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私と委員長
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「だから中学校で会えた時は驚きましたよ。長い髪もそのままでしたし、何より笑った顔に面影があった。だけど、一花さんは入学後すぐに登校しなくなった。その理由が気になって……」
「気になって?」
正面に座る桂木くんの顔を覗きこむ。すると、なぜか桂木くんの顔は真っ赤になっていた。そして、どこか気まずそうに、私から視線を逸らしている。
「あの日は、僕が助けてもらいましたから。今度は僕がお助けマンになって、あなたを救いたいと……そう思ったのですよ」
言いながら、桂木くんはポケットから一枚の紙を出す。何回か折りたたまれた、小さな紙。掌に簡単に乗る紙を受け取り、丁寧に開けてみた。
すると、そこに書かれていたのは――
『 陽乃一花さんの笑顔が見たい
あの日キミから笑顔を貰った麗しき者より 』
「……」
「……」
「この”麗しき者”ってさ、もしかしなくても、」
「僕です」
「(やっぱり!?)」
え、じゃあ何?
もしかして桂木くん、最初から私を助けるために、目安箱を置いて、そして自分自身で投書したの?
私に恩返しをするため?自分がお助けマンになるため?
「……っぷ!」
「そこ笑うところですか?泣くだろうと思ってBGMにクラシックの曲を用意していたんですが……」
「必要ないない!」
だって、おかしいじゃん。あんな小学生の頃の事を、ずっと律儀に守ってくれてるなんてさ。
変でしょ、絶対。面白いでしょ。
「はは!桂木くん、すごすぎる!」
「これ、感動話じゃないんですか?さすがの僕もちょっと心がくすんできましたよ」
「はは……っ!」
本当、桂木くん。すごすぎる。
私が「お助けマンになってよ」って言っただけなのに、逆境から自己肯定感ヨイショ系男子になったんでしょ?それ、すごすぎるよ。皆がみんな、出来ることじゃないよ。
「桂木くん、今まで侮辱し続けてきてごめん」
「心外ですね。今まで僕は侮辱されてきたんですか?僕を好きなくせに?」
「私の好きな人を勝手に決めないで。だけど、そうだなぁ……」
クスッと笑った私を、桂木くんは「?」と首を傾げる。
私は最初、桂木くんを「飄々とした変人」としか思ってなかった。だけど桂木くんの過去に、そんな事があったなんて。本当、人って分からない。
「桂木くんのこと。恋愛対象としては全然好きじゃないけど、人間的には凄く好きになった。むしろ、尊敬するレベル」
「尊敬?崇拝の間違いでは?」
「桂木くんはお助けマンじゃなくて、神でも目指してるの?」
笑って、また唐揚げを食べる私。その時に風がまた吹いて、桂木くんはなびく私の髪を見た。
そしてポツリと「大役、果たせそうですかね」と零す。
「ん?何か言った?」
「いえ。何でも。
それより、この後どうしますか?今日はここまでとして、家に戻るでもいいですよ?登校は、また後日がんばるでもいいですし」
「……ううん、このまま学校に行く」
そう言った私を、桂木くんは驚いた目で見た。
「やっぱり、僕が近くにいると幸福度指数が自ずと上がるんでしょうか。いつも疑問だったんですよ。学校に来ない一花さんは、毎日僕を見なくて何が幸せなんだろうって」
「ん?なんて?」
「だって、同じクラスで僕と同じ空気を吸う――それは高級エステに通ってると同じですよ?女性にとって、それは幸せな事でしょう?」
「ちょっと待って、自己肯定感が暴走してる……!」
止まって!とどまって!
宇宙語を聞いてる気分になるから!
頭を抱えて悩んでいる私の横で、桂木くんはビニールシートをたたんで、鞄の中に閉まっていた。そしてカバンを肩にかけながら「それでいいんですよ」と言った。
「一花さんも僕と同じクラスに登校して、幸せになればいいんです。だから……さっき”このまま学校に行く”って言ってくれて、嬉しかったですよ」
「桂木くん……」
「これで、やっと僕と同じ空気が吸えますね」
「(なんか一気に嫌な気分に……)」
どんよりした気分の私に、桂木くんは「行きますよ」と再び手を伸ばす。
「え、まさか学校に着くまで手を握るの?」
「もちろん直前で離しますよ。見つかったら僕のファンに八つ裂きにされますからね、一花さんが」
「もうどこからが現実で、どこからが妄想なのか分かんない……」
だけど、このとんでもない桂木くんのおかげで、学校を見て「どうしよう」よりも「やっと着いた」って感想の方が大きかった。
だって、ずっと隣で宇宙語を喋られたら……誰だって、日本語を聞きたくなるでしょ?恋しくなるでしょ?……そういう感じ。
「じゃあ入ろうか」と言った私の腕を、グッと握った桂木くん。
何かと思えば、「聞き忘れていましたが」と、桂木くんは真剣に私を見た。
「一花さんは、どうして学校に来なくなったのですか?」
「それ……聞くの遅すぎない?」
「自分でも思ってます」
まったく、正直なお助けマンだ。
学校を目の前に、今、その話題を出したくないけど……。
ここで話してしまえば、過去のトラウマを乗り越えられるような気がして。少しずつ、胸の内を明かす。
「中学に入学してからも、ずっとやってたの……お助けマン。だけど、良い事をして目立つたびに、周りから反感を買っちゃって。つまり、出る杭は打たれるって事だよ。目立ち過ぎず、地味すぎず。っていう絶妙なラインがあるって事を、私は知らなかったの」
「……そうですか」
初めて聞く事実に、さすがの桂木くんも言葉少なだった。静かな桂木くん、珍しい。
「だからね。桂木くんも、」
お助けマンをするのはいいけど、やりすぎには注意してね――と言おうとした、その時だった。
桂木くんの腕が、スイッと私の髪に伸びる。
「だから切っちゃったんですか?」
「へ?」
「長い髪。見ようによっては、お助けマンのマントに見えて、カッコよかったですよ」
「!」
真面目な顔で、真面目なトーンで。何を言うかと思ったら……。
少しだけ照れてしまった私に「ここで照れたら桂木くんの思うツボ!」と喝を入れる。だから明るく笑って、冗談めいて返事をした。
「やっだな~桂木くん。女子には”カッコいい”じゃなくて、”可愛い”って言うもんだよ?」
「……」
「やっぱり桂木くんにファンなんかいないでしょ?観念しなって。バレバレなんだから~」
あはは!と笑った、その時だった。
桂木くんは、メガネをとって私を見る。
そして――
「可愛いですよ?」
「へ?」
「今の一花さん。長い髪の時は”カッコいい”って思っていましたが、短い髪の今は、可愛いです」
「か、かわいい……!?」
言われ慣れていない言葉や、突然のイケメンの登場に、ボンッと顔が赤くなる私。対して、全く顔色が変わらない桂木くん。無表情でメガネをかけ、イケメンを封印した。
そんな桂木くんに戸惑っていると「どうしますか?」と、いつも通り。抑揚のない声で、桂木くんから質問が飛んでくる。
「気になって?」
正面に座る桂木くんの顔を覗きこむ。すると、なぜか桂木くんの顔は真っ赤になっていた。そして、どこか気まずそうに、私から視線を逸らしている。
「あの日は、僕が助けてもらいましたから。今度は僕がお助けマンになって、あなたを救いたいと……そう思ったのですよ」
言いながら、桂木くんはポケットから一枚の紙を出す。何回か折りたたまれた、小さな紙。掌に簡単に乗る紙を受け取り、丁寧に開けてみた。
すると、そこに書かれていたのは――
『 陽乃一花さんの笑顔が見たい
あの日キミから笑顔を貰った麗しき者より 』
「……」
「……」
「この”麗しき者”ってさ、もしかしなくても、」
「僕です」
「(やっぱり!?)」
え、じゃあ何?
もしかして桂木くん、最初から私を助けるために、目安箱を置いて、そして自分自身で投書したの?
私に恩返しをするため?自分がお助けマンになるため?
「……っぷ!」
「そこ笑うところですか?泣くだろうと思ってBGMにクラシックの曲を用意していたんですが……」
「必要ないない!」
だって、おかしいじゃん。あんな小学生の頃の事を、ずっと律儀に守ってくれてるなんてさ。
変でしょ、絶対。面白いでしょ。
「はは!桂木くん、すごすぎる!」
「これ、感動話じゃないんですか?さすがの僕もちょっと心がくすんできましたよ」
「はは……っ!」
本当、桂木くん。すごすぎる。
私が「お助けマンになってよ」って言っただけなのに、逆境から自己肯定感ヨイショ系男子になったんでしょ?それ、すごすぎるよ。皆がみんな、出来ることじゃないよ。
「桂木くん、今まで侮辱し続けてきてごめん」
「心外ですね。今まで僕は侮辱されてきたんですか?僕を好きなくせに?」
「私の好きな人を勝手に決めないで。だけど、そうだなぁ……」
クスッと笑った私を、桂木くんは「?」と首を傾げる。
私は最初、桂木くんを「飄々とした変人」としか思ってなかった。だけど桂木くんの過去に、そんな事があったなんて。本当、人って分からない。
「桂木くんのこと。恋愛対象としては全然好きじゃないけど、人間的には凄く好きになった。むしろ、尊敬するレベル」
「尊敬?崇拝の間違いでは?」
「桂木くんはお助けマンじゃなくて、神でも目指してるの?」
笑って、また唐揚げを食べる私。その時に風がまた吹いて、桂木くんはなびく私の髪を見た。
そしてポツリと「大役、果たせそうですかね」と零す。
「ん?何か言った?」
「いえ。何でも。
それより、この後どうしますか?今日はここまでとして、家に戻るでもいいですよ?登校は、また後日がんばるでもいいですし」
「……ううん、このまま学校に行く」
そう言った私を、桂木くんは驚いた目で見た。
「やっぱり、僕が近くにいると幸福度指数が自ずと上がるんでしょうか。いつも疑問だったんですよ。学校に来ない一花さんは、毎日僕を見なくて何が幸せなんだろうって」
「ん?なんて?」
「だって、同じクラスで僕と同じ空気を吸う――それは高級エステに通ってると同じですよ?女性にとって、それは幸せな事でしょう?」
「ちょっと待って、自己肯定感が暴走してる……!」
止まって!とどまって!
宇宙語を聞いてる気分になるから!
頭を抱えて悩んでいる私の横で、桂木くんはビニールシートをたたんで、鞄の中に閉まっていた。そしてカバンを肩にかけながら「それでいいんですよ」と言った。
「一花さんも僕と同じクラスに登校して、幸せになればいいんです。だから……さっき”このまま学校に行く”って言ってくれて、嬉しかったですよ」
「桂木くん……」
「これで、やっと僕と同じ空気が吸えますね」
「(なんか一気に嫌な気分に……)」
どんよりした気分の私に、桂木くんは「行きますよ」と再び手を伸ばす。
「え、まさか学校に着くまで手を握るの?」
「もちろん直前で離しますよ。見つかったら僕のファンに八つ裂きにされますからね、一花さんが」
「もうどこからが現実で、どこからが妄想なのか分かんない……」
だけど、このとんでもない桂木くんのおかげで、学校を見て「どうしよう」よりも「やっと着いた」って感想の方が大きかった。
だって、ずっと隣で宇宙語を喋られたら……誰だって、日本語を聞きたくなるでしょ?恋しくなるでしょ?……そういう感じ。
「じゃあ入ろうか」と言った私の腕を、グッと握った桂木くん。
何かと思えば、「聞き忘れていましたが」と、桂木くんは真剣に私を見た。
「一花さんは、どうして学校に来なくなったのですか?」
「それ……聞くの遅すぎない?」
「自分でも思ってます」
まったく、正直なお助けマンだ。
学校を目の前に、今、その話題を出したくないけど……。
ここで話してしまえば、過去のトラウマを乗り越えられるような気がして。少しずつ、胸の内を明かす。
「中学に入学してからも、ずっとやってたの……お助けマン。だけど、良い事をして目立つたびに、周りから反感を買っちゃって。つまり、出る杭は打たれるって事だよ。目立ち過ぎず、地味すぎず。っていう絶妙なラインがあるって事を、私は知らなかったの」
「……そうですか」
初めて聞く事実に、さすがの桂木くんも言葉少なだった。静かな桂木くん、珍しい。
「だからね。桂木くんも、」
お助けマンをするのはいいけど、やりすぎには注意してね――と言おうとした、その時だった。
桂木くんの腕が、スイッと私の髪に伸びる。
「だから切っちゃったんですか?」
「へ?」
「長い髪。見ようによっては、お助けマンのマントに見えて、カッコよかったですよ」
「!」
真面目な顔で、真面目なトーンで。何を言うかと思ったら……。
少しだけ照れてしまった私に「ここで照れたら桂木くんの思うツボ!」と喝を入れる。だから明るく笑って、冗談めいて返事をした。
「やっだな~桂木くん。女子には”カッコいい”じゃなくて、”可愛い”って言うもんだよ?」
「……」
「やっぱり桂木くんにファンなんかいないでしょ?観念しなって。バレバレなんだから~」
あはは!と笑った、その時だった。
桂木くんは、メガネをとって私を見る。
そして――
「可愛いですよ?」
「へ?」
「今の一花さん。長い髪の時は”カッコいい”って思っていましたが、短い髪の今は、可愛いです」
「か、かわいい……!?」
言われ慣れていない言葉や、突然のイケメンの登場に、ボンッと顔が赤くなる私。対して、全く顔色が変わらない桂木くん。無表情でメガネをかけ、イケメンを封印した。
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