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5話 好きだった人との再会
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私は、仕事ばかりの日々を過ごしていた。
ふと、携帯を見た時に、昔SNSをやっていたことを思い出す。
あの時のアカウントで入ると、昔、やりとりしていたコメントやDMが見えた。
とても懐かしい。
「そうだ。凛に今なら会いにいける。どうしているかな。」
凛にDMを送った。
「凛さん。かなりご無沙汰していますが、お元気ですか? 僕は事故にあって、しばらく治療していたので、SNSとかDMは中断していました。でも、少し前に復帰し、凛さんのこと気になってDMを送ってみました。もし、まだ話せるようでしたら、返事をください。」
そうすると、すぐに返事がきた。
「お久しぶりです。急に返事が来なくなって心配していたんですよ。事故だったんですね。大丈夫でしたか、というより、今は復帰したんですね。本当に、よかったです。私は、大学を卒業し、社会人1年目で仕事をしています。またDMください。」
「1年前、学祭に行けなくてすみませんでした。多分、素敵な歌声だったんでしょうね。今は、仕事は落ち着いているから、許してくれるなら、会ってみたいな。」
「本当? 会おう、会おう。今度は必ず来てね。どんな人か楽しみ。」
このようなラリーを続け、凛と会うことになった。
私は、待ち合わせ場所に指定した新宿御苑の入口で待っていた。
すぐに、あの懐かしい顔の凛が走ってきて、声をあげそうになる。
でも、お互い知らない設定なので、気づかないふりをして凛の方にふと目をやった。
「あのう、鮎川ですが、南崎さんですか?」
「あ、鮎川さんですね。南崎です。初めまして。かっこいいじゃないですか。」
「南崎さん、思ってたとおり可愛らしい人ですね。DMでは、いつも凛さんって呼んでたので、凛さんでいいですか。」
「もちろんです。」
「実は、私は、SNSでは実名とは違う「智」って名乗っていたのですが、それは誰が見ているか分からず、絡まれても困るからで、実名は涼といいます。こんなの嫌われちゃいますかね?」
「そんな人も多いから、気にしませんよ。では、こちらも、これから涼さんってお呼びしますね。ところで、誤解がないように言っておきたいんですけど、私は、涼さんのこと信用して、今回、お会いしていますけど、誰でもいいとか、男性をいつも誘っているということはないですよ。」
「もちろん、分かっています。凛さんのこと、そんなふうに思っていないですから、ご安心ください。」
「よかった。では、新宿御苑、実は私、初めてなんですが、早速行ってみましょうよ。私、お花とか、公園の木々とか、大好きなんですよ。」
「楽しみですね。チケット、買ってきますね。」
「ありがとうございます。」
これまで、DMでしか話せなかったので、何時間も公園を歩きながら会話をした。
どんな生活を送ってきたのか、仕事は何をやっているのか。
日頃、どんなことを考えているのかなどについて、何時間も話し続けた。
新宿御苑は、紅葉に包まれている。
こんな風景を見られる日本に生まれてきたことに感謝する。
紅葉の葉が太陽に照らされ、オレンジ色、赤、いろいろな色に輝く。
葉から陽の光も漏れ、暖かさを感じられた。
枯れ葉で落ちる前に、最後の命を輝かしているみたい。
私は、凛と一緒の時間を過ごせて、顔には笑みが満ちていた。
ずっと話し続けている自分がいた。
それを凛は、何も言わずに、ずっと、静かに嬉しそうに見守ってくれていた。
「凛さん、今日は楽しかったです。また、お会いできると嬉しいな。今度は、イタリアンレストランとかどうですか。」
「こちらこそ、あっという間で、本当に楽しかった。イタリアン、いいですね。じゃあ、DMで都合のいい日をお伝えしますね。」
この日を契機に、凛との静かな付き合いは始まった。
1ヶ月経った頃、外苑前を一緒に歩く。
「涼、外苑前の紅葉って、とても素敵ね。映画のワンシーンみたい。」
「本当にそうだね。」
「私、この1ヶ月、涼さんと一緒にいて、とっても大切な人と出会えてよかったと思う。ただ、言いづらいのだけど、私のこと本当に好き?」
「好きだよ。」
「本当かな。涼さんは、キスはもちろんのこと、手も握ってくれないじゃない。最近は、女性に奥手の男性が多いとは聞いているけど、私は手ぐらいは握って欲しい。」
凛は真面目に私を見上げる。
相当の覚悟をもって話している真剣さが伝わる。
そんなことを凛に言わせてしまったことを反省した。
「もしかして、私のことを、妹か何かと思っている?」
「ごめん。悩ませてしまったね。手とか握ったら、嫌われてしまうかもなんて心配して、できなかったんだ。」
私は、鼓動が早くなり、心臓が破裂しそうになりながら凛の手を握った。
凛は、何も言わずに、嬉しそうに下を向き、そのまま歩いた。
心配しすぎて何もしないことは、相手に失礼になることもあることを学んだ。
「やっと、手を握ってくれた。嬉しいな。奥手だと、女性は逃げちゃうぞ。そうだ、これから、私の部屋に来てみない。」
「え、女性の部屋に?」
「私がいいって言っているんだから、いいじゃない。さあ、行こう。」
戸惑っている私の手を引き、凛は自分の部屋に強引に連れて行った。
凛の積極性にはいつも驚かされる。
電車に乗り、目黒駅でおりてしばらく歩くと、凛が住むマンションの着く。
凛はドアを開けて、手を奥に伸ばし、私を引き入れる。
私は、お辞儀をして、用意されたスリッパを履き、部屋に入っていった。
きちんと片付けられていて、清潔感がある。
私を連れてくることを想定していなかったのか、シンクには飲み残したコップがある。
でも、その方が生活感があって、好感度はむしろ上がった。
部屋を見渡すと、物はほとんどない。ミニマリストなんだと思う。
仕事はほぼリモートで運動不足になるから、毎朝ランニングをしていると言っていた。
だから、走りこんだシューズが玄関に置かれている。
凛はパスタをゆで始め、レトルトのソースをかける。
料理も手際よくできるのは立派。
冷蔵庫から白ワインを出してきて乾杯をした。
私も、サラダとか用意をする。
それを見て、凛は、私と、一緒に暮らせるイメージができたと喜んでいた。
家事とか何もできなかったら、どうしようかと思っていたと笑っている。
凛は、昔もそうだったけど、お酒が入ると口が滑らかになる。
私のことが、ずっと好きだったと話している。
そんな凛を、私は、何も話さずに、ずっと優しく見つめていた。
こうして、私は、週に1回ぐらい凛の部屋に行き、一緒に過ごしていた。
一緒に買い物に出かけたり、料理を一緒に作ったりするのは本当に楽しい。
これまで真っ暗な部屋に帰っていたのに、帰ると暖かい光が部屋に灯っている。
ペアのグラスとか、タオルとかを買ってそろえる。
歯磨きのカップとか、お箸とか、私の物が凛の部屋に増えていく。
もう、この部屋は私の存在で溢れていると笑みが漏れる。
若い夫婦みたい。
女性と一緒に暮らしているって、本当に暖かい気持ちになれる。
私が作ったビーフシチューを凛が美味しいと食べてくれる。
凛がワインを開け、私のグラスに注いで乾杯をする。
凛の部屋に行く日は、会社が終わるのが待ち遠しい。
午後になると、いつになったら17時半になるのか時計ばかりを気にしていた。
同僚から、彼女ができたんだろうとからかわれる。
両親も、最近、楽しそうだねと声をかけてくれる。
恋愛をしているのがばれているのかしら。
あの事故で諦めた、私の恋愛、孫との生活を楽しみにしているのかもしれない。
でも、ある日、凛の部屋のドアを開けたときに、驚きのあまり時間が止まった。
ふと、携帯を見た時に、昔SNSをやっていたことを思い出す。
あの時のアカウントで入ると、昔、やりとりしていたコメントやDMが見えた。
とても懐かしい。
「そうだ。凛に今なら会いにいける。どうしているかな。」
凛にDMを送った。
「凛さん。かなりご無沙汰していますが、お元気ですか? 僕は事故にあって、しばらく治療していたので、SNSとかDMは中断していました。でも、少し前に復帰し、凛さんのこと気になってDMを送ってみました。もし、まだ話せるようでしたら、返事をください。」
そうすると、すぐに返事がきた。
「お久しぶりです。急に返事が来なくなって心配していたんですよ。事故だったんですね。大丈夫でしたか、というより、今は復帰したんですね。本当に、よかったです。私は、大学を卒業し、社会人1年目で仕事をしています。またDMください。」
「1年前、学祭に行けなくてすみませんでした。多分、素敵な歌声だったんでしょうね。今は、仕事は落ち着いているから、許してくれるなら、会ってみたいな。」
「本当? 会おう、会おう。今度は必ず来てね。どんな人か楽しみ。」
このようなラリーを続け、凛と会うことになった。
私は、待ち合わせ場所に指定した新宿御苑の入口で待っていた。
すぐに、あの懐かしい顔の凛が走ってきて、声をあげそうになる。
でも、お互い知らない設定なので、気づかないふりをして凛の方にふと目をやった。
「あのう、鮎川ですが、南崎さんですか?」
「あ、鮎川さんですね。南崎です。初めまして。かっこいいじゃないですか。」
「南崎さん、思ってたとおり可愛らしい人ですね。DMでは、いつも凛さんって呼んでたので、凛さんでいいですか。」
「もちろんです。」
「実は、私は、SNSでは実名とは違う「智」って名乗っていたのですが、それは誰が見ているか分からず、絡まれても困るからで、実名は涼といいます。こんなの嫌われちゃいますかね?」
「そんな人も多いから、気にしませんよ。では、こちらも、これから涼さんってお呼びしますね。ところで、誤解がないように言っておきたいんですけど、私は、涼さんのこと信用して、今回、お会いしていますけど、誰でもいいとか、男性をいつも誘っているということはないですよ。」
「もちろん、分かっています。凛さんのこと、そんなふうに思っていないですから、ご安心ください。」
「よかった。では、新宿御苑、実は私、初めてなんですが、早速行ってみましょうよ。私、お花とか、公園の木々とか、大好きなんですよ。」
「楽しみですね。チケット、買ってきますね。」
「ありがとうございます。」
これまで、DMでしか話せなかったので、何時間も公園を歩きながら会話をした。
どんな生活を送ってきたのか、仕事は何をやっているのか。
日頃、どんなことを考えているのかなどについて、何時間も話し続けた。
新宿御苑は、紅葉に包まれている。
こんな風景を見られる日本に生まれてきたことに感謝する。
紅葉の葉が太陽に照らされ、オレンジ色、赤、いろいろな色に輝く。
葉から陽の光も漏れ、暖かさを感じられた。
枯れ葉で落ちる前に、最後の命を輝かしているみたい。
私は、凛と一緒の時間を過ごせて、顔には笑みが満ちていた。
ずっと話し続けている自分がいた。
それを凛は、何も言わずに、ずっと、静かに嬉しそうに見守ってくれていた。
「凛さん、今日は楽しかったです。また、お会いできると嬉しいな。今度は、イタリアンレストランとかどうですか。」
「こちらこそ、あっという間で、本当に楽しかった。イタリアン、いいですね。じゃあ、DMで都合のいい日をお伝えしますね。」
この日を契機に、凛との静かな付き合いは始まった。
1ヶ月経った頃、外苑前を一緒に歩く。
「涼、外苑前の紅葉って、とても素敵ね。映画のワンシーンみたい。」
「本当にそうだね。」
「私、この1ヶ月、涼さんと一緒にいて、とっても大切な人と出会えてよかったと思う。ただ、言いづらいのだけど、私のこと本当に好き?」
「好きだよ。」
「本当かな。涼さんは、キスはもちろんのこと、手も握ってくれないじゃない。最近は、女性に奥手の男性が多いとは聞いているけど、私は手ぐらいは握って欲しい。」
凛は真面目に私を見上げる。
相当の覚悟をもって話している真剣さが伝わる。
そんなことを凛に言わせてしまったことを反省した。
「もしかして、私のことを、妹か何かと思っている?」
「ごめん。悩ませてしまったね。手とか握ったら、嫌われてしまうかもなんて心配して、できなかったんだ。」
私は、鼓動が早くなり、心臓が破裂しそうになりながら凛の手を握った。
凛は、何も言わずに、嬉しそうに下を向き、そのまま歩いた。
心配しすぎて何もしないことは、相手に失礼になることもあることを学んだ。
「やっと、手を握ってくれた。嬉しいな。奥手だと、女性は逃げちゃうぞ。そうだ、これから、私の部屋に来てみない。」
「え、女性の部屋に?」
「私がいいって言っているんだから、いいじゃない。さあ、行こう。」
戸惑っている私の手を引き、凛は自分の部屋に強引に連れて行った。
凛の積極性にはいつも驚かされる。
電車に乗り、目黒駅でおりてしばらく歩くと、凛が住むマンションの着く。
凛はドアを開けて、手を奥に伸ばし、私を引き入れる。
私は、お辞儀をして、用意されたスリッパを履き、部屋に入っていった。
きちんと片付けられていて、清潔感がある。
私を連れてくることを想定していなかったのか、シンクには飲み残したコップがある。
でも、その方が生活感があって、好感度はむしろ上がった。
部屋を見渡すと、物はほとんどない。ミニマリストなんだと思う。
仕事はほぼリモートで運動不足になるから、毎朝ランニングをしていると言っていた。
だから、走りこんだシューズが玄関に置かれている。
凛はパスタをゆで始め、レトルトのソースをかける。
料理も手際よくできるのは立派。
冷蔵庫から白ワインを出してきて乾杯をした。
私も、サラダとか用意をする。
それを見て、凛は、私と、一緒に暮らせるイメージができたと喜んでいた。
家事とか何もできなかったら、どうしようかと思っていたと笑っている。
凛は、昔もそうだったけど、お酒が入ると口が滑らかになる。
私のことが、ずっと好きだったと話している。
そんな凛を、私は、何も話さずに、ずっと優しく見つめていた。
こうして、私は、週に1回ぐらい凛の部屋に行き、一緒に過ごしていた。
一緒に買い物に出かけたり、料理を一緒に作ったりするのは本当に楽しい。
これまで真っ暗な部屋に帰っていたのに、帰ると暖かい光が部屋に灯っている。
ペアのグラスとか、タオルとかを買ってそろえる。
歯磨きのカップとか、お箸とか、私の物が凛の部屋に増えていく。
もう、この部屋は私の存在で溢れていると笑みが漏れる。
若い夫婦みたい。
女性と一緒に暮らしているって、本当に暖かい気持ちになれる。
私が作ったビーフシチューを凛が美味しいと食べてくれる。
凛がワインを開け、私のグラスに注いで乾杯をする。
凛の部屋に行く日は、会社が終わるのが待ち遠しい。
午後になると、いつになったら17時半になるのか時計ばかりを気にしていた。
同僚から、彼女ができたんだろうとからかわれる。
両親も、最近、楽しそうだねと声をかけてくれる。
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