極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました!

ハルン

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5 アランside

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「ほら、これがサーシャが飲みたいって言ってた緑茶みどりちゃだよ」
「わぁっ!ありがとう、お父様!」

父が差し出した独特の匂いのする緑色の飲み物を、サーシャは嬉しそうに受け取る。香りを堪能してから、一口飲む。

「ーーはぁ。美味しい。……ほぼ、緑茶りょくちゃだ」

緑茶りょくちゃ….?)

何の事だかよく分からないが、サーシャが嬉しそうなので良しとしよう。


ーー俺の妹は、可愛い。世界一可愛い。


艶のある黒い髪に、煌めく青い瞳。
赤ん坊の頃から、その美貌は一際輝いていた。妹は、地上に舞い降りた天使だと俺達家族は確信している。

我がアベルシュタイン家は、建国当時から王族に害を成すモノを消し去る暗部の役割を担って来た。その事実を知るのは、代々王位を継ぐ者と国の一握りの上層部の者だけだ。

彼等は、我がアベルシュタイン家を『王家の番犬』と呼ぶ。

そんな家に生まれた俺は、アベルシュタイン家の次期当主になる事が決められていた。ーーそれはつまり、暗部のトップである『王家の番犬』の地位も受け継ぐと言う事だ。その為、俺は小さな頃から特殊な戦闘訓練を受けている。

人の何処をどうすれば行動を制限出来るか。
何処が一番痛みを感じるか。
どうすれば欲しい情報を引き出せるか。


ーーそして、どの程度で人が死ぬのか。


普通の子供なら、嫌だと思うのだろう。だが、それはそうだ。人を痛めつける方法、殺す方法を幼い頃から教え込まれるのだ。普通なら、精神的に耐えられないだろう。

だが、俺は違った。

身体の中に流れる、アベルシュタインの血のせいだろうか。俺は、人をどんなに痛めつけても血を流しても、何とも思わない。未だ人は殺した事はないが、俺は恐らく人を殺しても何とも思わないだろう。

アベルシュタイン家直系の血を引く当主である父は、当然の様に血に染まっている。ーーその妻である母も。母は、父の元に嫁いだ時言ったらしい。

『私は、「王家の番犬」であるアベルシュタイン家に嫁ぎました。ーーならば、私はこの家を守りましょう。貴方は王家を、私は家を。それが、私が貴方の元に嫁ぐ覚悟です』

アベルシュタイン家は、王家に害を成すモノを始末して来た。その為、我が家には少なからず敵が居る。

母が俺を妊娠している時期に、お茶会の帰りに母の乗った馬車が襲われた事があるらしい。父が護衛を連れて駆け付けた時に見たモノは、全身に血を浴びながら剣を握り締める母と、息絶えた襲撃者数名の姿だったらしい。

『言ったでしょう?私は、アベルシュタイン家を守ると。次期当主であるこの子を守る為なら、私は剣を取り人を殺す事だって厭いません』

その話を聞いて、母はアベルシュタインに来るべくして嫁いで来たのだと思ったものだ。

そんな血塗られた侯爵家に生まれた、サーシャ天使。可愛らしい妹を見た時、オレは強く心に誓った。

ーーこの子の手は、絶対に血に染めさせたりなんかしない。

それは、俺だけで無く両親も思った事だった。可愛い、可愛い我が家の天使。この子には、綺麗な世界で生きて欲しいと強く思った。


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