極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました！

No.86

それから暫くして、ダリルとクリスが会場に戻って来た。それに気が付いたミランダは、ティミアとの会話を終わらせて二人の元へ向かう。

「あっ、ダリル様帰って来たね」
「うん」
「何か分かったのかな？」

表面上は、穏やかに話している様に見える。
しかし、二人の目は何処と無く鋭い輝きを放っていた。そんな二人を見ていると、クリスが此方に向かってくるのが見えた。

（ゲッ…！こっちに来るな～、こっちに来るな～）

面倒な事になりそうな予感がしたサーシャは、心の中でクリスに向かって必死に念を送った。そんなサーシャの想いを察しただろうに、クリスはとても良い笑顔で近付いてきた。

「やぁ、小さなお姫様達。今日の主役である君が、こんな壁際で何してるんだい？」
「少し疲れてしまったので、ティミアと休んでいましたの。それより、殿下こそ此方にいて良いんですか？ほら、彼方に殿下の事を心待ちにしているご令嬢達が沢山いらっしゃいますよ？」

この言葉は嘘では無い。
現に、会場の一角に集まる令嬢達の熱い視線がクリスに向けられていた。

存外に、「サッサとあっちに行け」と伝えるサーシャ。だが、クリスはサーシャの言葉を無視した。

「彼女達の所へは、後で行くよ。それより、未来の義妹に挨拶をさせてくれ。この前の顔合わせでは、会えなかったからね。ーー初めまして、ティミア嬢。私は、クリス・グラシェール。君の未来の義兄になるね」

美貌のクリスに話しかけられて、人見知りのティミアは顔を赤くして固まる。しかし、未来の義兄になる相手の為、吃りながらも必死に話す。

「は、初めましてっ！ガ、ガ、ガダル様の婚約者になりました、ト、トールディン家のティ、ティミアと言います！お、弟さんの事は、必ず幸せにしてみせますっ！」

最後に、男の方が相手の親に言う様な台詞を口にするティミア。どうやら、緊張し過ぎている様だ。

「フフッ！君になら、弟を安心して任せられるよ。私の可愛い弟をよろしくね、ティミア嬢。ーーもしも、弟を悲しませたら………分かってるね？」
「は、はひっ！」

クリスの脅しにも聞こえるその言葉に、震えながら返事をするティミア。
そんな彼女を、クリスはとても楽しそうに見つめていた。

（このドSがっ！私の可愛いティミアで遊ぶなんてっ！！）

「殿下！私の友達で遊ばないで下さい！」
「だって、君の友達がこんなにも可愛らしい弄りがいのある子だとは思わなくて…ついね」

その言葉に、「おい、どう言う意味だ」と聞きたいサーシャであった。