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No.89

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王都の外れの森に近い所に古い屋敷があった。
その屋敷は、かつて男爵家が住んでいたが男爵家当主が亡くなり後継が居なかった為に男爵家は無くなり、今は誰からも忘れられた無人の屋敷だった。

そんな誰もいない筈の屋敷から、大きな音が辺りに響き渡った。

「うるせぇー!!何時迄もピーピー泣いてんじゃねぇぞ!」
「っ…!」

ガラの悪い男はそう怒鳴って目の前の檻を蹴る。
ガンッ!と言う音に、檻の中に居た数人の子供達が怯えながら身を寄せ合う。

「………ったく、一体何時までこんなガキ共を見てなくちゃいけねーんだよ。檻の中にいるんだ、ガキ共に逃げる事なんて出来る筈ねーのによ」

そう言いながら、男は残されていたソファーに座り安い酒を飲む。

「大体、こんだけ居ればもう充分だろーが。それなのに、まだ出発しないってどう言う事だよ」

そうして、暫く愚痴を漏らしていた男はイビキをかきながら眠った。

「…寝た?」

檻の中に居た7歳くらいの赤髪の女の子が不安そうに話す。

「………もう大丈夫だ。アイツは眠ったよ」

子供達の中で一番年長の少年が、周りの子供達を自身の周りに集める。

「ほら、さっきのご飯じゃ足りないだろ?オレのパンを皆んなで分けて食べな」
「………でも、ロイ。昨日も何も食べてないでしょう?」

そう言って、赤髪の少女が心配そうに尋ねる。ロイと呼ばれた少年は、明るく笑いながら言った。

「オレは、大きいから少し食べなくても大丈夫。それより、チビ達はしっかり食べないと」

そう言って、目の前にいる三人の5~6歳位の子供達を見る。

「ほら、しっかり食べろよ。じゃないと、逃げる時に力が入らないからな。皆んなで仲良く分けろよ」

そう言って、ロイは少し大きめのパンを赤髪の少女に渡す。

「私は昨日、自分の分を食べたから大丈夫。だから、ロイと皆んなで食べて」

そう言って、少女は四等分にしたパンを四人に渡す。

「………ありがとな、ロザリー」
「…別に。ロイには、沢山助けられてるから。ロイがいなきゃ、私達あの男の人に酷い事されてたわ」

その時、子供の一人がロイに向かって泣きそうな声で話しかける。

「ねー、ロイ」
「どうした?」
「ママにあいたい…」
「ボクも」
「わたしも…」

子供達の願いに、ロイは子供達一人一人の目を見て優しく笑った。

「………大丈夫、必ずママに会わせてやるから。もう少し我慢しような」

その言葉に、ロザリーを含めた子供達は安心した様に頷いたのだった。
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