極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました！

No.88 アランside

ガダガダと音を立てながら、整備されていない道を一台の馬車が進む。馬車には、この国の貴族であるアベルシュタイン家の紋章が刻まれており、夜の街を歩く者達は貴族の馬車を避けるように夜の闇に消えていく。

そんな中、馬車に乗っているアランは始終無表情で窓の外を眺めていた。そんな彼に、先程から甘えた声が降ってくる。

「アラン様～」
「………」
「も～！何で無視するんですか？あっ、分かった！私と二人っきりだから緊張してるんですね？」
「………」
「ふふっ！それならそうと、言ってくださいよ～。私、アラン様に無視されたのかと思って凄く悲しかったです」

（無視してんだよ）

目の前に座る煩い子供（先程、聞いてもいないのに自分からマリアと名乗っていた）は、馬車に乗ってからずっとこの調子で、妙に媚びる様な甘ったるい声でアランに話しかけ続けていた。
大切なアランの妹の誕生日パーティーで騒ぎを起こした不届き者と話す事など、アランには一言たりとも無い。

正直、目の前の子供を家に送る為とはいえ、同じ空間に一緒にいる事さえも苦痛だった。

「……もうっ！今回は、特別に許してあげます！次からは、ちゃんと返事して下さね？」

（何で、お前如きに許されなくちゃいけないんだ。そもそも、次なんてあるわけ無いだろ）

アランは、一言も話していない。
それどころか、目すら合わせていない。

それなのに目の前の子供の中では、アランは随分とシャイな人間になっているらしい。

（ある意味才能だな）

「私、来月誕生日なんです！」
「………」
「最近、王都で流行ってる熊のぬいぐるみが欲しいと思ってるんです！」
「………」
「他にもーー」

そうして、自身の欲しい物を次々と上げていくマリア。それを、アランは煩わしく思いながら聞き流していた。

（本当に煩いな。まるでピグー豚みたいだ。……いや、ピグーの方が賢く物分かりが良いな）

そもそも、子供のくせに何という強欲の塊なのだろう。この年頃の子供は、「あれが欲しいこれが欲しい」と直感的に言うものだが、目の前の子供は自分が望めば本気で手に入ると確信していた。

（平民なのに、思考はまるで女王様だな）

仮に、目の前の子供が本当に王族だったら家族揃って国外逃亡していただろう。

「それで、そのドレスを着てアラン様とデートしたいなぁ～…って、思ってるの！その後にーー」

（早く着いてくれ…）

未だ止まぬマリアの妄想を聞きながら、アランは切実にそう思った。