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さぁ授業を始めます*縁*

3.

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 だけど――

「あなた、グッジョブですね……」
「ぐ?よぶ?」

「最高ですって意味です」

 心配事は杞憂だったようで、女の子が穂乃果を掴んでくれたおかげで、その場に一瞬の隙が出来たらしい。鶫下さんと大樹くんは、無事に家から出ていた。

 よかった……。
 鶫下さん、やっとあの家から、母親から、開放されたんですね……。

「はぁ~……良かった……」

 その場にヘナヘナと座る俺を見て、女の子が頭をコテンと横に倒す。

「だいじょーぶ?」
「はい……ありがとうございました。あなたのおかげですよ」

「へへー!」

 訳のわかってないだろう女の子は、心から満足したらしい。
 俺の手をギュッと握りしめて、繋がった俺らの手をブンブンと振り回した。
 見ると、鏡の姿はもう消えていて……あっちの世界にもう心配事は無いですよと、そう言われた気がした。

「(良かった……本当に)」

 肩の力が抜ける。そして、すごく幸せな気分になった。

「(一時はどうなる事かと思ったけど、この子のおかげだな)」

 今回の立役者の女の子の顔を見て、思わず笑みが零れる。
「わらった!」と瞬時に見破られ、何だか照れくさくなったので「では行きますか」と話を変えた。

「どこに?」
「さっきお話したでしょう?生まれ変わって旅行をすると。
 でも生まれ変わるためには、申請書を出さないといけないみたいですよ」

「なんでしってるの?センセーだから?」
「いえいえ、これに書いてありました」

 いつの間にか私が持っていた、分厚い本。
 その本のタイトルは、「幽霊条例」と書かれていた。

 俺と女の子は手を繋いだ手に力を込める。
 そして、決して離すことなく、前へと歩き出した。

「そう言えば、お名前はなんて言うのですか?」
「あたし?あたしの名前は――だよ!」

「そうですか。では、――、行きますよ。
 あ、でも、私のお墓の前を通ってもいいですか?」

「なんでー?」
「ふふ。そこに私の好きな物が置いてある、そんな気がするんですよ」



*縁*

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