極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました！

22

会場に戻ると、直ぐに父親達が自身の娘の元へとやって来る。

「サーシャ、お帰り」
「ただいま、お父様」

ダリルは、髪が乱れない程度にサーシャの頭を撫でる。その横では、ティミアも同じ様に頭を撫でられていた。

「ティミア、体調はもう大丈夫なのか？」
「はい、お父様」

厳ついジルロと小動物の様に可愛らしいティミア。見れば見るほど、似ていない。似ているのは、本当に髪や目の色だけだ。

「ジルロ、そろそろ殿下の紹介が始まるぞ。ジルロは、この国の宰相なんだからもっと近くに居ないといけないだろ？」
「そうだな。すまないが、紹介の間ティミアを見ていてくれないか？」
「勿論だよ。娘の大切な友達だからね」

そう言って、ダリルは腰を折ってティミアに視線を合わせる。

「私は、サーシャの父親で君のお父さんの友達のダリルと言うんだ。よろしくね」
「は、はいっ！」

美形の父に微笑まれ、ティミアは顔を真っ赤にしながら返事をした。

（分かるわ。お父様って、滅多に見ない美形だものね）

実際、ジルロの様な厳つい顔を見た後でダリルの様な凛々しい美形を見たらそうなるのも分かる。別に、ジルロが不細工な訳ではない。ジルロは高位の貴族だ。その為、顔はそこら辺の貴族より整っていると言ってもいいだろう。ーーだが、鋭い目つきやガタイの良い身体、纏う雰囲気がそれらを感じさせない程に強いのだ。

「一体、どの様な死線を潜り抜けて来たんですか？」と思わず尋ねてしまいたくなる程に。

「では頼む」

そう言って、ジルロは王妃様達の近くに向かう。そうして直ぐに今回の主役の紹介が始まった。

「皆様、今日はお集まり頂きありがとうございます。それでは、今日の主役を紹介したいと思いますわ。ガダル」
「はい」

ミレーヌの言葉と共に、先程まで一緒に居たひよこパンツーーもとい、第二王子殿下が皆の前に出る。

「あっ！サーシャ、あの男の子…」

ガダルを見たティミアは、小さく驚きの声を上げてサーシャを見る。その様子から、どうやらガダルが王子だとは気が付いて居なかったらしい。
普通なら、宰相の娘であり公爵家の娘でもあるティミアなら、幼少期から歳の近い王子の幼馴染みとして側に居るはずだ。

（多分、人見知りな性格のティミアを考慮して合わせなかったんだろうなぁ）

正直、あの我が強い王子と人見知りをするティミアとの相性はかなり悪いだろう。仮に、二人の間に諫める相手を置いたとしても、同じ子供なら王子の言いなり。大人だとしても、相手によっては王子におべっかを使う使えない諫め役になるだろう。

（まぁ、今は私が居るからティミアを泣かせる様な事はさせないけどね）

挨拶をしながらも、チラチラとティミアを見つめるガダルを見ながら「さて、どうしてやろう」かと考えるサーシャであった。