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魔力量を理由に婚約破棄されたのですが、愛のない結婚なんて興味ありません ③

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それから、私はルーカス様と魔法のお話をしてその日のお見合いは終わった。


 意外と彼の話は面白く、特に魔法の知識量には宮廷魔導師を父に持つ私ですら、驚かされた。

 時間はあっという間に過ぎ、少し名残惜しく思ったが、次に会う約束はされなかった。

 お誘いは基本的に男性からするもので、女性が声をかけるのはマナー違反なのだ。別に好きになったと言う訳ではないのだけど、もっと話をしたいと感じていたので少しだけそれを寂しく感じていた。




 だが、その数日後、意外なところで再会する。


 学校で私は教員から資料を取ってくるように頼まれて、上級生の教室へと向かっていた。何でも、前の授業で置き忘れたのだとか…

 そんなもの、自分で取りに行きなさいよ!
と、悪態つきながら上級生がいる棟へとやって来た。


「捨て子のルーカス君。今日は何の魔導書を調べるんだい?」


 私は教室に入ろうとして、嫌みったらしい声に部屋の前で立ち止まる。扉を少しだけ開いて教室の中を覗く。

 教室の中には数人の学生しかおらず、1人の学生を3人の男子学生が囲んでいる。その囲まれている学生がルーカス様だったのだ。

「おい、答えろよ。」

「…」

  ルーカス様は何も答えない。

「フン!いくら調べたって、お前が両親と違う属性なのに変わりはないぞ。捨て子は捨て子なんだからな!」

 ルーカス様を馬鹿にしたような笑い声が、静かな教室に不快な音として響く。それでも、ルーカス様は黙ったまま何も返さない。お見合いの時とは全くの別人のようだった。

「…」

「また、だんまりかよッ」

 1人が拳を振り上げるので、私は扉を勢いよく開いた。大きな音が鳴り、上級生たちもさすがに驚いてこちらを見る。


「チッ…」


 彼らはルーカス様に舌打ちをすると、そのまま教室から出て行った。

 私はルーカス様と視線が合い、何だか気まずくなる。


「ご、ごきげんよう。ルーカス様。」

「ごきげんよう。」

「大丈夫ですか?」

「ああ、いつものことだから」


 そういうルーカス様の表情は暗い。


「それよりも、どうして貴女がここに?ここは上級学年の棟だよ?」

「教員が資料を忘れたらしくて、取りに来たのですわ。」

 言うとルーカス様は教壇の方を見て、指を差す。

「あれじゃない?」

「多分そうですわね。」

 さっさと用事を済ませて行けよと言っているのだろうが、私は気になったことをそのままにできる性格ではなかった。

「ルーカス様って年上だったのですね。」

 私の言葉に虚を突かれた顔をするが、すぐにムッとした顔に変わる。

「何それ。僕が、年下にでも見えたんですか?」

「いいえ、同じ年だと思っていたので少々意外でした。」

「同じ学年なら、あの時が初対面なはずないでしょうに」

「それもそうですわね。」

 呆れた様子のルーカス様に私は笑って返した。

「その本は魔導書ですか?」

 ルーカス様の手にしている本を見て、私が尋ねると彼は嬉しそうに頷いた。

「ずっと読みたかったのだけど、どこにも出回っていなくて…やっと手に入った文献なんだ。」

「そうでしたの。内容は…属性とその遺伝について…ですか?」

 私が文献の題名を読み上げると、ルーカス様は自嘲する。

「さっきの聞こえていましたよね。」

「…ええ。」

「僕の父は火と光属性のデューエで、母が水属性なんですが、僕は地と氷属性のデューエなんです。可笑しいでしょ?」

「…全く。」

「え?」

「全然可笑しいことなんてありませんわよ?」

 私の言葉にルーカス様は驚いている様子だった.

「そんなこと言うの、貴女が初めてですよ。」

 ルーカス様は呆れたように笑うのだが、それは少しだけ嬉しそうに見えた。

「…ルーカス様はそういう系統の魔導書を集めていらっしゃるの?」

「いや、魔法について知るのは楽しいから、新しい文献は片っ端から読み漁っているよ。」

 魔法の話になると途端に、口調が砕けて楽しそうに話すルーカス様は何だか可愛らしいと思う。大人びた印象なのに、こういう時の彼は子供っぽい。だから、私は彼が同じ年だと思ったのかもしれないなと感じた。

「今日、お時間あるかしら?」

「ない、という訳じゃないですが、内容によりますよ?」

 こういうはっきりとした物言いが、私は案外嫌いじゃないと思う。何かを隠されるよりも余程良い。

「私の家ならルーカス様が手に入れられない文献も多いかと思いまして、お招きしようかと思ったのですが」

「ほ、本当!?良いのかい!?」

 手を握られて詰め寄るルーカス様に私は驚いて一歩下がった。まさか、ここまで喜ぶとは予想外だったのだ。それならと、私は良いことを思いつく。

「ですが、一つ条件が…」

「な、なんですか?」

 手をスッと解いて私は視線をわざと下に向ける。嫌な予感がしたのだろう、彼は苦い顔をしている。

「貴女ではなく、エミリーと呼んでいただけませんか?できれば敬語も止めて欲しいです。」

 上目遣いに言うと、一瞬呆けた様な顔をしたルーカス様だったがすぐに頷いた。彼の中で魔導書を読みたい気持ちが勝ったのだろう。

「わ、分かった。あなた…え、エミリーがそう望むならそうするよ。」

「ありがとうございます。」

「エミリーも同じようにしてくれないか?」

「良いのですか?」

「ああ、何だかその方が君らしくて良いから。」

 素で言われて私は頬が熱くなった。何だか照れくさくなる。

 こんな気持ちはちょっと初めてかもしれない。私はそう思ったのだった。



 その日は、ルーカスも馬車に乗せて一緒に家へと帰った。


 待っていた母は私が連れて来た相手を見て、ずっとニヤニヤと楽しそうに見ている。そういう関係ではないのだけれど言っても無駄だろうと思い、勉強するからと言って私は母を書斎から追い出した。

「すごい!こんなに魔導書が…」

 書斎を見てルーカスはとても興奮気味に、あちらこちらと見て回っていた。

「好きなものを読んで大丈夫よ。許可はもらっているわ。」

「ほ、本当に!?」

「ええ。持ち出しできないものもあるけれど、貸すこともできるわ。」

「え?良いの!?」

 頷くとルーカスは目をキラキラさせて、気になるところから本を手に取る。そして読み始めると、私のことなんて忘れてしまったように没入していた。

「あら。あなたたち、すごい集中力ね。」

「あれ?お母様。」

「ほらほら、夕食の時間よ。」

「もうそんな時間…」

 隣を見るとそこには本に集中して、こちらのことに一切気付いていないルーカスの姿。ポンと肩に手を触れて、呼んでみるが気づかない。

「ルーカス!」

「…」

 私が声をかけても気付かないルーカスに、お母様がクスクスと笑う。

「こういう時はね…」

 母が私に耳打ちをするのだが、その内容に私は首を左右に振る。

「えっ!そ、そんなことできません。」

「えー、どうして?クルスはそれで仕事の手を止めるわよ。」

 そりゃあそうでしょうね。と、じと目で見ていると、じゃあ私がやるからと母が言い出すので、私は慌ててそれを止める。

 仕方なく私は母に言われたことを実行に移した。

 手をルーカスの肩に置いてルーカスの耳元に顔を近づける。手を置かれても気付かない程の集中力って…と呆れながらもドキドキする心臓をうるさく感じた。

「る、ルーカス。読むのを止めないと…き、キスするわよ。」

「ふぇ?」

 何とも間抜けな声を上げて、ルーカスは椅子から転げ落ちる。

 私は恥かしくて耳まで真っ赤に染めたが、どうしてここまで私がしなきゃいけないのかと、同時に目の前の魔道マニアに腹を立てた。頬を染めながらも怒る私に、呆気にとられつつも状況を理解してきたルーカスもまた耳まで真っ赤に染める。


 そんな様子を母だけが楽しそうに、涙まで流して笑っていた。
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