大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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過保護なライバル3

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「これ。俺の宿題のプリント」
「……真っ白じゃん」
「驚きの白さだろ」


 堂々と言うものだから、なんか面白くて。
 プリントを見て、思わず噴き出した。


「ふふ、なにそれ。煌人、変なの」
「うっせ。昨日は、俺も何も手につかなかったんだよ」

「煌人なのに?」
「お前は、どれだけ俺を過大評価してんだよ」


 いつもは罵ってくるくせに――と眉を下げて笑う煌人に、視線を向けた。


「煌人は何でもできるじゃん。勉強もその他も全般的に。言えば、怖い物ナシでしょ? だから、私に告白したくらいじゃ動じないかと思って」
「……」
「煌人?」


 次の瞬間。
 おでこに、勢いの良いデコピンを食らう。

 パチンッ


「いた!」
「ムカつく、お前本当にムカつく」
「いたた~、ほっぺをつねるな~!」


 みょーんと伸ばされたほっぺが、自分の視界の端に移って。
「どこまで伸びるんだろう」って思ったら、何だか面白くなって、大きな口を開けて笑った。


「あはは! なに、もう~。そんなに伸ばされると痛いって!」
「……」
「ん? 煌人?」


 煌人は今まで笑みを浮かべていたかと思うと、今度は真顔になった。
 しかも「はぁ」と浅くため息をついて、


「やっぱり俺は、凛が好き」


 そんな事を言った。


「……今の聞き間違、」
「聞き間違いじゃない。俺はやっぱり素直な凜が好きだなって、そう思った」
「だから……私は素直なんかじゃないって」


 さっきの宿題プリントがそう。
 素直な子だったら「やってくるの忘れました」ってすぐに謝ってる。


「だけど、私は……」


 そう思って塞ぎこむ私に、煌人は首を振った。


「素直じゃなかったら、いま俺に自分の気持ちを話してないだろ」
「でも、相手は煌人だし」
「その言葉、俺はどう受け取ったらいいの……」


 煌人は苦笑を浮かべる。


「ライバルである俺の前で、自分の弱さをさらけ出せる奴って……すごく強くて素直な奴だと思うけど?」
「今の言葉は……お世辞?」
「この状況でお世辞はねーわ」


 本心で言ってるから自信を持て――と煌人は私の頭を、ポンポンと撫でる。


「そんな素直なお前だから、俺は惚れたんだっての」
「っ!」


 このド直球な言葉に、私の顔も思わず赤くなって……。
 今まで煌人を見ていた目を、思わず逸らしてしまった。


「そ、そういう恥ずかしい事を、言わないでほしいんだけど……」
「言ってねーと、凜は”悩むのに疲れた”とか”ライバルのままの方が楽”とか、あらぬ事を考えそうだからな。逃げずにきちんと考えて答えを出せっていう、俺からの圧だよ」
「(うっ……)」


 見透かされてるのが、いかに煌人が私の事を知っているかのバロメーターに思えて。
 言うなれば「愛の深さ」みたいな……?


「(いや、何を言ってるの私……! バカ恥ずかしい!)」


 パンッと頬を叩くと、目の前にいる煌人が「おわ!」と声を上げた。
 ビックリして私から少し離れた煌人を見て「ネコみたい」と、ふっと笑みが漏れる。


「最近のネコは過保護なんだね」
「いきなり何言ってんだよお前は……。
 やっぱちょっと寝ろ。ベッド空いてんだから」
「ん、そうしようかな」


 確かに、昨日はあまり寝られなかった。
 勉強第一の私が宿題を忘れるなんて、前代未聞だもの。

 ドサッ


「あー体の力が抜ける~」
「へーへー。今のうちに羽を伸ばしてろよ」


 遠くにあったパイプ椅子を引っ張ってきて、ギッと座る煌人。


「(教室に戻らないんだ……)」


 この場に私を一人にしない煌人の優しさが、少しだけ嬉しい。
 思い返せば、昨日も……


『寝てる凛を一人残して帰れるかよ』


 そんな事を言って、寝てる私を起こさずにずっと待っていてくれた。
 あの時は、煌人がお坊ちゃまだから、そういう発言になったのかと思ったけど……。
 あれは、私の事が好きで、そう言ってくれたのか。

 そして、今も――


「(私の事が好きだから一緒にいるって事?)」
「なんだよ。寝れねーの?」
「ッ!」


 私が煌人を見ると、すぐに気づいてくれる。
 それだけ私の事を気にしてるって事?
 いつも見守ってるって事?

 ドキン


「(あれ?)」


 今、胸のあたりが、なんかこう……。
 締まるというか、握られてるっていうか……。


「(いや、握られてるって。誰によ)」


 自分で思った事ながら、変な思考回路に乾いた笑いが出る。
 そして煌人に目をやった。


「おい凛、何か顔が赤いけど大丈夫か?」
「え、赤い?」
「まさか本当に熱出たんじゃねーの?待ってろ、体温計持ってくる」


 シャッとカーテンを閉めて、出て行く煌人。
 その後ろ姿を、少しの間、不覚にも見続けてしまった。


「はっ、何をしてるの私……」


 寝よう、そう。昨日寝られなかったんだし、さっさと寝よう。
 そう思って目を瞑ると、ものの数秒で、すぐに眠ることが出来た。

 と言っても……


『わー!煌人が私の心臓を握って悪い顔をしてるー!!』


 巨人化した煌人に、なぜか私の心臓を握りつぶされそうになるという。そんな最悪の夢を見てしまう。


「やめて、煌人……私の心臓を返して!」
「こいつ夢の中でも俺と争ってんのかよ……」


 はぁと、煌人がため息をついたとは知りもしない私。
 その後、チャイムと同時に目を覚ました私は、なぜか不機嫌な煌人にジト目で見られるのだった。


*おまけ*


「な、なんか怒ってる?」
「夢の中くらい仲良くしねぇ?」

「え、夢の中に出てこないでほしいんだけど」
「お前ほんとムカつく」
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