その直後、本当にため息をつかれた。
「はぁ、いくら僕のファンだからって限度がありますよ。ちゃんとパンツは履いてます。替えのパンツは持ち歩く主義なんですよ、僕は」
「あっそーですか! なら言ってくれれば良かったのに! わざわざ買いに行かなくても良かったじゃん!」
「こちらのお宅で保管させていただけると助かります。いつか役に立つかもしれないので、」
「絶対そんな機会は無いから、持ち帰ってください!!」
そして。
ドタバタの晩御飯を終えて、とうとう桂木くんが帰(ってくれ)る時間になった。
だけど困ったことに。
本当に困ったことに「こんな感じで明日も来ます」なんて言うから、丁重にお断りさせていただいた。
「もう、来なくて結構です」
「そうはいきません。僕は学級委員ですから」
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
訳が分かりません――と言いたそうな薄い唇に一度目をやって、自分の唇にキュッと力を入れる。
桂木くんみたいに、スラスラと喋ることは出来ないけど……言ってみよう。
勇気を出して。今の私の気持ちを。
「明日……学校に行くから、ウチにはもう来ないでいい……って事」
「え?明日?学校に?行くんですか?」
「い、行く……から!その疑問符のオンパレードやめてよ!」
「いえ、ビックリしたものですから」
そりゃ、そうだよね。だって私、四月の頭から六月のいままで。二か月まるまる、学校を欠席してるんだもん。そんな私が登校するなんて「急になんで?」って、思うよね。
「お母さん……今日、すごく嬉しそうだった。学校の事は、いつも何も言わないお母さんだけど……青春はどんな形でもいいからって、言うけど……。
でも本心では、私に学校生活を楽しんでもらいたいって、そう思ってるだろうなって。分かったから……」
今日のお母さん、すごく嬉しそうだった。
いつもニコニコしてるお母さんだけど、今日はもっと、ニコニコが全開だった。私の同級生が家にいるって事が、お母さんにとってすごく嬉しい事なんだなって……初めて知った。
「た、単純な理由かもしれないけど……勇気を出したいって、思ったの」
意を決して言った私。
だけど、肝心な桂木くんは――
「分かりました。では明日、八時にここで集合ですね」
「は?」
「迎えに来ますよ。下着のお詫びって事で」
「いや、ごめんなさい。やっぱり学校に行きません。訂正します」
急いで取り下げた私だけど、桂木くんは「一花さんが出てくるまでずっとピンポン押しますね」と言うもんだから、行かざるを得ない。何でこの人、不審者として捕まらないんだろう……。
「委員長だからって、そこまでしなくていいよ。下着も……私が早合点で買った事だから」
「いえ、違うんです」
「?」
何が?と思っていると、桂木くんは急に回れ右をして、去って行こうとする。
え? 帰るの?
「ちょ、ま!桂木くん!何が違うのー!?」
だけど私の声は、静かな住宅街に木霊するばかり。
結局、明日は桂木くんが来るのか来ないのか――
そんなどうでもいい事が気になった私は、ほぼ眠れないまま。
ついに、登校の朝を迎えることになる。
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