極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました！

No.59

そうして、あてがわれた席について暫く。
中央の舞台に精霊達の明かりが灯り、そこに踊り子の格好をした女性が現れた。
女性は、一度綺麗なお辞儀をすると美しい澄み渡る様な声で話し始めた。

「グラシェール王国に住む皆様、ようこそ『幻想の箱庭』へ！本日は、お忙しい中お越し下さり誠にありがとうございます。本日は、そんな皆様方に我々『幻想の箱庭』一座の私達が、日頃の日常を思わず忘れてしまう様な夢の様なひと時をご提供させて頂きます。どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい」

そう言って、女性は両手を上に伸ばす。
すると、女性を照らしていた精霊達の光が一瞬にして真っ赤な炎に変わり、女性を一瞬にして包み込んだ。

「キャアーー！！」
「おい、燃えてるぞ！」
「事故か！？」

辺りに、一瞬にして人々の悲鳴や驚愕の声が満ちる。

ーーしかし、次の瞬間。

「待って！見て！」
「………いない？」
「えっ…？どう言う事？」

先程まで客席にまで熱風が届く程に熱い炎に包まれていた女性の姿が、一瞬にして舞台から姿を消したのだ。人々は、困惑しながら辺りを見渡す。

すると、何処からか先程の女性の歌声が聞こえて来た。その歌は、誰もが知っている古い子守唄だっ
た。

ーー

そして坊やは　眠りについた

すやすや　母の腕の中で

とても　愛しい

浮かぶ可愛い　我が子の横顔

その身に通う　受け継がれし血筋

我が子となって　訪れたお前

生まれ落ちた　愛しいお前

この手を離れ　旅立つとしても

私は　お前の母だ

どうか　幸せに生きておくれよ

その身に　受け継がれし血筋

どうか　絶やさずに

未来へ繋ぎ　我が子を抱けいだ

ーー

そして、唄が終わった。
誰もが、その唄の余韻に浸っているとーー。

（んっ？）

フワッと瑞々しい花の香りが辺りに漂ってきた。その匂いを辿り、視線を舞台に向ける。
そこには、いつの間には美しい衣装に身を包んだ男女がいた。

「私はダニエル。此方は、相棒のキャシー。これより、私達が皆様を『幻想の箱庭』へとご招待いたします！」

そうダリエルが大声で行った瞬間、サーシャ達は一瞬にして暗いテントから、眩しい太陽が降り注ぐ美しい花畑に立っていた。

「えっ！？」

サーシャは、思わず驚愕の声を上げる。

（何！？さっきまで、確かにテントの中に居たのに…！）

「へぇ…凄いな。サーシャ、落ち着いて。これは幻だよ」
「幻…？」
「そう。多分、さっきの子守唄に幻覚の魔法を仕込んでいたんだ」

成る程。
つまり、最後まで子守唄に耳を傾けていたサーシャ達客は、知らぬ間に一座の魔法にかかっていたと言う訳だ。

（凄い…魔法って、こんな事も出来るんだ）

「それでは、皆様。これより、我々と共に夢の様な時間を過ごしましょう！」

サーシャが感激していると、ダニエルとキャシーによる、一生忘れられない夢の様な時間が始まったのだった。