大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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 下校時間。いつもの場所に、ナル先輩は立っていた。


「すみません、お待たせしました」
「ううん。じゃあ帰ろうか」
「はい」


 ニコリと笑ってくれたナル先輩を見て、固まっていた心臓が少しずつほぐれていく。給食時間のアレが、少し癒された。


「湯がいた鳥のササミがほぐれてく、まさにあの感覚……」
「え、ササミ?凛ちゃん料理するの?」
「はい、たまに手伝うくらいですけど」


 ナル先輩は「それでもすごいよ」と私の頭を撫でる。


「凛ちゃんは真面目だよね。部活に入ってなくて放課後は自由なのに、真っすぐ家に帰って料理の手伝いをするんでしょ?」
「それを言うなら、先輩だってそうじゃないですか。部活に入ってないんですよね?どうしてですか?」
「え……俺は、」


 私の頭を撫でていた手をパッと離し、人差し指で、頬をポリポリとかくナル先輩。どこかぎこちない反応だな……と思っていると「そう言えば」と。
 話題は、煌人の話へと変わる。


「凛ちゃんは、俺と毎日一緒に帰ってて、大丈夫なの?」
「どういう?」

「いや、鳳条くんは怒らないのかなって」
「……」


 私と煌人の事情を深く知らない先輩まで、気を遣っている。その気持ちが申し訳なくて、「大丈夫です」と眉を下げて笑った。


「実は……煌人とは、あの日以来ケンカをしていて」
「あの日って、三人でファミレスに行った日?」
「はい。ホント些細な事なんですが……」


「勘違いで失恋した事」を些細な事って言い切っちゃう私って……。少し煌人に負い目があったものの、でも先に勘違いしたのは煌人だ。誤解を解きたいけど、煌人があんなにネガティブモードじゃ、話しにもならない。
 それに……


『……』
『っ!』


 女子からの冷たい視線に、思いのほかダメージ受けてるし。
 モテる煌人の周りにいる私は、どうしても疎まれる。自分が傷つきたくないし、クラスの女子から距離をおかれるのも嫌だ。
 なら――
 少しの間、煌人と距離をとるのは……良い事かもしれない。


「煌人が冷静になるまで待とうと思います。今は何の話をしても、きっと無意味ですから」
「無意味、ねぇ。でも……そっか。鳳条くんは今日も来ないのか」


残念そうに言うナル先輩に、思わず眉間にシワが寄る。


「煌人と一緒に帰りたいんですか? 先輩、変わってますね」
「鳳条くんは面白いからね。色んな視点を持ってるから、話してて飽きないし」
「(じゃあ私との会話なんて、とっくに飽きてるんじゃ……?)」


 一抹の不安を抱いたものの、先輩の煌人へ対する良いイメージは、今ここで正しておかないと――そう思って「煌人という人物はですね」と、お節介な私の口が動く。


「煌人は自由奔放ですよ。
 私が困ることなんかおかまいなしで、勝手に勝負をもちかけては、絶対に勝って去って行きます。私と煌人が互いに名前で呼んでいるのも、急に煌人から勝負をもちかけられたからです」
「ふふ、そうだったんだね。名前呼びは、単に仲が良いからかと思った」


「とんでもない」と強めに否定して、続きを話す。


「それに、煌人はかなり自分勝手ですよ。自分が話したい話題を振っては、興味なさそうに”ふうん”とか”へぇ”で終わるし。いくら私が好きな話題を振られても、煌人の反応がそれじゃ、全然面白くなくて」


 私が熱く話していると、ナル先輩は「という事は」と探偵みたいに顎に手を添えた。


「鳳条くんは、いつも凛ちゃんの好きな話題を振ってくれるんだね」
「え……?」


 そんな言葉が来るとは思わず、ビックリして固まる。
 だって、煌人だよ?


「(あの煌人が、私のために気を遣う?)」


 そう言えば……給食時間に、泡音ちゃんにも言われた。


――凛が変に気を遣わないように、わざと鳳条くんがいつも通り接してくれてるんじゃないの?
――あの紳士な鳳条くんだよ?女子に気を遣わせるなんて、絶対にしないでしょ。それが好きな人へなら、なおさら


「あの煌人が……」
「ふふ」


 考え込む私に、ナル先輩という追い風が吹く。


「ファミレスでも、凛ちゃんの事を思って鳳条くんはポテトを頼んでくれたんだし。いつも気にかけてくれてると思うよ。まるで凛ちゃんを守ってるみたいに」
「(それで煌人は”守護神”って呼ばれてるのか……!)」


 私が納得したと同時に、ナル先輩が「大体わかった」と笑った。


「鳳条くんが凛ちゃんを、どれほど好きかって事が」
「え」

「あと、凛ちゃんも。どれほど鳳条くんの事を気にしてるかって事もね」
「……私?」


 首を傾げると、ナル先輩は「そう」と頷いた。


「凛ちゃんは、鳳条くんの事をよく分析してる。それは友達、いや親友以上に思ってるからだよ」
「私は煌人の嫌いな所が目に付くだけで、」
「うん。だけどね、凛ちゃん」


 ナル先輩はニッと笑って、私の顔を覗き見る。そして、私の頬をツンと。優しく押した。


「鳳条くんの事を話してる時の凛ちゃん。すごく良い顔してるよ?」
「え!」

「だから、鳳条くんの事がすごく気になってるんだろうなぁって。いや、彼を気に入ってるんだろうなって」
「~なっ!!」


 頬をプニプニ触られながら、なんとも屈辱的な事を言われて……。私のボルテージが、最高潮に達した。


「……いで、」
「ん?凛ちゃん?」

「勝手な事を言わないでください!私が小学校で必死に築いてきた物を全部、煌人は一気に振り出しに戻しやがったんですよ!こんな身勝手なことがありますか!?」
「凛ちゃん!」

「あのエセ紳士が!」
「だからシー!シー!!」


 ナル先輩の珍しく焦った顔は新鮮だけど、あいにく、今の私には関係ない。


「私は煌人が嫌いなんです!キザな言葉も、大人びた行動も!変な着ぐるみ被ってるみたいで、全部ぜんぶ気に入らないんです!」


 おまけに――と、更なる煌人の批判を重ねようとした、その時だった。


「――いい加減にしろよ」
「え?」


 急にナル先輩の声が低くなったかと思ったら、先輩は私を鋭く睨んだ。そして目にも止まらぬ早さで、私の口は先輩の大きな手によって押さえられる。


「んー!」


 ふりほどこうとしても、ナル先輩の力は強くて、ビクともしない。しかも、いつの間にか壁に追い詰められていて、逃げ場がない。逃げようとジタバタする私に、ナル先輩は顔を近づけ、ドスの効いた声で喋った。


「鳳条煌人の悪口を言ったら……ただじゃすまねぇからな」
「!?」


 え、どういうこと!?
 ナル先輩と煌人って、どういう関係なの!?
 まさか、この人……
 鳳条グループから送られてきたスパイとか!?
 もしもスパイだったら私はどうなるの?
 まさか殺されるの!?


「(た、助けて……っ)」


 一気に怖くなって、唇が震える。これから自分の身に起こる事を想像したくないけど、顔つきがガラリと変わったナル先輩を見てると、どうしても恐怖を抱いてしまう。


「(怖い……っ)」


 足が震える、目に涙がたまる。
 怖い、助けて。
 助けてよ、


「助けて……煌人!」


 すると、その瞬間。
 バキッと音がしたかと思うと、私の目の前に、大きな背中が立ちふさがった。
 そして、次に聞こえたきたのは――
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