超ポジティブ委員長の桂木くん

またり鈴春

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私と委員長2

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「クラスの人達に謝ってもらいますか?それとも、何もなかったように……髪を短く切った、一花さんの新しい門出としますか?」
「え、」

「昔の精算をするのも、知らぬ存ぜぬを貫くのも、一花さん次第ですよ」
「わ、私次第って……」


 そんな大層なことを、学校を目の前にした今この瞬間に言われても……!
 再び頭を抱える私。桂木くんは、そんな私の腕を再びキュッと握った。


「決めてください。一花さんが決めた方向性で、僕も動きますから」
「え……?」

「言ったでしょう?大役を賜ったと。僕の役は、あなたを笑顔にすることですよ」
「あ、目安箱の……」


――陽乃一花さんの笑顔が見たい


 ニッと笑った桂木くんの、瞳の奥がキラキラ輝いていて……。私の心に宿った影が、桂木くんの光によって消えていくようだった。


「じゃあ……新たな私で、お願いします」
「はい。では――行きますよ」


 桂木くんが私の腕を離した時。よしよし、と。去り際に、私の頭を優しく撫でた。
 まるで「頑張ってますね」「大丈夫ですよ」「上手くいきますから」といってくれてるみたいで……。心がとても、温かくなった。
「桂木くん……」と少し彼を見直した、その時。


「あ、もしもトイレに行きたかったら遠慮なく言ってくださいね。もし緊張で失敗しても大丈夫ですよ」
「は?何の話を、」

「昨日いただいた新品の下着。今日、この時のために持ってきてますから」
「(どの時のためよ!)」


 女の子に向かって、なんちゅー話題を出してんの桂木くんは!と怒りが湧いた。
 だけど、緊張でガチガチになった私の筋肉が、桂木くんに怒った事で、少しずつ緩んでいる気がした。それだけで、わずかに足取りが軽くなるから不思議だ。


「ねぇ、桂木くん」
「はい?」

「見て、あの太陽の隣にある雲。まるで、さっき食べた唐揚げみたい」
「さすが僕。自然が織りなす形を、唐揚げで体現してしまうとは……」

「桂木くん?」
「……」


 そう言ったまま。
 とたんに、桂木くんは喋らなくなった。

 今、彼の頭の中にあるのは――
 昨日、私がコンビニに行って不在にしていた時のこと。
 桂木くんと私の母親が織りなした会話のこと。







『ねぇ桂木くん。あの子の事、気にかけてくれてありがとうね』
『……いえ、僕は昔一花さんに救われた事があるので。その恩返しをしたいだけなんです。そして……羨ましいなんて思って悪かったって。謝罪したいんです。隣の芝生は青く見えただけだったなって』


「と言うと?」と優しく尋ねるお母さんに、桂木くんは少し申し訳なさそうに喋った。


『あの時の僕は、自分だけが不幸な気がして……。だけど一花さんも大変な事があったのだと……。独りよがりな考えをした事を、反省しているんです』
『ふふ。一花の前で話しているのを見た時、すごい子が現れたって思ったけど……根はすごく真面目なのね』


 クスクス笑うお母さんに、少しだけ照れくさくなって。桂木くんは、お母さんからふいと目を逸らし、小さな声でこう言った。


『……嫌なほど真面目だった僕を変えてくれたのは、一花さんですよ』
『そう……あの子が、あなたを”そんな風”に変えちゃったの……』

『そんな風――って言葉は、僕の中ではプラスに変換されますからね?』
『ふふ』


 笑いながら、晩御飯の準備をするお母さん。炒め物をするため、桂木くんに背中を向けた時。ポツリと、こんな事を零した。


『あの子の事……お願いしてもいい?』
『はい、任せてください』
『――ありがとう』


 私がコンビニから帰って、キッチンのドアを開けたのは、その時だった。
 今までの話が聞かれてなかったかと、珍しく慌てた桂木くんが、自分の目の前に置かれた箸を取って、急いで演技をした。


『お母さん、この唐揚げはどちらのシェフがお作りに?』
『ふふ』


 唐揚げなんて晩御飯のメニューになかったのに、桂木くんが「唐揚げ美味しい」と言ってしまったのには、こういう理由がある。
 珍しく焦った彼の、挙動不審な言動に、お母さんはフライパンを見ながらクツクツ笑ったという事だ。







「本当、充分すぎる大役ですよね」
「ん?何か言った?」
「いえ、何も……ハックシュン!」


 眩しい太陽を見て、再びくしゃみをする桂木くん。そんな彼を、私が笑って見たのは、言う間でもなかった。
 そして、そんな自然体の彼を見て、ふと疑問が湧く。桂木くんは完璧に「逆境から乗り越えられた」んだろうかと。


「ねえ桂木くん、今は幸せ?」
「へ?そうですね……一花さんが俺の隣で笑ってくれてますし、家でもこのキャラで通ってますし。親とも対等に話せてますよ。僕の人生、何も言う事はありません。順風満帆です」
「(家でもそのキャラなんだ……ってか、今さらっとイケメン発言が出た気がする)」


 だけど、ホッと息をつく。桂木くんは、トラウマを乗り越えられたんだ。良かった、と。
 すると桂木くんは「これから忙しくなりますよ」と、メガネをかけ直した。


「へ?忙しくなる?なんで?」
「実は目安箱が、案外好評なんですよ。校長先生からもお墨付きを貰えて、僕は無事にお助けマンとして認知されたみたいです」

「認知されちゃったんだ!?」
「だけど、困ったことに……。この偉大なる僕の体は、悲しくも世の中に一つしかないんですよ」


 はぁ、と。肩を落として、悲しみに暮れる桂木くん。
 私は咄嗟の判断で「これから私にとって良くない事を言われるに違いない」と思って、下駄箱にダッシュする。
 だけど、

 ガシッ

 そんな私を逃す桂木くんではなかった。


「ということで、今度は一花さんも一緒にやりましょうね?お助けマン」
「ほ、他を当たってください!」

「僕が過労で倒れたら、その瞬間に地球は滅亡しますよ?」
「すごく壮大、且つ盛大な大ウソぶっこんでるよ! この人!!」


 だけど、桂木くんにとっては死活問題らしくて。これからクラスに入るというのに、隣で「はぁ」とため息を連発している桂木くん。
 地縛霊みたいな桂木くんを横に、クラスに入る勇気はないので「分かった!」と言って、桂木くんの手を握る。


「やる!やるから!だから、少しは笑って!今だけでも!」


 私のために!!

 すると桂木くんは、よほど嬉しかったのか「本当ですか!」とニコッと笑った。忘れていたけど、メガネで抑えられているだけで、桂木くんは素はイケメンなんだった。はじける笑顔に、途端に神々しさを覚えてしまって、


「うっ!」


 眩しさに耐えかねて、急いで目を瞑った。だけど桂木くんは、そんな私の事はお構いなし。


「今は授業中ですけど、この僕が登校してきたのですから入ってもいいですよね?」とドアの取っ手に手をかける。


「え!ちょ、ま……っ!」


 急に動悸がしてきた私。
 だけど、桂木くんは、

 キュッ


「大丈夫ですよ」
「っ!」


 私の手を一瞬だけ強く握り、教室の扉を開ける。そして私に大きな背中を見せながら、自分が一番に、教室の中に入った。


「(わっ!久しぶりの教室だ……!)」


 私は口から心臓が出そうなくらいドキドキして、呼吸が荒くなって……。このまま幽体離脱しちゃうのかもって思うくらい、足元がフワフワして緊張していた。


「一花さん、顔。ひきつってますよ。もっとスマイル。僕のように天使の笑みで」
「(無茶言うな……!)」


 だけど、桂木くんのいつもの抑揚のない声を聞いて、なんとか落ち着きを取り戻した私。あぶ、危なかった。もう少しで倒れるところだった……。
 と言っても、宇宙語を話す桂木くんに「不登校だった人の自己紹介の仕方」なんて出来るはずがなく……


「すみません、遅れました。だけど、いいですよね?
 だって、ほら――」


「ほら」と言った時に、私を振り向いてほほ笑む桂木くん。そして自分の横に、私をソッと並ばせた。どうやら、私に対する彼の自己紹介は、これで終わりらしい。
 急に現れた私に、もちろんクラスの人はどよめいた。


「え、陽乃!?」
「一花ちゃん!?」

「~っ!!」


 そんなどよめきを、私は一身に受け止めていたのだけど……「やっぱり帰りたい!」と思って、足が少しずつ後ろに下がっていく。
 その時だった。
 皆に見えない所で、桂木くんが私の背中をポンと叩く。そして、私にしか聞こえない声で、ボソリと。


「今の一花さんは、可愛くてカッコイイですよ」


 なんて。そんなモテ男子が言いそうな事を言った。


「っ!」


 こんな時に!何言ってんだ!!
 と少しの怒りを覚えた私は、その勢いに便乗して、震える自分の口を、無理やり開く。


「(伝えるんだ……、頑張るんだ……っ!)」


 おそるおそる、ペコリとお辞儀をする。そして、


「きょ、今日から……また、よろしくお願い……します……っ」


 震える声で、なんとか挨拶をした私を、真っすぐ見つめる桂木くん。
 私は、ドキドキして倒れそうな中、横にいる桂木くんの存在に……ちょっぴり安心していた。彼が隣にいると、なぜだか「大丈夫だ」って思えちゃうのが不思議。


「(お母さんが”桂木くんがいるなら大丈夫ね”って言った理由が、分かった気がする……悔しいけど)」


 そんな私の気持ちを、知る由もない桂木くん。皆に聞こえないように、極力小さな声で、ヒソヒソと私に話しかける。


「登校できましたね、さすが一花さんです。今夜は一花さんの家でお祝いしましょう」
「!?」


 さも自分も参加するような言い方だったから、急いで釘を打つ。
 だけど、このお助けマン。一筋縄ではいかないようで……


「お、お願いだから……もう家には来ないでね?」
「そういう照れ隠し、僕は嫌いじゃないですよ」


 そう言って意地悪く微笑んだ桂木くん。そんな彼に、私の胸が少しだけドキッと跳ねたのは……絶対に内緒。

 色々あったけど――

 自己肯定感が大爆発している、超ポジティブなお助けマンの桂木くん。彼は宣言通り、ちゃんと私を救ってくれた。それがとても嬉しくて、とんでもなく幸せで。
 だから、過去の私に教えてあげたい。
 家から出ておいで。クラスには、頭のぶっ飛んだ面白い委員長がいるよ――って。


「桂木くん」
「はい?」

「その……色々と、ありがとう」
「――ふっ」


こちらこそ、ですよ


【 完 】

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