25 / 40
君に揺れる3
しおりを挟む「真さんに全部を話さねーといけないの?いくら親子だからって、話したくない事、話したい事、分かれてるだろ?」
「……あ」
「凛は、あの時もそうだったよな」
それは煌人とお父さんが、初めて学校で会った日の事。
――凛、お友達にまだ言ってなかったの?
――!
お父さんは20歳の時に養子縁組をして親になってくれた――と。
誰にも言ってなくて。
誰にも言ってない事を、お父さんに知られてしまって。
あの時の私は「しまった」と思ってしまった。
「お父さんの事を、皆に知られたくない……とかじゃないの。絶対に」
「知ってるよ」
「ただ、言う機会がなくて……」
「まあ言ったら言ったで、俺みたいにあからさまな態度をとるヤツもいるしな」
「うん、本当に」
煌人が「ごめんな」という顔をしたから、思わず笑ってしまう。
「いいよ。そこでまた大人な対応をされたら、煌人の事もっと嫌いになってたろうし」
「ほんと、いつも容赦ねーな」
「そう……私はいつも容赦なく”悪い”んだよ。私だけが、ね」
足をあげて、椅子の上で体育座りをする。
自分の膝の間に顔を埋めて。
「誰にも言わないで」と前置きをした。
「お父さんの事を皆に話してないって本人に知られて、どうしようって焦った。
今日、ここに来たのも……間違いだったって。今更ながら、気づいて、焦ってる。
お父さんお母さんのお墓に来るんじゃなくて、お父さんに私の悩みを徹底的に聞いてもらえばよかったのに……。
上辺だけで返事をして。まるで私の事を深く知られないように、予防線を張って……。
そんな意味のない悩み相談をしておいて……。
結局、最後に頼るのは両親って……」
これじゃあお父さんに呆れられるよね。いつか、絶対――
「バカだなぁ、私……。こんな時にまで”お父さんに全部頼らない”って、変なプライドを持っちゃって……」
「……」
「この前、煌人に……”自分のしたい事や言いたい事は、ちゃんと口に出して”って、偉そうに言ったばかりなのに」
結局、全然変われてなかったのは……私の方だった。
私は何も、変わってない。
両親がいなくなった日から、お父さんと距離を縮めているようで縮められていないかも、と。
そう思うと無性に虚しくなって、悲しくなって。涙が出た。
「う……っ」
「……誰にも言わねーよ」
「……煌人」
泣いてる私をさすがにおちょくらなかった煌人は、そんな事を言った。
「うん……今の私を秘密にしてもらえると、助かる」
だけど、私の思っている事と煌人の思っている事は違うようで。
煌人は「まずはお前が変わる番だな」と、私の頭を撫でた。
「変わる?」
「だから、お前の口から、直接――真さんに言え」
「……へ?」
「さっきの事、全部」
「!?」
な、なに言ってんの!?
コイツ、何言ってんの!?
「私とお父さんが、繊細な関係だって知ってるよね!?」
「だから何だよ」
「なんだよ、って……」
煌人は私の頬に、手をやった。
私が膝の間から、一瞬だけ顔を上げた、その隙に。
「繊細なもんはな、叩けば叩くほど硬くなってくんだよ。壊れにくくなんの」
「は?何言って、」
「刀みたいなもんだよ。刀の刃って、完成するまでに何回叩かれると思ってんだよ。そんで、どれだけ強くなると思う?」
「……」
確かに。いつかテレビで見た事ある。
刀の刃を一生懸命叩く職人さん。
刃はトンカチで何度も叩かれ、そして火にあてられ。
そして――薄いけれど、折れにくい。頑丈な刃になるんだ。
「その刃みたいにさ、何回でも叩いてぶつかればいんだよ。そしたら嫌でも次第に強くなっていくって。お前と真さんの絆もさ」
「煌人……」
「でもお前、まだ一回も叩いてないだろ?
ひび割れる事を恐れちゃ、何も変わらねーぞ」
「っ!」
煌人の言う通りだ。
お父さんは、20歳の時から私を育ててくれた。
私の傍にいたいからって。
だけど、その決断は並大抵のものじゃないって……私も分かってる。
「真さんの決死の覚悟をさ、お前が叩き壊しにいってどうすんの。
まずはぶつかれよ、本当の親子みたいにさ」
「~っ!」
涙が溢れた。
そうだ。私は、お父さんの子供になって、七年間もの間……。ずっと、お父さんの覚悟を無駄にしてきたんだ。ぶつかり合わずに、避けてきて……表面上だけ仲良くして。
「うっ……、ごめ……っ」
今まで、どんな思いで私の相談に乗ってくれたんだろう。
今まで、どんな思いでお弁当を作ってくれたんだろう。
今まで、どんな思いで上辺だけの笑顔な私を、黙って見ててくれたんだろう。
「(お父さん、ごめん……。そして、ありがとう……っ)」
胸が締め付けられるような気持ちと、心が温かくなる気持ち。
複雑な感情に涙が止まらないでいると……煌人が、あっけらかんとした声で言った。
「ま、俺も同じだって。お互い反抗期みたいなもんだよな~。だから血の繋がりなんて関係ないない。俺だって、ずっと両親が嫌いだもん。けど、まー。サクッと謝っとくか~」
「……」
一気に感動が薄れていく気がした。
「そういや、煌人も”ずっとぶつかり合うのを避けて来た”って、」
「……うん。だから、これからぶつかるんだ。
さっき言ったろ?」
「え?」
――でも……逃げるのは、もうやめる。俺は両親と向き合うよ
――お前もさ、向き合ってみたら?真さんと
「俺は……凛と一緒なら頑張れるって、そう思ってるんだぞ」
「煌人……」
「反抗期を終わろうか。お互いに」
「……うん」
煌人が私の涙をぬぐい、私も、不器用に笑みを浮かべる。
「……ぷっ、変な顔」
「煌人こそ」
「俺はいつだってカッコいいだろ」
「はいはい」
体を動かすと、ガサッと音がする。
私の隣に置いてある花束に、目を向けた。
「これ……お父さんとお母さんのお墓に?」
「……」
無言だったから「え?」と思って煌人を見ると、予想が外れているのか。煌人は口笛を吹きながら、花束を取った。
そして「これは、凜が使う分」と、ぶっきらぼうに私に渡す。
「わ、私が使う?」
「そう。真さんに”いつもありがとう”って言って、花でも渡しとけ。そうしたら泣いて喜ぶぞ、真さん」
「よ、喜ぶかなぁ……」
あのお父さんが?と不安に思っている私。
煌人は、そんな私の肩を叩いて「力抜け」と言った。
「もし真さんが凜を見放したら、俺がいつでも貰ってやるから」
「はあ!?」
もう、何言ってんの!こんな大事な話をしてる時に――と言うと。
煌人は真剣な目つきで、私の目の前に来て、片膝を立てて座った。
「こっちも大事な話をしてんだぞ」
「あ、煌人……?」
すると煌人は一度静かに目を閉じて、再び、瞼をゆっくり開ける。
そして真剣な、今まで見たことない目つきで……私を捕らえた。
「凛……今まで避けてごめん。もう寂しい思いはさせない。ずっとそばにいる」
「煌人…」
「どんな時でも、凛は俺が守る。
凜が俺のプロポーズを受け入れてくれた時に、お前のご両親に挨拶をしようって……そう思ってる」
「っ!」
だから今はオアズケなんだ――と、煌人は笑った。
その顔には、もう一切のためらなんてなくて……。
ドキン、と。
煌人の男らしい表情に、思わず胸がときめいた。
「ん?凛お前なんか顔が、」
「わー!こっちに来ないで近寄らないで!」
「ひでぇ!」
「(し、心臓が……荒ぶってる!)」
もう夕日は沈んだというのに。
私の顔は、真っ赤に染まったままだった。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜
yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。
『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』────
小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。
凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。
そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。
そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。
ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。
言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い──
凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚!
見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。
彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり……
凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!
王さまとなぞの手紙
村崎けい子
児童書・童話
ある国の王さまのもとに、なぞの手紙が とどきました。
そこに書かれていた もんだいを かいけつしようと、王さまは、三人の大臣(だいじん)たちに それぞれ うえ木ばちをわたすことにしました。
「にじ色の花をさかせてほしい」と――
*本作は、ミステリー風の童話です。本文及び上記紹介文中の漢字は、主に小学二年生までに学習するもののみを使用しています(それ以外は初出の際に振り仮名付)。子どもに読みやすく、大人にも読み辛くならないよう、心がけたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる