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16.鉄とオーク
204.新たな展開
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庄山さんちは豪邸だった。
街中の交通の便も良い場所にあって、敷地もかなり広い。金持ちだってのは聞いたことあったけど、庄山さんってボンボンな感じ皆無だし、あんま実家の話なんてしないし、めちゃ意外。
「藤枝、久しぶりだな。元気だったか」
相変わらず悪い公務員に見える庄山さんは、ある意味不老。大学時代とあんま変わってない。まあTシャツジーンズって格好のせいかもだけど。メガネは高そうなのに変わったかな。
ビックリするほど広い玄関先でしゃべってたら、庄山さんのお母さんが顔出したから挨拶して、「お茶でもいかが?」なんて、和やかな雰囲気になりかけたら、庄山さんが空気ぶった切る感じで言った。
「まず現場を見てもらおうか」
ちょい不満そうなお母さんに「仕事中なんで、失礼します」とかって先輩に着いてく。てか勤務時間中だし、お茶飲んで和んでるヒマねえし、お母さんゴメンナサイ。
んで庭の一角にある建物へ案内された。
「まあ見てくれ、まだ建築途中だが……これが完成予定図だ」
とかって、着色されたパース絵を見せられながら、外装はだいたい出来てる店舗に案内された。ログハウスって感じの、なかなかカッコイイ建物だ。けど内装はコレから。
「いや、イメージはあるんだが、予算の関係で、まだ手をつけてない」
「イメージってどんな?」
「オーガニックレストランだから、ナチュラルな自然素材を使いたい。年輪を経て味わいを持つに至った家具が理想なんだが、アンティークで探すとなると気に入ったものは高価で、しかも揃わない」
「別に同じテーブル並べなくても良いんじゃないの? 色んな家具があるっていうのもカッコイイんじゃない?」
そんで姉崎も偉そうに言う。まあ出資者らしいからしょうがねえけど。
「てかさ、別にホンモノのアンティークじゃ無くても、古い感じは出せるよ。つうか、うちの家具ってなったらそれなりの値段になっちまうけど、……具体的なイメージあった方が分かりやすいよね」
とか言いつつモバイル立ち上げる。
「ナチュラルっていうなら普通は白木だよね。でも使い込んだ感じも欲しいってんならアンティークよりカントリー系じゃねえかな。……ホラ、こんなんとか」
家具の画像を出してモニターを見せる。庄山さんは「ほう……」とか呟くみたいな声出して見てる。その顔見て、(この反応はイケる)と思い、次々画像を展開する。
「古っぽい雰囲気が良いなら、こんな加工も出来る。色はどんな? 赤っぽい感じ? それとも黒っぽいのかな。胡桃色てか、こういうのも人気あるけど、ナチュラルってイメージに合う? あと、ちょい少女趣味入るけど、グリーンとかブルーもイイよ。わざと雑な作りに見せて、でもしっかり作ってるから百年使える。うちの家具はそういうコンセプトで作ってるから」
ついつい営業トークぶちかましちまったのは、もはや習性で、こうなると止まらない。
「手入れはきちんとしなきゃだけど、その手間惜しまなきゃ長く使えるって保証する。うちでアフターフォローもするし。……予算はどれくらい見てる? ここならテーブル四台、いや五台置けるか。カウンターも作る? それは内装屋さんがやるだろうけど、塗装とか仕上げだけうちの職人にやらせれば、統一感は作れる。店舗ならそういうの大事だろ? ……てか予算は?」
あっけにとられてみてた庄山は、「……ああ」なんとか正気を保ちつつ本職モードに戻る。
「建物にかかった経費がこれ。内装と什器はコレくらいに抑えたいと思っている。冷蔵庫やサーバー、ガスなんかも含めてだから、実質テーブルや椅子に使えるのはこれくらいになってしまうな」
慣れた感じで電卓を叩き、見せてくる。
「おまえの所の家具は高いんだろう。この予算で出来るのか。見せてもらった中なら、……こんな感じが良いと思うんだが、この予算で可能か?」
「あ~……」
数字を見せられて言葉に迷う。六田家具で作るなら無理な予算だったから。
けどイメージは掴めた。うちならきっと満足出来るものを納入出来る。そういう確信があった。けど、安売りは出来ない。
「あ……?」
閃いた。
そうだ、これなら予算内に収められる、かも……?
浮かんだ考えに、ニカッと笑ってモニターを自分に向けて画像を探す。
「庄山さん、相談なんだけど」
「なんだ」
「このイメージなんてどう?」
そして探し出した画像を庄山へ見せた。
あのテーブル、大鳥さんと照井さんが作った、あのテーブルだ。ちょいイメージは違う。けどオーガニックレストランになら、合うようにも思えた。
「色はイメージに合わせられる。庄山さんがイイって言った赤っぽい色にもできるよ。ただ、椅子もテーブルも脚は鉄になるし、材はコッチで選ばせてもらう。そんで取材とか受けてもらう」
「……取材?」
「うん、それでいいなら、予算内に収めてやれると思う。雑誌とかウェブサイトの取材。この店、うちの家具のプロモーションに使わせてもらう。お客さんに実物のイメージ掴んでもらうために連れてくることもあるかも。それ呑んでくれるなら値引きできる。予算内に収められると思うよ」
大鳥さんと照井さんは六田家具の社員じゃない。けど彼らが作る家具の販売はうちでやりたいって考えてる。リスク少なく利益上げられるんだから、社長も部長も乗り気だけど、決定には至ってない。うちの家具、つまり社長の作品とは、売り出し方が全く違ってくるだろうから、どうやってプロモーションするかって部分で。あんま経費かけられないし。
でもそこにコノ店を使えるなら、このラインの家具をうちで販売する流れに持ってけるんじゃねえの?
彼らの工房には使える材が既にあるし、うちよりかなり安く作れる。なにより強みは、輸送費を考えなくて良いってトコだ。元々町のトラックで関東圏に出荷してたの、そのまま使えるから、大鳥さんたちの家具は輸送費込みで受注出来るのだ。さすがに九州や沖縄ってなったら厳しいけど、この辺りまでは許容範囲って町長にいわれてるし。
そしてなにより、大鳥さんに客対応ってのやって貰った方がイイと思ってたんだ。
『てっちゃんは、自分のやりたいことが一番になっちゃってんスよ。お客さんに気に入ってもらうより、自分のイメージを形にすることのが先に来てるってか。俺の作ったモノはイイだろう、気に入るだろう、みてーな感じで』
なんて半沢が零していたのだ。
独りよがりじゃなく、使うひとを考えて作る。家具ってのはひとが使うモンなのに、ソコが大鳥さんには足りない。照井さんは自分からなにをやりたいって言うひとじゃないし、基本大鳥さんの言いなり。でも物づくりするときは顧客ってビジョンを掴もうとするようだから、問題は大鳥さんだ。
つまり彼らにとっても、お客さんと顔つき合わせてニーズを呑むってことが良い経験になるんじゃねーかな?
「しかし……」
「どう、庄山さん。うちの都合で店を使わせてもらうことになるとは思うけど」
「…………」
庄山さんは、眉根に皺寄せて考え込んでる。
「このセンでイケるなら、俺が責任持って会社説得する。予算内に収めれると思うよ」
迷ってる。どこで迷う? デザインか? それとも予算? 取材が入るのは困るってトコかな?
ジリジリしながら、黙って顔を見てる目の前で、姉崎が庄山さんの肩をポンと叩いた。
「な~に、このデザイン気に入らないの?」
「いや……。そういうわけじゃない。だが……取材が入るというのは……」
「なに言ってるの。取材に来てくれるなんて、ありがたいじゃない? 勝手に宣伝してくれるってコトでしょ」
「宣伝など……それより……」
「ああ~、そうか! 家がうるさいっぽい?」
企んでる笑顔になってる姉崎は、大袈裟な動きで庄山さんの肩を抱くようにした。
「だよね、こういう古くからある家って、面倒な事言いがちだよね。藤枝、ちょっと失礼」
そのまんまコッチに背を向け、少し離れてコソコソ話してる。
なんだ、なにやってる。家って、さっき見た豪邸のこと? どゆこと?
なんてキョドってたら、「あ~、分かった、放せ!」庄山さんが怒鳴って姉崎の手を振り払う。
「それでいい、ひとまずな!」
姉崎を睨んでからコッチに顔向けて、庄山さんは言った。
「藤枝、とにかく少し時間をくれ。こっちも色々あるんだ」
「もちろん即決しろなんて言わないッスよ。俺も調整することあるんで」
「分かった。連絡する」
「はい、お待ちしてます」
「庄山さんが落ち着いたら、僕から連絡入れるよ~」
「黙れ! おまえ何様だ!」
「出資者様~」
ハハッと笑い声を上げる姉崎は、なんか前よりずっと、ホントに楽しそうに笑い、庄山さんは苦虫を噛みつぶしたような顔を、手に持ったタオルで扇いでいた。
街中の交通の便も良い場所にあって、敷地もかなり広い。金持ちだってのは聞いたことあったけど、庄山さんってボンボンな感じ皆無だし、あんま実家の話なんてしないし、めちゃ意外。
「藤枝、久しぶりだな。元気だったか」
相変わらず悪い公務員に見える庄山さんは、ある意味不老。大学時代とあんま変わってない。まあTシャツジーンズって格好のせいかもだけど。メガネは高そうなのに変わったかな。
ビックリするほど広い玄関先でしゃべってたら、庄山さんのお母さんが顔出したから挨拶して、「お茶でもいかが?」なんて、和やかな雰囲気になりかけたら、庄山さんが空気ぶった切る感じで言った。
「まず現場を見てもらおうか」
ちょい不満そうなお母さんに「仕事中なんで、失礼します」とかって先輩に着いてく。てか勤務時間中だし、お茶飲んで和んでるヒマねえし、お母さんゴメンナサイ。
んで庭の一角にある建物へ案内された。
「まあ見てくれ、まだ建築途中だが……これが完成予定図だ」
とかって、着色されたパース絵を見せられながら、外装はだいたい出来てる店舗に案内された。ログハウスって感じの、なかなかカッコイイ建物だ。けど内装はコレから。
「いや、イメージはあるんだが、予算の関係で、まだ手をつけてない」
「イメージってどんな?」
「オーガニックレストランだから、ナチュラルな自然素材を使いたい。年輪を経て味わいを持つに至った家具が理想なんだが、アンティークで探すとなると気に入ったものは高価で、しかも揃わない」
「別に同じテーブル並べなくても良いんじゃないの? 色んな家具があるっていうのもカッコイイんじゃない?」
そんで姉崎も偉そうに言う。まあ出資者らしいからしょうがねえけど。
「てかさ、別にホンモノのアンティークじゃ無くても、古い感じは出せるよ。つうか、うちの家具ってなったらそれなりの値段になっちまうけど、……具体的なイメージあった方が分かりやすいよね」
とか言いつつモバイル立ち上げる。
「ナチュラルっていうなら普通は白木だよね。でも使い込んだ感じも欲しいってんならアンティークよりカントリー系じゃねえかな。……ホラ、こんなんとか」
家具の画像を出してモニターを見せる。庄山さんは「ほう……」とか呟くみたいな声出して見てる。その顔見て、(この反応はイケる)と思い、次々画像を展開する。
「古っぽい雰囲気が良いなら、こんな加工も出来る。色はどんな? 赤っぽい感じ? それとも黒っぽいのかな。胡桃色てか、こういうのも人気あるけど、ナチュラルってイメージに合う? あと、ちょい少女趣味入るけど、グリーンとかブルーもイイよ。わざと雑な作りに見せて、でもしっかり作ってるから百年使える。うちの家具はそういうコンセプトで作ってるから」
ついつい営業トークぶちかましちまったのは、もはや習性で、こうなると止まらない。
「手入れはきちんとしなきゃだけど、その手間惜しまなきゃ長く使えるって保証する。うちでアフターフォローもするし。……予算はどれくらい見てる? ここならテーブル四台、いや五台置けるか。カウンターも作る? それは内装屋さんがやるだろうけど、塗装とか仕上げだけうちの職人にやらせれば、統一感は作れる。店舗ならそういうの大事だろ? ……てか予算は?」
あっけにとられてみてた庄山は、「……ああ」なんとか正気を保ちつつ本職モードに戻る。
「建物にかかった経費がこれ。内装と什器はコレくらいに抑えたいと思っている。冷蔵庫やサーバー、ガスなんかも含めてだから、実質テーブルや椅子に使えるのはこれくらいになってしまうな」
慣れた感じで電卓を叩き、見せてくる。
「おまえの所の家具は高いんだろう。この予算で出来るのか。見せてもらった中なら、……こんな感じが良いと思うんだが、この予算で可能か?」
「あ~……」
数字を見せられて言葉に迷う。六田家具で作るなら無理な予算だったから。
けどイメージは掴めた。うちならきっと満足出来るものを納入出来る。そういう確信があった。けど、安売りは出来ない。
「あ……?」
閃いた。
そうだ、これなら予算内に収められる、かも……?
浮かんだ考えに、ニカッと笑ってモニターを自分に向けて画像を探す。
「庄山さん、相談なんだけど」
「なんだ」
「このイメージなんてどう?」
そして探し出した画像を庄山へ見せた。
あのテーブル、大鳥さんと照井さんが作った、あのテーブルだ。ちょいイメージは違う。けどオーガニックレストランになら、合うようにも思えた。
「色はイメージに合わせられる。庄山さんがイイって言った赤っぽい色にもできるよ。ただ、椅子もテーブルも脚は鉄になるし、材はコッチで選ばせてもらう。そんで取材とか受けてもらう」
「……取材?」
「うん、それでいいなら、予算内に収めてやれると思う。雑誌とかウェブサイトの取材。この店、うちの家具のプロモーションに使わせてもらう。お客さんに実物のイメージ掴んでもらうために連れてくることもあるかも。それ呑んでくれるなら値引きできる。予算内に収められると思うよ」
大鳥さんと照井さんは六田家具の社員じゃない。けど彼らが作る家具の販売はうちでやりたいって考えてる。リスク少なく利益上げられるんだから、社長も部長も乗り気だけど、決定には至ってない。うちの家具、つまり社長の作品とは、売り出し方が全く違ってくるだろうから、どうやってプロモーションするかって部分で。あんま経費かけられないし。
でもそこにコノ店を使えるなら、このラインの家具をうちで販売する流れに持ってけるんじゃねえの?
彼らの工房には使える材が既にあるし、うちよりかなり安く作れる。なにより強みは、輸送費を考えなくて良いってトコだ。元々町のトラックで関東圏に出荷してたの、そのまま使えるから、大鳥さんたちの家具は輸送費込みで受注出来るのだ。さすがに九州や沖縄ってなったら厳しいけど、この辺りまでは許容範囲って町長にいわれてるし。
そしてなにより、大鳥さんに客対応ってのやって貰った方がイイと思ってたんだ。
『てっちゃんは、自分のやりたいことが一番になっちゃってんスよ。お客さんに気に入ってもらうより、自分のイメージを形にすることのが先に来てるってか。俺の作ったモノはイイだろう、気に入るだろう、みてーな感じで』
なんて半沢が零していたのだ。
独りよがりじゃなく、使うひとを考えて作る。家具ってのはひとが使うモンなのに、ソコが大鳥さんには足りない。照井さんは自分からなにをやりたいって言うひとじゃないし、基本大鳥さんの言いなり。でも物づくりするときは顧客ってビジョンを掴もうとするようだから、問題は大鳥さんだ。
つまり彼らにとっても、お客さんと顔つき合わせてニーズを呑むってことが良い経験になるんじゃねーかな?
「しかし……」
「どう、庄山さん。うちの都合で店を使わせてもらうことになるとは思うけど」
「…………」
庄山さんは、眉根に皺寄せて考え込んでる。
「このセンでイケるなら、俺が責任持って会社説得する。予算内に収めれると思うよ」
迷ってる。どこで迷う? デザインか? それとも予算? 取材が入るのは困るってトコかな?
ジリジリしながら、黙って顔を見てる目の前で、姉崎が庄山さんの肩をポンと叩いた。
「な~に、このデザイン気に入らないの?」
「いや……。そういうわけじゃない。だが……取材が入るというのは……」
「なに言ってるの。取材に来てくれるなんて、ありがたいじゃない? 勝手に宣伝してくれるってコトでしょ」
「宣伝など……それより……」
「ああ~、そうか! 家がうるさいっぽい?」
企んでる笑顔になってる姉崎は、大袈裟な動きで庄山さんの肩を抱くようにした。
「だよね、こういう古くからある家って、面倒な事言いがちだよね。藤枝、ちょっと失礼」
そのまんまコッチに背を向け、少し離れてコソコソ話してる。
なんだ、なにやってる。家って、さっき見た豪邸のこと? どゆこと?
なんてキョドってたら、「あ~、分かった、放せ!」庄山さんが怒鳴って姉崎の手を振り払う。
「それでいい、ひとまずな!」
姉崎を睨んでからコッチに顔向けて、庄山さんは言った。
「藤枝、とにかく少し時間をくれ。こっちも色々あるんだ」
「もちろん即決しろなんて言わないッスよ。俺も調整することあるんで」
「分かった。連絡する」
「はい、お待ちしてます」
「庄山さんが落ち着いたら、僕から連絡入れるよ~」
「黙れ! おまえ何様だ!」
「出資者様~」
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