超ポジティブ委員長の桂木くん

またり鈴春

文字の大きさ
4 / 8

ピクニックと委員長

しおりを挟む
 次の日。
 ガチャ――と玄関のドアを開けると、そこにはやっぱり桂木くんが立っていて、


「おはようございます、一花さん」
「おはようございませんでした……」


 私は、早々に心が折れそうになる。


「お母様は? もうお仕事ですか?」
「うん。私が制服着てたら、すごいビックリしてた。初めは、会社休むって言ったんだけど……」


 私が、その先を話さないでいると。桂木くんは「?」と、首を傾げた。
 私は渋々、「お母さんに“たぶん桂木くんが来るよ”って言ったらね……」と。今朝の私とお母さんのやりとりを話した。







『桂木くんが来てくれるの? じゃあ、問題ないわね!』
『え!?』
『じゃあね~』


「会社を休む」とまで言っていたお母さんは、私の背中をポンと叩き、結局――いつも通り出社してしまった。不登校だった娘の、新しい一歩だというのに。
 いつも通り過ぎるお母さんに「呆気ない……」と思って、少し落ち込んでいた私。
 だけど、

 ガチャ

 お母さんは、閉めたドアを再び開けて、戻って来た。目に涙をためて。そして静かに、ギュッと私を抱きしめる。


『お母さん……?』
『よく決心したね、一花。一歩ずつでいいんだよ。一花の行ける所まで、少しずつ。ね?』
『……うん。ありがとう』


 お母さんは何だかんだ言って、こうやって私の頑張りを知って、認めて褒めてくれる。だから私も、それに応えたいって思えるんだ。
 そう。だから、いくら桂木くんと登校することになったとしても……逃げずに、やりきるんだ、私!!








「なるほど。やっぱり優しくていいお母さんですね」
「……うん。そうだね」


 自然と出た笑みを浮かべながら返事をすると、桂木くんは「任せてください」と、自分の胸をドンと叩いた。


「お母さんから大役を賜ったので、一花さんはレッドカーペットを歩く気分で、堂々と登校してくださいね」
「……」


 そ、そんなに堂々と登校したくないんだけど……。それに、家を出たばかりだというのに、足はもう震えてるし。手も、上手く動かせない。


「(こんなんで、本当に登校出来るのかな。私……)」


 だんだんと不安になっていく私。
 だけど、その時だった。


「では行きますか。さあ、お手をどうぞ」
「お、お手……?」


 もしかして、返事は「ワン」?
 何の躊躇もなく桂木くんの手が私に伸びたから、思わず首を捻る。すると桂木くんは「信じられないものを見る目」で私を見つめ返した。


「何ですぐに握り返さないんですか?僕と手を握れるなんて、10億の宝くじが当たるより凄いんですよ?」
「はあ?」

「今にも倒れそうな千鳥足で僕の隣を歩かれるのも嫌……じゃなくて。アレですから、大人しく僕に引っ張られて歩いてください」
「(今、普通に”嫌”って言ったな)」


 ここで拒否をしても面倒くさそうだし。それに……確かに、誰かに引っ張ってもらった方が歩きやすい。
 仕方ないから、私は桂木くんの手を握る。すると、昨日よりもホカホカした彼の体温が、すぐに私に伝わって来た。


「あったかい……」
「梅雨だというのに、今日は晴れてますね。暑くなりますよ」
「ん……そうだね」


 桂木くんを真似て、上を見る。眩しいくらいにギラついている太陽が、容赦なく私たちを見下ろしていた。


「へっくしゅ!」
「(太陽を見るとクシャミが出る人って、本当にいたんだ)」


 昨日から、どんどん桂木くんと言う人を知れているような……謎が深まっていくばかりのような。
 そうだ! いい機会だし、昨日のアレも聞いておこうかな?


「そういや桂木くん。昨日、言いかけた事ってなんだったの?」
「言いかけたこと?」
「ほら、ウチから帰る直前に、」


――委員長だからって、そこまでしなくていいよ
――いえ、違うんです


 何が違うのか理由が聞けなくて、ずっと気になっていた。だから質問したのだけど、桂木くんは「まさか」と口に手を当てた。


「そんな事が気になって、それで寝られなくて……結果、目の下にひどいクマをつけたんですか?」
「(違うっての!)」


 寝れなかったのは、桂木くんが今朝、本当にウチに来るのか気になったからで……って、違うちがう。
 今は、桂木くんの話!
「はぐらかさずに教えて」と言うと、桂木くんはしばらく黙っていた。だけど……少しずつ。ポツリポツリと話し始めた。


「僕、目安箱を設置したんですよ。学校の玄関の出入り口と、校長室の横に」
「目安箱?なんの?」

「学校に何か不満はないかっていう、そういう意見を聞こうと思って」
「その内容の目安箱を、よく校長室の横に置けたね」


 さすが桂木くん、怖い物なさそうだもんね。
「最初は全く投書がなかったのですが」と、桂木くんは話を続ける。


「ある日、一枚の紙が入っていまして。そこに書かれていたんですよ」
「なんて?」

「陽乃一花さんが揃った1年1組が見たい、と」
「え……」


 1年1組は私が在籍するクラス。だから……それって、つまり……
 私の不登校を解消したいと願ってる人がいるって。そういう事?


「誰か分からない人が、そう投書したから……桂木くんは私に世話を焼いてくれるの?」
「目安箱を設置したのは僕ですしね。それに、僕も前々から一花さんの事が気になっていたんです」
「学級委員だから、正義感が働いて……って事?」


 やっぱ皆で仲良く!だろ!!
 みんな揃って1年1組だよな!?


 みたいな。
 ああいう「みなぎる闘志」みたいな感情が、桂木くんにもある……というわけ?
 すると桂木くんは「まさか」と首を振った。


「別に学級委員だから、ではないですよ」
「でも昨日は”学級委員だから”って言ってたけど?」


――こちらのお品物をお届けに参りました
――委員長として当然の事をしたまでです


 言うと、桂木くんは「言葉のあやです」と眼鏡をかけ直した。いやいや、それは無理があるから。


「桂木くんって、たまにウソをつくよね」
「僕が? やめてくださいよ。ウソをつくのは生涯を共に誓ったペットにだけと誓っています」
「待って。なんでペット?」


 はぁ、やっぱりわけが分からない。
 私は不機嫌な顔のまま、「昨日もウソついたじゃん」と、ふてくされた顔で桂木くんを見た。


「私がコンビニから帰って来た時。桂木くんは”唐揚げ美味しい”って言ってたけど……」


――お母さん、この唐揚げはどちらのシェフがお作りに?


「昨日ウチの食卓に、唐揚げなんて出なかったけど?」
「……」

「あれは、何のためのウソなの?」
「……そうですね」


 その時。
 桂木くんは「フッ」と笑って、通りがかった公園に咲いているアジサイを見た。紫やピンクのアジサイが、元気いっぱいに花を咲かせている。
 そのアジサイを見ながら、桂木くんが言った事。
 それは――


「ここでお昼を食べましょうか」
「は?」


 疑問符だらけの私を置き去りにして、さっさと公園に入っていく桂木くん。そしてカバンに忍ばせるには大きすぎるビニールシートをバサッと広げて「どうぞ」と私を手招きした。


「ど、どうぞって、」
「大丈夫ですよ。この暑さで、昨日雨が降って出来た水たまりは、完全に消化されてます」
「いや、そうじゃなくて!なんでお昼?私は学校に行きたいの!」


 と。
 そう叫んだ瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...