5 / 40
ライバルの嫉妬*煌人*
しおりを挟む*煌人*side
思えば俺は、かなり恵まれて生まれた。
顔も頭もスポーツも、やる事すべて人より上をいき、常に目立っていた。
そんな俺を、皆は色眼鏡で見たもんだ。
『君が鳳条グループのご子息か』
『優秀な生徒を持って先生嬉しいわ』
『鳳条~お前の家でゲームさせろよー』
人に頼られるのは嫌いじゃない。
嫌いじゃない。が、少し息苦しい。
皆は俺を見ているようで、しかし、その目に写っているのは「鳳条」の看板だ。
仮面のように皆は同じ笑みを浮かべ、俺に近づいて利用する。そんな現実を、俺は小さい頃から何度も目の当たりにしてきた。
「鳳条」という名を持っているせいで、良くも悪くも――俺の人生、振り子のように絶え間なく揺れている。
そのスピードについていくのがしんどくて、俺は早々に「穏やかな人生」を諦めた。皆が俺に興味を持つのは仕方ないことだ、社長の息子なんだから――と。
自分の人生を「鳳条」へ捧げると同時に、俺は「鳳条」を少しずつ嫌っていった。
あまり大きな声では言えないけど、反抗期みたいなもん。
けど、まぁ。
反抗期とは言うけど、別に誰が悪いというわけじゃない。
言うなれば、俺が完璧に開き直れないのが悪いんだ。
きっとそうだ…………って。
アイツに出会うまで、俺はそんな事を思いながら生きていた。
――中学の入学式から一週間後――
『この前の小テスト返すわよー。鳳条くんが最高得点でした。皆も頑張ってね~』
『ありがとうございます(ニコッ)』
別に対して嬉しくもない先生の言葉。
それを聞き流す俺……のはずが、
『……チッ』
『(ん?)』
俺の後ろの席の奴が、すごい顔で舌打ちをした。
俺を見ながら。
『(今の……俺への舌打ちだよな?
え、なに?なんで?)』
何か悪い事した?と焦る俺の手には、百点満点のテスト用紙。
後ろの席の「三田」という女子は、穴が開くほどこの用紙を見ていた。
『み、三田さんは、テストどうだった?』
『さぁ』
『(さぁっ?)』
渾身の勇気を振り絞って話し掛けたのに、それだけかよ!
しかも、お前の手にテスト用紙あんじゃねーか。点数を教えろよな……。
『三田さん、あのさ、』
『ごめん、近寄らないで。ちょっと無理』
『(近寄るな!?無理!?)』
ポーカーフェイスが代名詞の俺も、ここでついに動揺し始める。
だって、おかしいだろ。
俺を見れば皆がニコニコ仮面をつけて寄ってくるのに、コイツときたら、俺を全力で拒否するんだぞ?
そんな特殊なヤツ、この世の中にいたのかよ。
『……』
(宇宙人を見たような驚き)
『なに?見られるの不快だから止めてくれない?』
『(ふ、不快!?)』
『あと、前が見えないから早く座って』
『(遠回しに邪魔って言いやがった!)』
何だコイツ。俺に一切の容赦がねぇ。
全力で「俺」にぶつかってくんじゃん。
『な、なぁ、』
まさか、コイツ……。
『三田さんって俺の事を嫌いだよな?』
『!!』
『(今、)』
「なぜそれを!?」って思ったな。
三田の顔に「図星」って書いてある。
『……ぷっ、』
なんだコイツ、面白すぎるだろ。
『あっはは!なんだお前、おもしれー』
『……褒め言葉じゃないなら侮辱罪で訴えるからね』
『褒めてる褒めてる』
『言い方からして信用できない』
本心だよ。褒めてるよ。
だって俺、こんな面白い奴に、今まで会った事ねーもん。
『なぁ。次のテストで俺の方が点数が良かったら、俺の事を名前で呼んで』
『え、なんで?』
『そんで、俺もお前の事を名前で呼ぶから』
『なんで!?』
その時に初めて、三田の驚いた顔を見る。
さっきまでは怒った顔。
今はめんどくさそうな顔。
クルクル変わる三田の表情、見ていて全く飽きない。
『(ふ、変な奴)』
初めこそ、飼育員のような目で、三田を観察していた俺。
だけど……その後のテストで俺が賭けに勝ち、お互いを名前で呼ぶようになった時。
あの時から、俺の「凛を見る目」は変わった。
『俺の方がテストの点数良かったな。じゃあ、約束通り。俺のこと名前で呼んで』
『~っ』
『ほら、早く』
『あ、あ、き……』
三田には荷が重かったか?と余裕をぶっこいて高みの見物をしていた俺。
だけど、その一秒後に。
俺の世界はひっくり返る。
『あ、煌人……っ』
『(あ、やべ)』(単純)
照れて顔が真っ赤になって、震えながら俺の名前を呼んでくれた凛に心惹かれてしまって。
その後は、ご推察どおり。
気づけば、俺はいつも、目で凜を追っていた。
『なぁ凛、ここ教えて』
『自分で分かるくせに。そういうのスゴイ腹立つ、陰湿』
『すご。1を言うと10の罵声が返ってくるじゃん』
罵声のみなら、スラスラ喋ってくれる凛。
じゃあ、これならどうなんだよ。
『俺がお前を好きって言ったら、どうする?』
『…………へ?』
いつも怒った顔しか見せない凜の、最上級に照れた顔。
困った顔、動揺する顔。
『……っ、』
ヤバい、どうしよう。
全部ぜんぶ「やみつき」だ。
『鳳条くん、好きです……っ!』
『ごめんね、だけどありがとう』
告白を断る時に思っていたのは、
「凛に言ってもらいたいなぁ」って事。
『鳳条くん、下の名前で呼んでもいい?』
『ごめんね、今まで通りがいいかな』
どれほど可愛い女子に言い寄られようと、俺が思うのは「名前で呼んでほしいのは凛だけ」とか。
『どれだけ凜の事が好きなんだよ、俺……!』
自分のチョロさに落ち込むこともあった。というか、落ち込まない理由がない。
どんどん凜にはまっていく俺とは反対に、凛は全く変わらず俺を敵視してるんだから。
だけど――
たくさんの女の子を悲しませても尚、俺は凜から目が離せなくって。
どうしても、その口から罵声じゃない甘い言葉が聞きたくって。
凜はいつ俺の方を向いてくれるのかって、気づけばそんな事ばかり考えている。
それなのに、当の本人ときたら……。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
合言葉はサンタクロース~小さな街の小さな奇跡
辻堂安古市
絵本
一人の少女が募金箱に入れた小さな善意が、次々と人から人へと繋がっていきます。
仕事仲間、家族、孤独な老人、そして子供たち。手渡された優しさは街中に広がり、いつしか一つの合言葉が生まれました。
雪の降る寒い街で、人々の心に温かな奇跡が降り積もっていく、優しさの連鎖の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる