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ギャップ
6.
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「センセーがここを辞める時は、私も一緒に辞めるよ」
「……」
「ね」
お互いの視線がぶつかり合う。
センセーの瞳からは、僅かな怒気が見え隠れしていた。
「あなたの場合、本気で思っていそうで怖いですね」
「へ?」
「何でもないです――ほら、もう大丈夫でしょう?行きますよ」
「行きますって、」
どこに?
すると縁センセーはポケットから車の鍵を取り出す。
「送ってさしあげます。あなたの体調不良の引き金を引いたのは、私ですから」
「……そりゃ、どうも」
縁センセーは面白い。一緒にいるともっと話したくなる。
だけど、縁センセーだけには知られている。
私がどんな人間で、心の中が、どれだけ荒れているかという事を。
きっと縁センセーだけは、分かっているんだ――
「センセー」
「はい」
「もっと離れて歩いてくれよな」
これ以上に私の心が見透かされないようにと、虚勢を張るために伝えた言葉。
だけど、
「この学校の廊下が広くない事は、鶫下さんも知っているでしょう?
広い廊下のある学校に編入したいなら勉強に付き合いますよ――もちろん古典のみで」
「……ぷっ、なんだそりゃ」
閑話休題。
このセンセー、やっぱおもしれぇや。
◇
「じゃあ動きますよ。シートベルトは大丈夫ですか?」
「あいあいさー」
黒の大きい車に乗り込む。
運転席にセンセー、センセーの斜め後ろに私。
おお、センセーの頭頂部が微妙に見える。
そしていつも私が気にしている耳の後ろのホクロも見えた。
「先生のホクロって面白いよな」
「ホクロの形がおかしいと、悪い病気らしいですよ」
「いや、羅列がツボ」
「羅列……?」
少し首を傾げただけに終わった先生は、無言でアクセルを踏み込んだ。
縁センセーらしい、緩やかなスピードで出発する。
「私、伏せてた方がいい?」
「一応学校に許可をもらい、お家にも連絡を入れているのですが……そうですね。妙な噂をされるのも面倒なので、伏せてもらっていいですか」
「(いま面倒って言ったな……)」
不服に思いながらも、外から見られないように車の窓枠の下まで身をかがめる。
小さい頃は余裕でできていたのに、高校生になった今じゃちょっとキツイ。
「センセーが人気者じゃなくて良かった。きっと皆、気づかず素通りしてくれるな」
「ここであなたを降ろしてもいいんですよ?」
校門を出てしばらくしたので、体を起こす。
するとミラー越しに、センセーと視線がぶつかった。
ドキッ
いつも辞書を片手に持っている先生が、今日はハンドルを持っている。
しっかりと、両手で……。
「ぷっ」
「何ですか」
「いや、カッコいいーなーって、そう思っただけ」
「……大人をからかうもんじゃありませんよ」
両手でしっかりハンドルを握り、私の負担にならないようにゆっくりブレーキを踏んでくれ、ゆっくりアクセルを踏んでくれる。
縁センセーの車の乗り心地は、とっても気持ちい。
「センセー、また私を車に乗せてくれよなー」
「イヤですよ、またあなたの汚物をかぶれって言うんですか」
「何回汚物ってゆーんだよ。これでも一応女子だからな」
フンッとふんぞり返っていうと、センセーはまたミラー越しに私を見た。
そして――
「……」
「ね」
お互いの視線がぶつかり合う。
センセーの瞳からは、僅かな怒気が見え隠れしていた。
「あなたの場合、本気で思っていそうで怖いですね」
「へ?」
「何でもないです――ほら、もう大丈夫でしょう?行きますよ」
「行きますって、」
どこに?
すると縁センセーはポケットから車の鍵を取り出す。
「送ってさしあげます。あなたの体調不良の引き金を引いたのは、私ですから」
「……そりゃ、どうも」
縁センセーは面白い。一緒にいるともっと話したくなる。
だけど、縁センセーだけには知られている。
私がどんな人間で、心の中が、どれだけ荒れているかという事を。
きっと縁センセーだけは、分かっているんだ――
「センセー」
「はい」
「もっと離れて歩いてくれよな」
これ以上に私の心が見透かされないようにと、虚勢を張るために伝えた言葉。
だけど、
「この学校の廊下が広くない事は、鶫下さんも知っているでしょう?
広い廊下のある学校に編入したいなら勉強に付き合いますよ――もちろん古典のみで」
「……ぷっ、なんだそりゃ」
閑話休題。
このセンセー、やっぱおもしれぇや。
◇
「じゃあ動きますよ。シートベルトは大丈夫ですか?」
「あいあいさー」
黒の大きい車に乗り込む。
運転席にセンセー、センセーの斜め後ろに私。
おお、センセーの頭頂部が微妙に見える。
そしていつも私が気にしている耳の後ろのホクロも見えた。
「先生のホクロって面白いよな」
「ホクロの形がおかしいと、悪い病気らしいですよ」
「いや、羅列がツボ」
「羅列……?」
少し首を傾げただけに終わった先生は、無言でアクセルを踏み込んだ。
縁センセーらしい、緩やかなスピードで出発する。
「私、伏せてた方がいい?」
「一応学校に許可をもらい、お家にも連絡を入れているのですが……そうですね。妙な噂をされるのも面倒なので、伏せてもらっていいですか」
「(いま面倒って言ったな……)」
不服に思いながらも、外から見られないように車の窓枠の下まで身をかがめる。
小さい頃は余裕でできていたのに、高校生になった今じゃちょっとキツイ。
「センセーが人気者じゃなくて良かった。きっと皆、気づかず素通りしてくれるな」
「ここであなたを降ろしてもいいんですよ?」
校門を出てしばらくしたので、体を起こす。
するとミラー越しに、センセーと視線がぶつかった。
ドキッ
いつも辞書を片手に持っている先生が、今日はハンドルを持っている。
しっかりと、両手で……。
「ぷっ」
「何ですか」
「いや、カッコいいーなーって、そう思っただけ」
「……大人をからかうもんじゃありませんよ」
両手でしっかりハンドルを握り、私の負担にならないようにゆっくりブレーキを踏んでくれ、ゆっくりアクセルを踏んでくれる。
縁センセーの車の乗り心地は、とっても気持ちい。
「センセー、また私を車に乗せてくれよなー」
「イヤですよ、またあなたの汚物をかぶれって言うんですか」
「何回汚物ってゆーんだよ。これでも一応女子だからな」
フンッとふんぞり返っていうと、センセーはまたミラー越しに私を見た。
そして――
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