溺愛パパは勇者！〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜

第1章

No.3 違うんです

そんな記憶をたった今、思い出した。

「…え？」

手に持っていた花が滑り落ち足元に落ちる。

（…え？あれ？私…）

突然の事で頭が混乱してその場に立ち尽くす。すると、背後から私を呼ぶ声が聞こえた。

「お～い！ティア、そろそろお昼だから戻っておいで～！」

振り向くと其処にはとてもカッコいい5年間見慣れた姿の男性が1人、此方に手を振っていた。銀の髪が光を反射しキラキラと輝いていて、緑の瞳は深い森を思わせる。

「パパ…」
「テーブルに飾る花は取れたのか？…ん？落としちゃったのか。お昼ご飯を食べたらパパと一緒に取りに行こうな」

そう言って片手で私を抱き上げる。

「今日は朝から咳が出てないな。体調が良くてもはしゃぎ過ぎはダメだぞ？」
「うん」
「パパ、今日は王様に呼ばれてるんだ。花を摘んだら一緒にお城に行こうな。美味しいお菓子が食べれるぞ～」

パパが私に優しく話しかけるが、私はパパの顔をジッと見ていた。

ーー目の前の私のパパは、俗に言う『勇者』だ。

この世界には魔物や魔王など所謂、魔族がいる。
そんな魔族達から人々を守り魔王を倒すことの出来る存在………それが勇者だ。
勇者は、とても強い身体の持ち主で病気にもならないし怪我もあっという間に治る。世界に1人しかいない特別な存在だ。
今代の勇者の名はギルバート＝ムーンライド。
若干、18歳にして勇者となった人物だ。そして私、ティア＝ムーンライドの父親だ。

（確かに強い身体の子供に生まれたいって思ったよ）

でも、意味が違う。
強い身体の持ち主の子供じゃなくて、強い身体の子供になりたかったんです。

「………ちがうんです」
「ん？どうしたんだ？」

私の理想の身体を持つパパにギュと抱き付いて、涙を流したのは仕方ないと思う。