海に漂う亡霊

一宮 沙耶

文字の大きさ
上 下
2 / 7

2話 上海

しおりを挟む
 そういえば、会社に入った後、上海のホテルでも、そんな経験があった。上海の中心地にある人民公園近くの由緒あるホテル、そして蒋介石の結婚式も行われたというぐらい古いホテルでのことだった。

 勤めていたのはブラックな会社だから、朝からの移動は認めてもらえず、東京で仕事をしてから上海に来たの。だから、ホテルに到着したのは夜11時半を過ぎていた。

 ピシッ

 私が泊まる部屋のドアを開けると、突然、何かのラップ音のような音と、強い威圧感を感じた。殺気で空気が凍りつき、夏なのに鳥肌がたったわ。


 でも、部屋はごく普通のインテリアだったし、疲れてるから気のせいかもしれないと自分を落ち着かせたの。こんな理由で部屋の変更をしてもらうわけにもいかないし。

 綺麗なシーツとふかふかのベットは気持ちがいい。シャワーを浴び、ベットに横になると、疲れていたこともあり、いきなり眠気に襲われ、眠りについた。

 プルプルプル、プルプルプル

 夜中の1時すぎに電話がなった。何があったのかしら。電話にでると、私がエマージェンシーコールを鳴らしたので確認したと言っている。寝ていて、そんなことはないのに。


 何かホテルのミスなのだと思う。本当に迷惑。でも、明日のこともあるので、気にせずに、そのまま眠ることにした。

 次の朝、部屋の空気は爽やかで、昨晩の緊張感は全くない。少し寝坊したので、メークをしているうちに昨晩のことは忘れていた。


 夕食会に誘われ、ホテルに戻った時間は、今夜もすでに遅かった。ただ、お酒のせいか目が覚めてしまい、少しお風呂にでも入ってリラックスすれば眠れるかもと思ってバスタブでお湯に浸かっていたの。

 その時、また電話がなった。ホテルは、また私がエマージェンシーコールを鳴らしたと言っている。時間を見ると、昨晩と同じ1時すぎ。

 多分、システムとかの故障か何かね。本当に迷惑。もう電話なんてかけていないでって返事して電話を切った。このホテル、なんなのかしら。これじゃ、寝不足になっちゃう。


 不満いっぱいだったけど、疲れていたせいもあり、ベットに入った途端、いきなり眠りに落ちてしまった。その直後、夢で、私は、この辺りの道路に立っていた。

 キャー

 周りはざわざわとして、悲鳴が聞こえ、人が轢かれたという声が聞こえた。

 その時だったの。大きなカラスの羽根のようなものが覆いかぶさってきて、周りが真っ黒になった。そして、息ができなくなった。

 殺される、もうだめと思ったとき、私は、汗だくで目覚めた。この辺で、なにか不幸な事故があったのかしら。

 私は、亡くなった方のご冥福を祈った。でも、こんなことばかりだと、私の心はぼろぼろになってしまう。
しおりを挟む

処理中です...