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守護神の悩み
しおりを挟むあの日から、煌人を見ると、少し胸がざわつくようになった。
あの日というのは。
執事さん不在で、車で煌人と二人きりで待っていた日のこと――
『俺と手、繋いで』
『!』
顔を真っ赤にした煌人が、おずおずと、私に向かって手を伸ばした。
早く握ってほしいって、そう言わんばかりに。フルフルと震えている。
『い、今……?』
『今すぐに。嫌?』
『嫌じゃ、ないけど……』
胸の前で、両手をギュッと握った私。気づけば、私の手もフルフルと震えていた。
そんな私を、煌人に見られるかと思うと……
『嫌じゃない、けど……恥ずかしい……っ』
『!』
瞬間、煌人は目を開いて、素早く私の腕を握った。
『あ、煌人っ!』
『ごめん、今はもう――何もかも無理』
そう言って、お互いのシートベルトを素早く外した煌人は、優しく私を抱きしめる。
『え、ちょ、あの……!』
『凛、』
私の頬に、スリっと自分の頭を寄せる煌人。
しばらくして離れたと思ったら、まだ近い距離に煌人がいた。
私たちの間には、たった10センチの距離しかない。
10センチしかない、と泣きそうになる私と。その10センチさえも煩わしそうに思っているのか、顔を歪めて目をギラつかせる煌人。
『目、閉じて』
『え、なんで、目……?』
やだよ、怖いもん――と眉を下げて、俯きながら言った私。
そんな私に、煌人は今度こそためらいもなく、10センチの距離を0にする。
『もう待たない』
『え、』
『待ってあげないから、覚悟して』
『っ! あ、』
煌人!!
パニックになって、名前を呼んだ時だった。
「はい」――と私の前に、缶ジュースが現れる。
一方の煌人は……羽交い絞めを受けていた。
いつもの執事さんによって。
『こんな体たらくな煌人様を見たら、奥様はなんとおっしゃるでしょうねぇ?』
『ニコニコ笑いながらプロレス技をかけるな!痛ぇ!!』
どうやら、いつの間にか戻って来た執事さんが場の状況を察し、煌人を捕まえてくれたみたい。
突然の事で驚いたけど……ホッと、思わず安心した。
『し、執事さん……。すみませ、』
『こういう時は”ありがとう”ですよ、凛お嬢様。おっと”お嬢様”呼びは、お嫌いでしたね。では……お怪我はありませんでしたか、レディ?』
『な、ないです!ありがとうございます……っ』
『それならよかった』
『……~っ』
さすが「鳳条」家に仕える執事さん。すごく紳士だ。
煌人のお母さんは「女王様みたいに振る舞う」って、前に煌人が言ってた。
――男は自分に跪(ひざまず)くのが当たり前。レディーファーストをしない男は、男じゃないってさ
執事さんの紳士ぶりを見る限り……。
煌人のお母さんの考えは「鳳条家で働く人たち全員」にも浸透してるみたい。そして全員が、もれなく紳士になっている。
『(煌人は別にして。執事さんは大人ですごくカッコイイから、思わずドキドキしちゃうんだよね)』
『おい!凛!』
『な、なに……?』
顔を赤らめて俯く私を、めざとく発見した煌人。
両手を執事さんに拘束される中、ジト目でイチャモンをつけてきた。
『コイツを見ちゃダメだ!』
『え、コイツって執事さん?』
『そう!こいつ天然女キラーだから!会った女の全てを骨抜きにしていく、罪しかねぇ男なんだよ!』
『(”天然女キラー”……)』
どこかで聞いた事のある通り名……あ、そうか。
前、泡音ちゃんにもらったメールを思い出す。
――鳳条煌人は女子キラーだから気をつけろ
そして執事さんも「天然女キラー」。どうやら、執事さんと煌人は、そっくりさんらしい。
『(鳳条家はイケメン紳士製造機。恐るべき一家……)』
そんな事を思っていると。
技をかけられ息も絶え絶えになった煌人が、執事さんによって移動させられる。
『すみません、煌人様の体調が悪いそうなので、前の席に移動しますね』
『あ、はい……』
「お前のせいだろ」とグッタリしながら苦情を言う煌人。
執事さんに抱えられ、前の席へ移動した。
『くそ、主人を助手席になんて聞いたことねぇな』
『防弾ガラスなので襲撃があっても大丈夫です』
『ちげーよ。立場の事を言ってんだよ!』
『……』
後ろの席から二人のやりとりを眺めていた私は、思わず見入ってしまう。
煌人が、ありのままに振る舞っているようで……新鮮だな。
絶対に自分の身分を偉ぶらない煌人。
その口から「立場」という言葉が出て来た。
『(執事さんには、何の遠慮もなく話す事が出来るんだろうな)』
その時の煌人は怒っていたものの、すごく楽しそうに見えて……
いいな、なんて。
執事さんに少しだけ嫉妬を抱いてしまった私。
『(ん?いいなって何?
嫉妬ってなに……!?)』
すると、私の異様な空気を感じ取ったらしい煌人。
すごい速さで、後ろを振り返った。
そして、ちょうど頭を抱えていた私と目が合って、
『凛、お前……何してんの?』
『な、なにも……』
すごく不審な目で、私を見るのだった。
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