意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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10.寮祭、そして

141.寮内大騒ぎ

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 寮祭を開くに当たって、執行部では『クオリティを高める』と決めた。
 正直、尾形会長も橋田雅史ぼくも、積極的な意見はひとつも出していない。姉崎が強引に、そう持って行ったのだ。
 学祭ノリNG。素人のお遊びじゃなく事業として収益を上げる。
 といっても専門的な展示などは、もちろん各学部やゼミのやることに敵うわけがない。模擬店をやるにしても、メインストリートにあってカワイイ女の子が売り子をしている屋台の方が絶対的に有利。
 だが逆に、この寮ならではなところがあるんじゃない? と言い出したのは姉崎だ。
「いっそプロの店を目指す感じでさ、落ち着ける感じにしちゃうってのはどうかな。ただでさえ学祭なんて雑然とするんだからさ、そこで差別化していこうよ」
 いつもの、アメリカの政治家みたいな仕草と演説口調で。
「うちの施設部ってプロ並みの仕事出来るんだしさ、見た感じもキレイに造れるでしょ。寮生にはコーヒーオタクからアニメオタクまで色々いるし、やれることってかなりありそうだと思わない?」
 とはいえ場所は寮内と駐車場のスペースしか無い。そのなかでどうやるというのか。
「資材とかレンタルして、安っぽくない空間を作っちゃおうよ。資金は僕が引き出すしさ、この寮ならできるでしょ」
 いつもの笑顔で自信満々に言い放つ。
「色々回って疲れたなあ、なんてひとがココで一休みできるようにしちゃうんだよ。ていうかいっそ、ココを拠点にしてもらうっていうのは? 他を見ても、結局戻って来るようにとか、できるんじゃないかな。瀬戸が言ってた荷物預かり、良いじゃない。それならいっそ休める部屋まで作ってさ、盗難とか気にせずゆったりできるように、保守が警備をやるとか。いっそのことSPみたいなカッコで睨みをきかせるとかカッコ良くない? ああ、それにホラ、柔道部や医学部の人材で、マッサージとか、安らげる空間作りとかさ。どう? 出来ること一杯あるでしょ」
 しかし姉崎一人の意見を通すわけにも行かないと、全寮に向けてアンケートや聞き取り調査をした。もちろん反対意見は出た。あくまでお祭り、強制参加させるようなものでは無いし、筋が違わないか、と言う声だ。
 しかし姉崎はあくまで主張を変えずにアナウンスを続けた。
「ねえ、本気でやろうよ。お祭りじゃ無く事業としてさ。スタッフには時給を払ってもいい。だから真剣にやって利益を出そうよ。善意に頼って成功を願う、なんて甘いコト言って失敗したらどうするの。絶対成功させるためにできることは全部やろうよ。今回の成否は寮の将来を左右するかも知れないんだよ? なのに不確定なことなんてやってられないよね」
 最初の発案とは方向が違っているんじゃないかと会長も雅史も言ったのだが、姉崎は強硬に意見を通そうとした。
「ここでしっかり利益を上げて、賢風寮の存在価値をアピールしておかないと、あのおじいちゃんたち、この寮潰しちゃうかも知れないよ?」
 ずいぶん頑なになっているな、と雅史は思った。ヘラヘラ笑っているくせに目が妙にマジになっているのだ。おそらく風聯会でなにか言われてムキになっているのだろう。
 そして「無料奉仕では満足いく結果を得られない」とした姉崎は、準備段階から時給を出すという驚くべき意見を出した。
 確かに財源はある。
 エアコン設置で出た余剰金、そして上げた寮費をプールしていた分。
 テストケースで設置のノウハウを得て、各階に1台大型機を設置したこと、既存の配管を利用出来たこと、OBの好意などにより資材費が抑えられたことにより、予算よりかなり低額に設置出来たのだが、余剰分は会計でプールしている。初めてのことで、今後なにが必要になるか分からないからだ。
 ランニングコストも試算より低く抑えられていて、エアコンがフル稼働した夏の間の費用は、なんと夏の間に回収出来てしまった。つまり秋以降、値上げした分もプールされていたのだ。それを使おうと言いだしたときには、試算済みの計画表を持って来た。
 そんなの通らないだろうという大方の見方は裏切られ、姉崎は藤枝を連れて風聯会事務局へ日参し、ちゃっかり許可を引き出した。
「赤字が出たとしても、寮の食事が貧しくなるだけだからな。やってみろ」
 と言わせたらしい。
 結果、短期バイトとして、まあまあ悪くない時給を出せることとなり、姉崎は早速それをアナウンスした。
「マジ? 時給出ンの?」
「そんなら俺もやるかな」
「そういうことならバイト休んでもいいな」
 といった反応を呼び、参加するよという人員は増えた。オタク連中のノリは元々良かったのだが、バイト代が出るんならちゃんと仕事するよ、というやつも少なくなくて、完成度は格段に上がった。
 こうなると無償労働を主張する方が非難を浴びる流れだ。
「どうせならやりきろうぜ!」
「事前に宣伝もしとくか」
「情報施設部でネット使ってやるよ」
「おまえら行きつけの店にチラシ貼らせてもらえ!」
 ……どうもこういうのが、賢風寮のノリになってしまったらしい、と無償を主張していた面々も苦笑いで受け入れ、そうして最終方針が決まった。
 そしてあくまで傍観していた雅史は、それらのすべてを貴重な資料として記録したのである。


 寮祭の準備が本格的に始まった。
「コレは事業だよ。アマチュアのノリは忘れてね」
 とか姉崎は言ってたけど、最初はみんな「つっても寮祭じゃんね?」なんて笑ってたんだ。
 けど蓋開けたら、マジでお祭りのノリじゃねえなって感じになってる。だって寮祭の間は部外者入れることになって、ツレだろうが女の子だろうが寮内に入って良いんだもん。
 寮生以外みんな、賢風寮はボロくて最悪だと思ってるわけで、それはある意味事実ではあるんだけど、そりゃ「ちっげーよ!」とか言いたいじゃんね?
 だって寮祭やる、来いよ、とかって話すと決まって
「え~? いいよ~。どうせ熱っ苦しくてダサいことしかしないんでしょ?」
「つうかあんなボロいとこ行って、床とか大丈夫かよ」
「怪我とか病気とかなりそう、そそられねえ~」
 なんて言われるんだ! そんなん黙ってられっか!!
「賢風寮バカにすんなー!」
 とか先頭立って騒いでんのは俺だったりする。
 さらに作業に入る前、統括やってる橋田んトコに提出しておけば時給出るんだ。嘘の申告しても他の連中から必ずツッコミ入るし、執行部で監視してきっちりつけてて、ズルしたら嘘申告の時給全額支払えってペナルティが課せられる。なんでリスク高すぎってコトで、みんなちゃんとやってるぽい。
 寮祭やるって言い出したのも「お祭り気分じゃなく事業だ」なんて言ったのも姉崎。だけど俺とおんなじに騒ぐ奴らが勢い増してったんだ。
「ぜってーダサいとか言わせねえ!」
 的な感じで超盛り上がり、あれやろうぜ、ココもっとカッコ良くしようぜ、なんて感じでそれぞれ勝手にやり始めちまった。
 風聯会から資金降りてるとはいえ、使い放題なのは施設部で一括購入した資材だけ。会計は相変わらず細かいから個人で「これ買ってイイ?」なんてのは軒並み却下されてたり、そんでも言いに来る奴は後絶たないってんで会計も忙しそう。つうか会計室から時々安宅さんの叫びが聞こえてくる。
 つか最初はそこまで大がかりじゃなかったんだよ。ただ廊下に露出してる配線なんか、部外者が切ったら大変だからなんとかするかとか、ガムテとかで適当に補修しただけだったトコも見栄え良くしとくか程度の、これまで放置だった色々キレイにしようぜ! つう声があっただけなんだよ。
 けどやり始めたら
「ここも塗るとか」
「コッチもこうしたらキレイになるし」
「いやむしろこうしたらカッコ良くね?」
 なんて感じで、あらゆる現場でどんどんやること増えてく。かなりボロかった集会室なんて、床張り変えて壁磨いて家具類も磨いたり、かなり大がかりなコトになってる。廊下の端には配線とか収納するガードがついて、スッキリしたし掃除もしやすくなった。一年が配線切るのは掃除のときに引っかけるのが殆どだったんだけど、来年度からそういう事故も無くなりそう。
 で、OBも手伝いに来てくれてる。卒業したばっかの先輩たちとか特に。
 社会に出てからの愚痴とか自慢とか、そんなん言いたいっぽいのもあるみたい。そんで、もれなくお土産つう名の酒や食いもんもついてきて、作業終わった後とか、食堂や娯楽室でしょっちゅう酒盛りしてるし、落ちつきないつかみんな浮かれてるつか。
 寮全体がそんな感じになってるんだけど、キレイになるのはイイことだろ? そりゃもう、当然のこと。
 賢風寮を元気にするのが俺の目標なんだから、だから目一杯協力するしかねえよな。
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