大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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君に揺れる2

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「あ、煌人……ちょっと、離れて」
「ヤだね」
「は、離れてってば!」
「ヤダ」


離れるどころか、煌人はギュッと、更に私を強く抱きしめた。

お互いの心臓の音が、お互いに聞こえてるんじゃないかって、そんな近さで。

煌人は私を、決して逃がさず、捕えておく。


「(前もだったけど、どうして煌人は、こういう時いつもいきなりなの!?)」


パニックになって、頭がグルグル回り始める。

だけど、脳に無理やり「落ち着く」よう指示を出す。

すると、不思議な事にだんだん。
いつもの調子が出て来て……


「最近私を散々に避けてたくせに、こういう時だけ不用意に触らないでくれる?」
「はい、すみませんでした」


ザッと私から距離を取った煌人。


「(あ、危なかった……)」
「(また俺やっちまった……!)」


こうして私たちは、いつもの雰囲気に戻った。


だけど、せっかくだし。

どうして煌人が、今まで私を避けたのか。
それだけは、聞いておこう。


「ねぇ煌人。あのさ、どうして……私の事を避けたの?」
「え」
「最近避けるし、話してくれないし、ケンカもできないし……。私、寂しかったよ」
「凛……」
「(あ、そうなんだ……)」


自分の言葉で「そっか」と分かった。

私、寂しかったんだ。

お父さんお母さんがいなくなった時みたいに寂しくて、自然とここにきちゃったんだ。


「(煌人と話せなくて寂しいとか、そんな事を思っちゃうんだ、私って……)」


意外と女々しい所があるなって思って。

そうしたら、何だか笑えて来た。

だけど、当の本人の煌人は、何だか申し訳なさそうな顔をしていて。


「凛、ごめんな」


と謝った後に、


「全部聞いたよ、真さんから。凛の事を」


と。思わずビックリしちゃうような事をぶっちゃけた。


「え、全部って……」
「凜のご両親が亡くなったことも。真さんが、養子縁組で凛の親になった事も」
「……そっか」


別に隠してたわけじゃない。
ただ、言わなかっただけ。
だって、言っちゃったら……煌人みたいな対応されるでしょ?


「だから煌人は、私を避けてたんだね?」
「ちが、俺は……いや、違わない。うん、ごめん」
「いいよ……誰だってビックリするもんね。親いなかったら、何て声を掛けていいか分からなくなるよね」
「……」
「……」


キュッと、椅子の上に乗せた手のひらの指を、ゆっくりと丸める。

この場の重たい空気を、今、この手のひらの中に閉じ込めることが出来たら――

なんて。そんな無謀な事を思った。


だけど、こんな中、煌人は口を開いた。

何を言うんだろうって、そればかりが気になった。


「俺は、さ」
「うん……」
「俺はさ、凛が好きだ」
「……え?」


何を言われるかと思ったら、そんなこと?

予想外過ぎて、椅子に乗せていた手が、ズリッと落ちる。


だけど煌人は、すごく真剣な顔だった。
真剣な顔で、まだ、何かを言いたそうな。
そんな風に、口角がピクピクと動いている。


「……遠慮しないで、続けて?」
「うん。俺さ……親が苦手なんだ。過干渉っていうだろうけど。何でもかんでも指図されるのが、とにかく嫌で。鳳条の跡取りになるから、俺のプライベートに首を突っ込まないでくれって、何度もそう思ったよ」
「だから、いつも鳳条の事を嫌ってたの?」
「そう。嫌いだ。
……いや、嫌いだった」
「?」


煌人は、地面を見つめていた視線を、クイッと上げた。

私たちの目の前には、今にも沈んでしまいそうな夕日。地平線に吸い込まれていく、真っ只中。それでも尚、夕日はオレンジ色の眩しい光を、私たちに浴びせている。


「……綺麗だな」
「うん……そうだね」


最後の最後まで、オレンジの光を私たちに届けた夕日は、ついに沈みきった。

そして、次第に――夜が訪れる。


「今まで、対立し合う事を避けていたんだ。親に何か異見すると面倒でさ」
「そうなんだ」
「でも……逃げるのは、もうやめる。俺は両親と向き合うよ。
言いたいことを、この口で伝えないと……きっと何も伝わらない」
「……っ」


その言葉は、私に深く刺さった。

そして頭の中に浮かぶ、お父さんお母さん、そして――今のお父さん。


「……その通りだね」


それだけ返すのが精いっぱいだった私。

だけど煌人は、そんな私を知ってか知らずか「だからさ凛」と。私の方を向いた。


「お前もさ、向き合ってみたら?真さんと」
「……え?」
「真さんが教えてくれた。この駅から少し歩いた所に、凛のご両親は眠ってるって」
「そうなんだ……」


じゃあ、私がここに来てるのも……お父さんは知ってるんだね。

そう思うと、胸がズキンと痛んだ。


「凜、今だけ俺に吐き出して見ろよ」
「え……」
「真さんに直接言う前にさ。ホラ、予行演習だよ」
「な、何を言えばいいの?」


煌人だけで、勝手に話を進められても困る!

これから私がどうすればいいか、きちんと説明してよ、煌人!


「私、お父さんには全部を話してるつもりだし、これ以上は何もいう事は、」


焦って、切羽詰まって、口を開いた時だった。

煌人は私の口を指して「それ」と。

何かを決定づける。
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